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第二十四話 誰のために

「皆様はギルドの方々ですね?それではお会計半額になりまして……10万ギルになります。」


「おいおい、マジかよ……。」


食事会は嵐のように過ぎ去って行き、俺たちは店を出るべく会計をしているのだが……10万ギルだと!?しかも半額でこれかよ!


「スピカ、お前とんでもない店を予約してくれたもんだな。」


「ええ、そうみたいね……。」


「すまん、この店ってこんなに高かったんだな。俺が行ってたのはガキの頃だったから分からなかったぜ……。」


「いいのいいの!店探しを忘れてたのは私なんだし!……それに、とっても美味しいお店だったしね!」


色々と言いたいところはあるが、スピカの言う通り美味しかったし、いい思い出にはなった。


まあ良しとするか。


「貴方たち、明日からは節約生活よ。」


あんだけセシルに貢いでいたシャル姉に言われるのは癪だったが、俺たちは渋々返事をした。


「「「はーい……。」」」


……やっぱり、旅の初っ端からこんなに使って大丈夫かな。


***


「いやー、久々にこんな腹いっぱい食ったよ。スピカちゃん、みんな、ありがとう。」


「そうだねー。僕もお腹いっぱいだよ。……皆さん、本当にありがとうございました!!」


「……(ぺこり)」


3人は揃って俺たちに頭を下げる。


「いいのよ、それに私たちもすごく楽しませてもらったわ。こちらこそありがとう。」


「そうですねー!やっぱみんなでご飯食べるのは楽しかったです!!」


……主役の二人が楽しんでくれたなら、それ以上は無いな。


それにしても、いい意味でも悪い意味でも本当に刺激的だった。俺はこの食事会を一生忘れることはねえだろうな。


「ま、こんだけ食わしてやったんだ。お前ら明日から頑張れよ。」


俺はカインの言葉で気づかされた。……そうだ、彼らはまたスラムに戻っていかなくちゃならないんだ。


彼らは今日は美味い飯にありつけた。だが明日の飯は食えるかも分からない。


ジジイが旅の前に言ってた不況、その煽りを最も受けているのが彼らなんだ。


「ありがとう、頑張るよ。な!みんな!」


「……(こくっこくっ)」


「もちろん!!」


満面の笑みで答えたセシルの顔がふと、少し曇った。そして彼は言葉を零した。


「……でもさ、僕ら、いつまでこんな生活を続けるんだろうね。」


「……セシル?」


「僕らはスラムじゃ稼ぎが良い方だ。でも、安定した収入には程遠い。……僕の賞味期限なんてそう長くはない。若さが無くなれば、すぐに見向きもされなくなる。そうなったら大変だよなー、って思ったんだ。まあ、レイスちゃんは大丈夫だろうけどさ。」


「…………。」


そうか、彼は物乞い。そしてレイスは泥棒。そうなると、先に稼げなくなるのは彼の方なんだ。


ザックは彼の言葉を受けた後、少し間をおいて言う。


「……ヒモにでもなればいいさ。」


「え?」


「お前なら金持ちの女をたらし込んで手玉に取るくらい朝飯前だろ?ヤバそうになったらそうしちまえばいいんだよ。そしたらお前は将来安泰じゃねえか。」


「レイス、お前も同じだ。生活が苦しくなっちまったら、俺らを捨てて一人になってもいいんだぜ。……お前らは一人でも生きていけるんだ。スラムのみんなと一緒に沈んじまうことはねえ。家族の面倒は俺一人でもなんとか……」


「……(ぶんぶん!)」


レイスはその言葉を遮るように彼の肩を掴み、力強く首を振った。


「……なんだよ?違えのかよ、レイス?」


「ザック!君は何も分かってない!!僕らはそんなの望んじゃいない!!」


「なんだと……?」


「家族を途中で捨てられる訳ないだろ!金を稼げなそうになったら捨てるなんて、そんなの家族じゃない!!」


「そもそも、僕はお金を恵んでるつもりもない!家族で物を分け合うのは当たり前だ!……だから、稼げる金が変わってもこの関係は変わらない!少ない金でも分け合って、それでみんなと苦しむさ!!みんなと一緒じゃなきゃ……僕はスラムを抜けることは無い!!」


