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第三十五話 だから言ったのに

「あ!ブライトさんが帰ってきましたよ!!」


エマがそう言った数十秒後、ブライトが部屋の扉を開けて入ってくる。


……玄関の音が聞こえたのか。こいつ、本当に耳良いな。


「ただいまー、ってあれ?皆さんも一緒ですか?」


「うん。ちょっと話をしてたんだ。」


「へー!シルヴィア、僕抜きで誰かと話すのなんて結構久々じゃないか?」


「そうですね。」


「良いじゃないか良いじゃないか!……ん?僕の顔に何かついてるかい?」


彼女は彼の顔をじっと見つめている。


きっと、全てを打ち明けようとしているのだろう。


そして数秒の沈黙が流れた後、彼女は全ての秘密をさらけ出し始める。


「ブライト。あなたに、私がこの3年間笑わなかった理由を伝えたいのです。」


「え……!?な、なんで今になって!?」


いきなりの事に、彼は動揺を隠せない様子だ。


目を見開いてその場に立ち尽くす彼に、彼女は淡々と伝える。


「彼らと話して思ったのです。あなたに、全てを伝えなければならないと。」


「そうか……。じゃあ、聞かせてくれ。」


……彼女の様子に引っ張られて、落ち着きは取り戻したみたいだな。


彼は俺たちの方をちらりと見た後、彼女に視線を戻した。


すると彼女は、ゆっくりと語り始める。


「私が笑わなかった理由、それは―――

 

 ―――――ということだったのです。」


「そ、そんな……。」


彼は頭を抱えながら俯いている。


当然だ。あの日に吐いた些細な弱音が、彼女をここまでにしてしまったと知ったのだから。

彼のショックは絶大なものだろう。


「ごめんなさい。私はあなたの為だけを思っていました。なのに結局、それがあなたを……」


その時、彼は言葉を遮るように彼女を抱きしめた。


「謝らないでくれ……!謝るのは僕の方さ!!君を追い詰めさせてそんな苦しみに追いやったのに、それを知りもしないで呑気に生きていたんだから!!……君は僕を、そんなに想ってくれていたのに!!」


「…………。」


彼は、声を震わせながら言葉を続ける。


「……もう、君は一生笑えないままなのかい!?僕なんかのせいで……!!」


「いいえ、違うのです。この聖具は破壊することができます。彼らに教えてもらいました。……だから、どうすべきか聞きたかったのです。その為にあなたに全てを打ち明けました。」


それを聞いた彼の顔は、徐々に明るくなっていく。


「じゃあ、それを壊せば君は……。」


「はい。恐らく私は笑えるようになります。けれど、あなたに降り注ぐ幸運は……」


「壊そう。今すぐに!!」


彼は、言葉を待つこともなく答えた。


……そうだよな。彼ならそう言うと思っていた。


彼の迷いのない即答を見て、思わず俺たちの口角は上がる。


「いいんですか。何でも屋が上手くいかなくなってしまうかもしれないのですよ。」


「構わないさ!!また君の笑顔が見られるなら、僕は幸運のはねっ返りで死ぬことさえ……」


「死んじゃ駄目です。」


今度は彼女が食い気味で返す。


「ははは、悪い悪い。余りに嬉しくってつい。」


……なんだか微笑ましいやり取りだな。きっと昔は、ずっとこうやっていたのだろう。


初めて見た二人の温かいやり取りに、俺の胸はいっぱいになる。


彼は暫くそうして笑っていたが、やがて改まり、俺たちに向かって深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございます。皆さんには感謝してもしきれません。」


「いやいや、良いんだよ。俺たちだって沢山世話になったんだからさ。」


俺たちは勝手に首を突っ込んだに過ぎない。だからそう改まって感謝されると、かえって身の置き所が無くなってしまう。


そもそも、何でも屋で買い物させてもらえたというだけで余裕でおつりが来るしな。


そうこう考えていると、彼は頭を下げたまま言った。


「彼女の聖具を破壊できるのはいつ頃になりそうでしょうか?」


「あー、それは……」


そういえば破壊するタイミングとか全く考えてなかった。


俺は視線でシャル姉に助けを求める。


すると彼女は、余裕の表情で答えた。


「別に、今からでもできるわよ。」


なんだって!?


