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第三十二話 優しいおじさん?

みんなの商品選びに翻弄されながらも、俺は何とか品物を選び終わった。

俺のかごは輝かしい品々で一杯になっている。


新しい服に新しいズボン、靴に鞄まで……


そして何よりこれ!!

俺の愛読書である”怠惰なる肥満(デブ) 第九巻”!!


……知らぬ間に新巻が出ていたとは思わなかった。前巻はダイエット・ドラゴン討伐戦のピークで終わっていたからな。今か今かと続きを待ちわびていたが、まさかこんな所で出会えるとは。


てかこれ全部タダかよ!?本当にありがとー!!ブライトー!!


俺は隠せぬニヤつきを浮かび上がらせながら、会計の場にかごを置く。


「これください!」


「はいはい。」


そこには小太りのおじさんが一人いるだけだった。


この人が会計を一任しているのか。相当信頼されているんだな。


てか、ブライトはどこにいるんだ?


「おじさん、ブライトはいないの?」


「あー、今日は商談でいないんだよ。ところで、君がギルドの子かい?」


そうか。ちゃんと話は回ってるみたいだな。


「ああ、メルトってんだ。よろしく。」


「僕はノイアーだ。よろしく。」


「ブライトに店を任されてるってことは、アンタはやっぱ知り合いかなんかだよな?」


「ああそうとも。まあ彼のというよりはシルヴィアの知り合いって感じだけどね。」


「え?シルヴィアさんの?」


「うん。僕は彼女の叔父なんだよ。」


彼女の、叔父……!?


この人が彼女の叔父だと!?


それにしては容姿がかけ離れすぎていないか!?……正直この人はただのおじさんだぞ!?


「今君、シルヴィアの親族にしてはただのおじさんだな、とか思っただろ。」


「はっ……!!」


この人、できる!!


「はぁ。このくだりも何万回目か。あの子は突然変異みたいなもんだよ。あんな美形がぽんぽんいてたまるかって話だ。」


「確かに……。それもそうか……。」


「……いやー、あの子は本当に昔から可愛かったなあ。両親も整ってる方ではあったけど、彼女は別格だったね。」


「へー。彼女とはよく会ってた感じ?」


「そうだね。よく遊んでやったもんさ。……あんな小さかった彼女が、今じゃもう結婚してるんだもんなあ。早いもんだねえ。」


彼はかなり彼女と近かったみたいだな。

……彼女が夫の店を任せるくらいだ、恐らく二人の仲は今も良好だろう。


もしかすると、彼は彼女が笑わなくなった訳を知っているんじゃないか?


「今でもよく会う?ほら、相談とかそういうのでさ。」


「……君、僕なら彼女の笑わなくなった訳を知ってるんじゃないか、とか考えてるだろ。」


何ぃぃぃ!?


何故バレた!?流石に露骨すぎたか!?


だがバレた以上は行くしかない!変に誤魔化してもどうにもならないしな!!


