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第二十三話 波乱の食事会

「お姉さん、お名前を伺ってもいいですか。皆さんにはシャル姉って呼ばれてましたよね?」


セシルがシャル姉に話しかけている。


さっきの実演を見た手前少し身構えてしまう。が、そこはシャル姉。そう簡単に財布の紐は緩めないだろう。


「シャルロッテ。シャルロッテ・ベルギッドよ。」


「わぁ~!素敵なお名前ですね!!それでシャル姉なんだ~!僕もシャル姉って呼んでいいですか?」


「ふふふ、全然いいわよー。」


「やった~!嬉しいです!……というか、一目見たときから思っていたんですが、シャル姉ってとてもお肌が綺麗ですよね!髪もサラサラツヤツヤだし!!本当羨ましいなぁ~!僕もシャル姉みたいになりたかったなぁ~!」


「うふふ、私を褒めても何も出ないわよ。」


「いえいえ、思ったことを言ってるだけですから!!……シャル姉ってすごいしっかりしてそうですよね。やっぱり色んな人に頼られますか?」


「そんなことないわよ~。でも、こんな私を頼りにしてくれる人もいる。そういう人の気持ちには全力で応えたいっていつも思ってるわ。」


「……ああっ!!カ、カッコよすぎる……!僕はもうあなたを直視できません!でもシャル姉、無理しすぎちゃダメですよ!辛い時は辛いってちゃんと言うんです!皆さんを頼って良いんですからね!!」


「あらあら、ありがとう。」


まずい!シャル姉が墜とされかかってる!


付き合いの長い俺には分かる。あの顔は”子供の戯れに優しく付き合ってる、と見せかけて普通にメロメロになっている”という顔だ。


ねだられたら1,2万ギルくらいは平気で出してしまう顔だ。


って、もう出し始めてる!?


財布から金貨を1枚、2枚、3枚、4枚、5枚。……やべえ、あっと言う間に5万ギル出しちゃってるよ!褒めても何も出ないんじゃなかったのかよ!


……まだいく!?6枚、7枚、8枚、9枚……


「ちょっとシャル姉!出しすぎ出しすぎ!俺らの宿代無くなっちゃうって!せめて5万、いや3万ギルくらいにしとこうよ!」


「あっ!そ、そうね!……ごめんね、ちょっと返してくれるかしら~?」


「もちろんですよ!僕はシャル姉の気持ちだけでお腹いっぱいなんですから!」


「いい子ねえ~。」


「えへへ~。」


危なかった。シャル姉が思ったよりチョロかった。


そして彼は笑顔を崩さず金貨を返した。だが俺には見えた、彼の顔に一瞬浮かび上がった冷たい表情。


……悪いな少年よ。俺たちにも生活があるんだ。君の思い通りにはなってやれない。


っと、そうだ。


彼との攻防を終えた俺は、先程中断されていた話を思い出しスピカに話しかける。


「なあなあスピカ~。そういえば、結局何の話してたんだ?昼にさ。」


「えっ!?だ、だから……えっとね……」


さっきからこの歯切れの悪さは何なんだ。この話題になるとずっとこんな感じだ。


「何なんだよー!やましい事でも……」


「(つんつん)」


追及の手を強めようとしたとき、俺は後ろから指で突っつかれる。


「ん?何だ?」


「(あーん)」


…………!?


振り向くと、レイスがこちらに向かって口を開けている。


一体どういうことなんだ!全く何を考えてるのか分からんぞ!怖い!


たじろぐ俺を見た彼女は円卓の方にちらちらと顔を向けつつ、口を開け続ける。


……なるほど。意図は分からんが、何かしらを口に運べという意思表示とみた。


その時、前髪の隙間から彼女の瞳が見えた。俺を試すような瞳だ。


……測られている。何か俺のセンス的な奴を測られている。彼女の口に何を運ぶのか、俺は多分そこを問われている。


どうしよう。お口に合わないものを入れてしまったら、頭蓋骨をカチ割られそうな気がする。


だが俺は逃げられない。彼女の瞳は俺をしっかりロックオンしているのだ。……いいだろうやってやる。俺のセンスを君に見せつけてやるよ。


そして俺は円卓の方に目を向けた。


まずサラダは絶対にない。そしてステーキ……もないな。少し重いだろう。ピザ……はどうだ?いや、これも少し重いか。パスタ……これだ!攻守のバランスが良く、老若男女問わず愛される万能の料理。これを選ばずして何を選ぶというのか。


と見せかけてピザじゃ!!


俺は勢いよく少女の口にピザを突っ込んだ。


「……(もぐもぐ)」


彼女は黙々とそれを咀嚼する。


どっちだ!?どっちなんだ!?俺は死ぬのか!?生き残るのか!?