「え!?ほ、本当ですか!?」


「ええ。ここからそう遠くない場所に、破壊士の店があるみたいだから。」


彼女はそう言うと、懐から町の地図を取り出した。


それを見てみると……確かにあった。少し歩くことにはなりそうだが、今から向かっても全然大丈夫そうな距離だ。


「じゃあ、案内をお願いしてもいいですか?」


「任せなさい。」


「ありがとうございます!!……やったぞ!!もうすぐだ!!もうすぐ君の笑顔が見られる!!ひゃっほう!!!」


「落ち着いてください。」


小躍りしながら彼女の手を握る彼。それを極めて冷静に諫める彼女。


「……フッ。」


この温度差はいつものっぽいな。聖具の効果が無くなっても変わらなそうだ。


***


「……ここらしいわね。」


三十分ほど歩いた俺たちは、それらしい店を見つけ立ち止まる。


恐らくここだな。目立たない小さな看板だが、確かに”聖具の破壊”という文字が刻まれている。


少し不気味な雰囲気の漂うその店の扉を、俺たちは恐る恐る開く。


「いらっしゃいませ。」


ぽつりと置かれたカウンターから、細身の男が声をかけてくる。


「破壊士さん……で間違いないかしら?」


「はい。私が破壊士でございます。」


シャル姉の問いかけに、男は丁寧に答えた。


よし、ひとまず店は合っていたみたいだ。


「今から聖具の破壊、頼めるかしら?」


「大丈夫ですよ。それで、どなたの聖具の破壊をご希望ですか?」


「こちらの女性の物をお願いしたいわ。」


シャル姉が手を添えて示す。


その方向を見た男は、目を丸くしながら固まった。


……やっぱりそうなるか。こんなレベルの美女、一生に一度見れるか見れないかだもんな。


暫くして正気を取り戻した彼は、慌てて業務を進めようとする。


「し、失礼しました。それでは、まずお名前をお聞かせください。」


「シルヴィアと申します。」


「シルヴィア様……ですね。」


男は彼女の名を咀嚼するかのように、奇妙な間を取った。

まだ惚けているのだろうか。


「何かありましたか。」


「ああすみません!少しボーっとしてしまいました!!じゃあ聖具の能力を詳しくお聞かせいただいても?」


「はい。私の聖具は――――――というものです。」


「なるほど……。すみませんが、今日中の破壊は厳しいかもしれません。」


「え?すぐに壊せないなんてことあるの?」


聖具の破壊に立ちあったことは無いが、そこまで大変なイメージは無い。


何か適当な呪文みたいな奴を唱えながら、トンカチとかでぶったたけば終わるイメージを持っていたのだが……


「申し訳ございません。シルヴィア様の聖具は、少し厄介そうな物ですので……。」


「なるほど……。」


彼女の聖具は特殊だからな。他とはちょっと勝手が違うのだろう。

破壊士本人がそう言っているのだから、素人が否定しようもないな。


「どうしましょう、あなた。」


彼は腕を組んで少し考え込み、言った。


「明日にしようか。……明日の朝でお願いできますか?」


「はい。明日までには、準備を済ませておきます。」


「分かりました。それじゃあ、お願いしますね。」


彼がそう頼み終え、俺たちは一旦その店を後にした。


***


「ふわぁー、ねっむ。……俺たちが付いて行く必要あったかー?」


「ここまでお節介したんだから、最後まで見届けるのが筋でしょう。」


カインの愚痴をシャル姉が窘めている。


というわけで俺たちは再びこの店の前まで来た訳だが……本当に準備は出来てるのか?


昨日はシルヴィアさんも家に戻ってたから、彼女の聖具に対して何か干渉出来た訳ではないだろう。となると、大した準備は出来ないように思えるが……トンカチに破壊パワーでも貯めてんのかな。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。……さ、こちらへどうぞ。」


どうやらちゃんと準備は出来ているらしい。


昨日と同じ彼に案内され、俺たちは奥の部屋に入る。


「し、白いですー!!」


そこは神聖さを感じさせる、一面が白い壁で出来た広間だった。


辺りを一通り見まわした後、俺は奥の方に男が佇んでいることに気付く。


彼は、ゆっくりこちらに歩いてきた。


「やあみんな。昨日ぶりだね。」


それは、ここにいるはずのない男だった。


「な、なんであなたがここに……!?お店はどうしたんですか!?」


「そんなの知ったこっちゃないよ。それよりさ……」


彼は困惑するブライトに一瞥もくれず、冷たい目で俺を睨み、言った。


「メルトくんだっけ。……僕、言ったよね?()()()()()()()()()()()()()()って。」

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