「そ、そうだよ。その通りのこと考えてた!で、どうなの!?」


「知ってるよ。」


「本当に!?じゃあ……」


「けど僕からは話せない。デリケートな問題だからさ、彼女に聞きもせず話すわけにはいかないよ。」


「あ……。」


そんなの、当たり前に決まってたじゃないか。


俺と彼女は昨日会ったばかりの他人で、ほとんど碌に話もしていない。

それなのに俺は、彼女の秘密をあろうことか第三者から聞き出そうとしていたのだ。


図々しいにも程があるだろう。……反省しなければ。


「気になるなら彼女から聞いてくれ。ただ……くれぐれも首の突っ込み方は気を付けてくれよ。あの子は繊細なんだ。」


彼は鋭い眼差しでそう言った。


「分かった。……軽率な行動をしちゃってごめん。」


「いいさいいさ、気になるのは当然だろうからね。……なんかちょっと空気が重くなっちゃったな。そうだ!メルトくん、どうだった?ここでの買い物は?」


「マジで最高だった!テンション超上がっちゃったよ!」


それぞれの品をそれぞれの店で買うのとは全く違う、独特の魅力がこの店にはあった。


多彩な品々につられ欲望のままに手を動かしていると、すぐにかごがパンパンになってしまうのだ。

……このお店が大儲けする理由を身をもって体感できたな。


彼に問いかけられこの店のことを振り返っていた俺は、ふと買い物の途中で抱いた疑問を思い出す。


「そういえばこのお店の仕組みだとさ、泥棒し放題じゃない?かごに欲しいもの詰め込んでそのまま外に逃げることだってできるよね?そこは大丈夫なの?」


「心配いらないよ。逃がさないから。僕は何人そういう馬鹿を屍に変えてきたことか。」


そう言うと彼は、冗談めかした笑みを零した。


……この人には逆らっちゃだめだな。殺される。


***


店を出てブライトの家に戻っている途中、俺はスピカの耳が輝いているのに気づく。


なるほど、あの時言ってたマルスのイヤリングを買ったみたいだな。


店を出てからすぐ身に着けるとは、相当嬉しかったようだ。ちょっとからかってやるか。


「おいスピカ、可愛いじゃん。」


「え……?今、なんて……?」


「可愛いって言ったんだよ。」


「……本当に?」


彼女の顔が徐々に紅潮していく。

どうやら効果覿面らしい。


そんな彼女に、俺は容赦なく追撃を加える。


「ほんとほんと。超可愛いよ。……なんかやけに輝いて見えるんだよ。この夕日のせいかな?」


「…………。」


彼女は口を噤み、その言葉を噛みしめるように俯いている。

……耳も真っ赤になっているな。


ははは、真に受けやがった!さあ、待望のネタ晴らしだ!


「あーあ、俺はイヤリングを褒めてるだけなのになー!なんか勘違いしてる奴がいるなー!!俺がお前のこと可愛いって思うわけないのになあ!!てか、お前が着けても可愛く見えるなら、他の人が着けたらさぞかし……ぶべらっ!!!」


彼女の怒りを一心に受けた拳が、俺の頭を打ち抜いた。


「イヤリング、褒めてくれてありがとう!とっても嬉しかった!!嬉しすぎてつい殴っちゃったわ!!」


「てめえ!!なんで左頬を殴りやがった!?エマにやられて痣になってんのによ!!」


「あらあらごめんなさーい!一番感謝が伝わるかと思っちゃったの~!!」


こいつ……!!


なんですぐ殴りやがるんだ!!ちょっとからかっただけじゃねえか!!しかも俺はイヤリングを褒めてやったんだぞ!?むしろ感謝してほしいくらいだ!!


って感謝はちゃんとしてるのか、なら良いか。……なんてなるわけねえだろボケ!!


「お前は感謝の仕方も知らねえのかよ!?土下座して靴を舐めながら、”ありがとうございますメルト様!”だろ!?」


「きっもー!!そうやっていつも女の子を屈服させることばっか考えてるんでしょ~!!変態だね~!!」


「ちょっとちょっと落ち着きなさい二人とも!ほら、透明の下着あげるから!……そんなことよりも今は今後の話よ。シルヴィアさんのこと、みんなはどうするつもり?」


俺の苦渋の選択が無に帰していることがサラッと判明したのには非常に憤りを覚えるが、確かにシャル姉の言うとおりだ。


シルヴィアさんの件に対し俺たちはどこまで干渉するのか。そこをハッキリさせとかなければならない。


正直ギルドの仕事の範疇ではない。これは個人間の問題でしかないからな。だけど俺としては、このまま放っておけないと思ってしまう。


「俺はさ……やっぱり理由は聞きたいと思ってる。それでもし不本意な理由だったなら、解決してあげたいとも思ってるよ。」


「私も同じです!……好きな人同士が一緒にいるなら、一緒にいっぱい笑ってほしいんです!!」


「私も。ブライトは彼女のことで苦しんでる。なのに知らんぷりして次の町に行くなんてできない。」


「はぁー。お前ら本当にお節介だよなあ。」


カインが言葉を漏らす。……でも多分彼も同じことを考えている。


「じゃあお前は放っといてもいいのかよ?」


「……ま、放置したままってのは胸糞わりいよな。」


やっぱりそうだ。


結局カインも、腐ってもギルドの人間なんだ。お節介なのは同じだな。


「そうなるわよね……。じゃあ、帰ったら聞くことにしましょう。だけど大事なのは彼女の意思。駄目ならすぐに引き下がるわよ。」


「うん。」


無理に聞き出そうとしてはいけない。あくまで彼女が話してくれるなら、だ。

絶対に傷つけてしまわないようにしないと。……下手なことをしたらあのおじさんにぶっ殺されるしな。


俺は彼の言葉と恐怖の笑みを思い出しながら、帰路を歩いていった。

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