「……(こくっこくっ!)」


「お前ら……。」


「ふふっ。それにさ、僕が居なくなったら多分、すごく湿っぽくなっちゃうよ。でさ、レイスちゃんが居ないとつまんないよ。そして君が居ないと僕らはまとまんない。」


「僕らはずっと家族の中で、僕らの役割をこなし続けるんだ。それでうまくいかなくなったら、朽ちてくだけだよ。うん、朽ちてくだけなんだ。それだけの話だったね……。」


そう言うと彼は、困ったような笑みを浮かべた。


……救わなきゃ。


そうだ、俺たちはこういう子たちを救うために旅をするんだ。お金のために苦しんで、不透明な未来に恐怖する、こんな子たちを救うために。


「大丈夫さ。お前たちは朽ちてなんかいかない。お前たちにはすぐ、まともな職に就ける日が来る。」


「……え?何でですか?」


「実は俺たちさ、旅をしてるんだよ。この地と魔界を繋げるっていうとんでもない旅をさ。で、それが上手くいけばこの地はうんと豊かになるんだ。そうすればお前たちにも沢山仕事が回ってくるようになるんだよ。」


「上手く、いくんですか?」


「ああ。もち……」


「もちろんよ!私たちを誰だと思ってるの!?太陽の(アポロン)ギルドのエリート集団よ!私たちに不可能はない!!みんなは絶対に幸せになれるわ!!」


俺の言葉に割り込んだスピカが捲し立てる。……言いたいことは同じだったが、俺にカッコつけさせてほしかったとこだ。


「スピカちゃん……。あんたがそこまで言うなら信じるしかねえよ。頼む、俺たちみてえな奴らが生まれない世の中を作ってくれ。」


「ええ!みんなを絶対に救う!そして、ロスト・ストリートなんてすぐに無くしてやるわよ!!」


「僕からもお願いします!誰も苦しまなくていい世の中を作ってください!!」


「任せなさい!!」


結局、美味しいとこ持ってかれちまったなあ。


「……とまあ、そろそろお開きかな。」


俺の言葉を聞いた瞬間、レイスが勢いよく飛びついてくる。


「……(ぶんぶん!)」


「ははっ、そんな必死に抱き着かなくても。これが最後じゃないだろ?むしろ俺たちの始まりじゃないか。……君に一つ教えてあげるよ。いいお嫁さんってのはな、旦那の帰りを黙って待つものなんだぞ~。」


「…………。」


彼女は俯きながら俺から離れていく。


うん、偉い子だ。


「……今日は本当にありがとう!最高の一日だった!みんな、旅頑張ってくれよ!!」


「頑張ってください!期待してますよ!!あと、将来はシャル姉と暮らしたいなあ!!」


こいつ、どさくさに紛れてシャル姉に色目使いやがった!俺たちのシャル姉だぞ!!


「うふふふ。」


くそっ!まんざらでもない感じが腹立つ!!


「っと、そうだ。メルトくん。あんたに言いたいことがあったんだった。」


ザックが何やら改まった様子で話しかけてくる。こんな別れ際に何だ?


「何だよ?」


「あんた、自分がどう思われてるか、もっと考えた方がいいぜ。」


「…………?」


「ちょっと!バ、バカ!!」


スピカが何やらテンパり出した。


どういうことかよく分からないがいい気味だ。ははは。


「よく分かんねえけどそうするよ!……じゃあな!!みんな元気でいるんだぞ!!」


俺たちは口々に別れの挨拶をし、みんなに手を振った。


そしてその場を立ち去ろうとしたとき、いきなりレイスがこちらに駆け寄ってくる。


そのまま彼女は拳を震わせながら、意を決したように口を開いた。


「み……な!メルト……さ……!………が、頑張……て……!」


確かに聞こえた。彼女の応援が。


精一杯の声で、伝えようとしてくれたんだな。


俺は彼女の頭に手を乗せて言った。


「うん。行ってくるよ。」






「……スピカ、ありがとな。」


「……え?何よ突然?」


宿に向かう道すがら、俺は沸き立つ感謝を彼女に伝えた。


俺は今日まで、悩める誰かのためと分かっていながらも、誰のために旅をするのかが曖昧だった。むしろ自分がちやほやされるために旅をする、そんな心境だった。


だが今日、彼女のおかげではっきりと掴むことが出来たんだ。救わなきゃならない人たちの輪郭を。


……彼らを救うんだ。旅を完璧に成功させて。


そうしてまた再会したら、笑いあうんだ。今度は明日も気にせずにさ。

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