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第三十八話 そして刃は貫いた

ちくしょう……!!俺は……どうすればいいんだ……!!




「は~い!時間切れ~!!」


ヤツがそう言うと同時に、俺の身体に再び重みがのしかかる。


ヤツの手には、あの忌まわしき聖具が取り戻されていた。


「くっ……そぉ……!!」


結局俺には、ブライトを切り捨てることは出来なかった。


……仕方ないじゃないか。

彼の命と引き換えの勝利に何の意味がある。それはもはや敗北と同義だろう。


でもそんなのは言い訳に過ぎない。状況を打開する策、それを考えつけなかった俺がすべて悪いのだ。俺はとんだ能無しだ。


その時、失意と無力感に塗れた俺のもとに一筋の光が差し込んだ。


しかしそれは希望の光ではなく、絶望の光だった。


「すみませんでした、ノイアーさん。私はもう聖具を破壊しません。」


シルヴィアさんの言葉、それは事実上の敗北宣言だった。


「お、おい!シルヴィア!!」


それを聞いたブライトは必死に制止しようとする。だが彼女はそれを物ともせず、言葉を続けた。


「私は二度とあなたに逆らいません。私は生涯をかけて、あなたのために尽くさせていただきます。……ですから、彼をこれ以上傷つけないでください。彼らを解放してください。どうか、お願いします。」


言ってしまった。


……それじゃあ、俺たちの命が繋がるだけだ。

彼女は命を差し出したも同然。ブライトも道ずれになってしまったようなものだ。


何一つ勝ち取れず、ヤツの一人勝ち。

俺たちはこれからどんな顔をして生きていけばいいんだ。


俺の心など露知らず、彼女の宣言を聞いたヤツは満足そうに微笑んだ。


「よく言ったシルヴィア~!!やっぱり君は可愛い姪っ子だよ~!!……でもダメだ。彼らは殺す。」


微笑みはすぐに立ち消え、ヤツは冷酷な表情で吐き捨てる。


……ああ、彼女が全てを諦め絞り出した光でさえ、いとも簡単に遮られてしまった。


それでも彼女は、俺たちのために抗ってくれる。


「お願いです。全てをあなたに捧げると約束しますから。」


「それは良いんだけどさ~!!今回逆らった罰が無くなっちゃうのは良くないよねぇ~!!……今回は彼らを殺す。それで水に流してあげる!!で、次からいい子にしてれば、もう君の嫌がることはしない。それで良いだろ?」


「…………。」


「返事をしなさい。」


ヤツはブライトの首に刃を押し込む。


「……はい。」


彼女は目を伏せながら、微かな声で返事を返した。


「おいおい、そんなに悲しそうにしないでくれよ~!!悲しくもないくせに~!!ぶっちゃけ、別にこいつらが死んでも何も思わないだろ~?てか、ブライトくんが死んだとしても何も思わないだろ~!?そうだ!!もう人間の振りなんて辞めたらいいんだよ!!そしたらきっと楽になるよ!!」


気が狂いそうだ。

身体を循環する許容量を超えた怒りが、どんどん俺の精神を抉ってゆく。


もう全てをぶちまけてしまおうかと思ったその時、シャル姉の罵倒が場の空気を切り裂いた。


「いい加減にしなさい。このゴミクズ。」


……彼女は感情に左右される人間じゃない。


恐らく全員は助からないことを悟って、自分が初めの標的にされるように仕向けているのだろう。


彼女は自分の命すら利用して、ヤツの魔力が切れるまでの時間を稼ごうとしてくれているのだ。全ては俺たちが助かるために……!!


「おっと、誰がゴミクズだって?」


「この部屋にあなた以外のゴミクズがいるのかしら?」


「ははっ、いい度胸だね。」


ブライトを殴り飛ばし、ヤツは彼女のもとに向かっていく。


ヤツは俺の横を素通りしてきたが、俺はそれに合わせて振り返ることしか出来なかった。


「……あれ~?君、近くで見ると中々良い女じゃないか~。」


ヤツは彼女の頬を、ナイフの側面でペチペチと叩きながら笑う。


「そりゃどうも。」


彼女は冷ややかな目でそれに答えた。


「うーん。君、殺すには惜しいねえ。……僕の女にならないかい?いーい生活を保障してあげるよお。」


「ふふっ、私は面食いなのよ。」


「ほーっ、君はよっぽど早く死にたいらしいね。」


「あら、自分が醜いって自覚はあるのね。」


「はあ……。もう静かにしてなよ。」


彼女は今にも殺されてしまいそうだった。


絶対に駄目だ。彼女の気持ちを汲んだ上でも俺はそれを許せない。


……ごめん、シャル姉。あなたが先に逝くなんて、俺は耐えられないんだ。


「はははは!!本当にそうだよな!!お前は醜い男だ!!しかも心も空っぽだから救いようがねえ!!……お前はそんな自分を金で取り繕って満足か!?自分じゃなく、自分の持ってる金しか見てねえ女を囲って満足なのかよ!?」


彼女が先に死ぬくらいなら、俺が先に死ぬ方が良い。

ヤツのヘイトを何とか俺に向けるんだ。


「何だと……!?」


こうしている間にも、段々ヤツの魔力は消費されていく。


時間を稼げ。頭をフル回転させろ。とにかくヤツの気を引くんだ。


「いいさ!!お前はその濁った眼で、永遠に金と女の尻を追いかけていればいい!!そして支配者になったつもりで一生金と女に踊らされてればいい!!それをあの世から笑ってやるよ!!この哀れな道化師野郎が!!」


「おいメルト……!!ふざけんじゃねえぞ……!!」


よし、完全にヤツはこちらにくぎ付けだ。


ひとまずシャル姉を助けることはできたはずだ!!


「なーんてね!」


目を血走らせていたヤツの表情が、急におどけたものに変わる。


そして手のひらをこちらに向けながら、ヤツは愉快なポーズを取り始めた。


「は……?」


意味が分からない。


何だ?道化師の真似事でもしてるのか?それとも、気が触れたか?


「……メルトくん。今君、()()()()()()()()()()()()()()とか思ってたろ?()()()()()()()()()()()()とか思ってたろ?」


「な、何を……。」


血の気が引いていく感覚だった。俺は上手く言葉を発することが出来なかった。


「図星だろ~!?メルトくん、君は本当に分かりやすいねえ!!僕の魔力切れを狙ってたことまで全部バレバレだったよ!!それなのに得意げに煽ってきちゃってさあ~!!いやー、笑いを堪えるのに必死だったよ~!!なにせ目の前で道化師がタップダンスしてるんだからね~!!」


「お、お前ええええええ!!!!」


「でも君の心意気は買ってあげる!!ご褒美に君は……一番最後にしてあげる~!!しっかりみんなを見送ってあげてね!!あはは~!!!」


「ちくしょう!!ちくしょおおおお!!!」


「じゃっ、いっきまーす!!」


ヤツはおどけたまま、右手を勢いよく振り上げた。


「やめてください!!せめて私からにしてください!!殺すなんて……駄目です……!!」


「やめな……さい……。お願い……。やめて……よぉ……!」


「やめろ……!!やめろ……!!やめてくれえええええ!!」


俺たちは恥も外聞も捨て懇願する。


それとは対照的にシャル姉は冷たい目を崩さず、ヤツを睨みつけるだけだった。


「じゃ、バイバーイ!!シャ・ル・ね・え!!」





そして刃が、容赦なく身体を貫いた。

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