俺は固唾を呑みながら少女の顔を見つめる。


瞬間、彼女の表情は恍惚とした笑みに変わっていった。


良かった。

これでサラダが正解とかだったらどうしようかと思っていた。まあ、何はともあれ俺は助かっ……


「(あーん)」


「嘘……だろ……?」






「はぁ、はぁ……。」


「……(にこにこ)」


結局あれから十回位同じくだりをさせられ、彼女は漸く満足したご様子になった。


……この娘といたら心臓が幾つあっても足りやしない。


ミスらないように慎重に料理を選び続けるこの作業により、俺の精神力はかなり摩耗させられてしまった。


だが、後半はどうでも良くなってひたすらステーキを突っ込み続けたにもかかわらず、彼女は特に不満もなさそうに微笑み続けていたため、俺が深読みしすぎていただけだったのかもしれない。


まあいい。やっと俺は解放されたのだ。今は生きている喜びをただ味わうとしよう。


てか、さっきからエマとカインはずっと何の話をしているのだろうか。どうやら白熱しているようだが、店内の喧騒に紛れてあまり聞こえない。


少し耳を澄ましてみるか。


「……だから~!それはハッピーアポイント的には良いんですけど!サッドシングスが足りないじゃないですか!!」


「何でだよ!てめえこそサクリファイス的な観点が足んねえんだよ!大体、何がハッピーアポイントだよ!!そんなことよりも観音(カンノン)・システマティックスだろ!!」


何の話をしているのだろうか。


ぐぅぅううう。


あ、お腹が鳴っちまった。


……色んな奴らに翻弄され続けてたせいで飯を食うのをすっかり忘れていた。せっかくこんないい店にいるんだ、何か食わなきゃ勿体ない。


俺は適当に近くにあったバゲットに手を伸ばし、それをひと齧りした。


「……うっま!!」


なんだこれは!?


口に広がるほのかなバターの風味、鼻を抜ける小麦の芳醇な香り、噛めば噛むほど広がる奥深い味わい。

そして生地の甘みを引き立てる絶妙な塩味!!


うまい!うますぎるぞ!!


俺はこの感動を共有したくてたまらなくなり、隣のスピカの肩を揺らしながら言う。


「おい!お前このバゲット食ったかよ!?ヤバくねえか!?」


「ちょっと!口に入れたまま喋んないでよ!汚いわね!」


「ああ、悪い悪い。余りにうまくてつい……。」


「まだ食べてないわ。そんなに言うなら食べてみようかしら。」


「マジで食ってみてくれ。これは俺の人生でも……」


「(つんつん)」


俺はまた後ろから指で突っつかれる。


……さっきから絶妙に間が悪いな。スピカと話してる途中で毎回レイスに呼ばれる。


まあ、いいタイミングを見計らうのは難しいか。

空気読むって難しいよな。俺も未だによく分からないし。


「何だー?」


「……(ぼそぼそ)」


「え?」


「……(こそこそ)」


「スピカさんと……結婚してるんですかだってぇ!?いやいや、ないない!ただの仲間だって!」


急に何を言い出すかと思えば、これまたとんでもない事を。今度は何なんだ!?


「……(ひそひそ)」


「じゃあお嫁さんは……いますかだって?いないいない!俺まだ19だぜ!?そんなん作る歳じゃないって!」


「……(びしっ)」


彼女は突然、自分の顔を指さす。


「……え?」


俺、求婚されてる?


「俺のお嫁さんに、なりたいの?」


「……(こくっこくっ)」


彼女は少し顔を赤らめながら頷いた。


……なんで!?俺好かれる要素あった!?


あの朝早い荒くれものと言い、どうして俺は一癖も二癖もある奴から好かれちまうんだ……。

……アイツと同列にするのは流石に可哀想か。


そうだ、相手はあくまでいたいけな少女。夢を壊さないようにしてあげねば。


「ははっ、それは結構だ。でもターキーにナイフをぶっ刺すようじゃ、まだまだお嫁さんには程遠いな。」


「……(こしょこしょ)」


「立派なお嫁さんになれるように頑張る?うーん、そうかあ。」


思ったよりも本気みたいだな。これはどうしたものか。


……へへへ、ちょっとからかってみるか。今日はこの娘に翻弄されっぱなしだからな。ちょっと位からかっても罰は当たらんだろう。


「でもなかなか修羅の道だぜー。俺の嫁になるのはさあ。なんてったってここにいるお姉ちゃんたち、みんな俺のことが好きなんだぜ。いっぱいライバルがいるなあ?」


すると彼女は、すぐさま机のナイフを手に取り身を乗り出し始める。


「ああっごめんごめん!嘘嘘!嘘だよ!!」


今完全にエマの心臓見据えてたって!


弱そうなやつから確実に仕留めようとしてたって!


……不用意にからかうもんじゃなかった。こんな所で沢山の犠牲が出るとこだった。


なんか違うアプローチにしなきゃな。


「やっぱ君はまだまだ小さいからなあ。そういうのは大きくなってからまた言ってほしいな。待ってるからさ。」


「…………。」


それを聞いた彼女はおもむろに立ち上がり、俺の前で必死につま先立ちを始めた。


「ははは、背伸びしてもダメだってー。」


中々可愛いところもあるじゃないか。なんだかんだ言って年相応の女の子なんだな。


「…………。」


彼女は腕組みをして少し考え込んだ後、卓上のナイフを再び手に取った。


「ちょ、ちょっと待った!何をしようとしてるのかな!?」


「……(ぽそぽそ)」


「え?心配しなくてもいいって?そ、そうか……。」


彼女はそのまましゃがみ込み、俺の足にナイフの柄を当てた。そして、首を傾げながらナイフを上げ下げし始めた。


まるで何かの採寸をするような感じで…………!?


待って!!俺の身長縮めようとしてない!?どこで切断すれば丁度いいか考えてない!?


ダメだよ!?押してダメなら引いてみろじゃないからね!?

俺の身長引こうとしないで!?


「や、やっぱりさ!身長差カップルも結構アリだよな!キスするときに背伸びさせちゃったりしてさ!!俺、そういうのに憧れちゃうかもなあ!はは、ははは……。」


「……(にこにこ)」


「あはは……はははは……。」

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