第二十二話 とりあえず飯だ!!
「こ…………ろ……す。」
あー、怖いかも。
突然の殺害予告に、場の空気が凍る。
みんなは静かに顔を見合わせながら、この謎の少女に恐怖していた。
「お、おい!……ごめん!コイツ声が小さいから。”こんな私を美味しいところに誘ってくれてありがとうございます。”って言ったんだよ、多分。」
それは本当か?だとしたらもうちょっと発音を頑張ってほしいところだが。
今のところヤバいシリアルキラーにしか見えないぞ。
「……(ぶんぶん)」
少年の訂正に対し、少女は首を横に振って応える。
……ん?
じゃあ本当に”ころす”って言っただけってこと?それとも、”勘違いされちゃって恥ずかしい”的な首振り?
状況を判断しかねている俺たちにお構いなく、彼女は次なる攻撃を叩きこんでくる。
「スピカさん……ぶ……す。」
!?
「……え?な、何ですって?」
予想外の一撃に、スピカの表情が引き攣っている。
笑顔を保とうとしているが、目が笑ってない。研ぎ澄ました剣のような目だ。……これはやばいぞ。
「おっと!今のは”スピカさん、このような分不相応な場へのお誘い、感謝します。”って言ったんだ!」
さっきと言ってる内容あんま変わんねえじゃねえか。
わざとか?わざとなのか?
「……(ぶんぶん)」
相変わらず首を横に振ってるし。嘘でもいいから縦に振ってくれよ。
「ま、まあまあ!さっさと飯行こうぜ!みんな腹減ってるだろうし!な?」
「そ、そうね……。」
俺はこれ以上の混沌を避けるため、無理やりこの場を切り上げた。
***
「ご予約のスピカ様ですね?」
「はい。」
「お待ちしておりました。それではこちらのお席に……」
気品のあるウェイターに案内された先には大きな円卓が鎮座していた。
その上には、様々な料理が所狭しと並べられている。
ピザにパスタ、バゲットにステーキ、ターキーまで!
それらが湯気を纏って輝いている光景はまさに贅沢の具現化。俺はそれを前に、喉を鳴らすことしか出来なかった。
「これはすごいわね……!!」
「うん!!ちょー美味しそうです!!」
流石の迫力の前に、主役の二人もすっかり魅了されている。
何て良い店を選んでくれたのだ、スピカは。
「スピカ!でかしたぞ!!やっぱお前に頼んでよかったよー!!」
「消去法でしょ。……あと、この店はザックが教えてくれたの。」
「え!?こいつが?」
スラムに住んでいるのに、随分大層な店を知っているんだな。
益々この子の詳細が気になるところだが、まずは感謝が先だ。
「ありがとう。ここ、すげえ良い店じゃないか。」
「いいってことよ。さ、早く食べようぜー!」
確かに、ペラペラ喋ってこの料理を冷ましても良くない。
とりあえず食い始めるとしようか。
「みんな!今日は存分に満喫してくれ!じゃあ手を合わせて……」
「「「いただきまーす!!」」」
モシャモシャモシャモシャ
食事が始まった瞬間、セシルはすごい勢いで料理を口に運び始める。
相当腹が減っていたのだろう。それは良いんだが、問題は食べている料理だ。
彼はサラダのみを一心不乱に貪っている。
「なあなあ、せっかくピザとかステーキとか色々あるんだ。そっちで腹満たした方がいいぜ。遠慮とかはいらないからさ。」
「いえ!お肌のケアが一番大切なので!!」
「そ、そうか……。」
これだけの誘惑に目もくれず、お肌のケアを優先するのか。……見上げた美意識だな。
「ほら、レイスちゃんも食べた方がいいよ!君、素材は良いんだからさ!!」
そう言うと、彼は笑顔で彼女の口にサラダを詰め込み始めた。
「ほら!ほら!ほら!ほら!」
「……(モゴゴゴゴゴゴ)……。」
「待て待て!その子窒息しそうになってんぞ!」
「あぁっ!!ははは、ごめんねー。」
「…………(コクッコクッ)。」
悪意無く少女をサラダで溺れさせるとは。この子はなかなかのサイコのようだ。
「……ねえねえザック、あの子が物乞いが上手い子?」
「ああ、そうだ。セシルの物乞い力は半端じゃねえぞ。」
なんだって?物乞いが上手い?
物乞いに実力の多寡なんてのがあんのか?
「君、物乞いが上手いんだって?」
「はい!今日もこれだけ稼いできたんですよ!」
少年は腰に付けていた巾着袋を広げて見せてくる。
「なっ……!?」
その中には、大量の金貨や銀貨がパンパンに詰まっていた。
一体どうやったら物乞いでここまで稼げるんだ。実力派の大道芸人の稼ぎだろこれは。
「……普段どうやって物乞いしてるんだ?」
「うーん、どうやってって言われると……。人によってやり方を変えますからね~。あ!じゃあ今日最初に恵んでもらった女の人にやった奴をしますね!!」
「おお、頼む。」
さあ、物乞いマスターの真価を見せてもらおうか。
「……ご主人様。ねえねえ、そこのご主人様!ごめんにゃさい。あまりにいい香りだったから、声をかけちゃったにゃ!それ、NO.6の香水だにゃ?……やっぱり!!はぁ~、イケてるご主人様はみんなそれ付けてるにゃ~。」
「ちなみに、これからどこへ?おお!殿方の所へ!……全く!こんにゃいいご主人様とデートなんて、羨ましい事この上にゃい!じゃあ、呼び止めて悪かったにゃ~!楽しんできてにゃ~!……え?ご、五千ギル?はぁ~!器が広すぎるにゃーん!このご恩は絶対忘れにゃいにゃーん!!ご主人様ぁ~!!」
「みたいな感じでやってますね。」
切り替えの瞬間怖っ。
「す、すごいな君は。でも、物乞いってことは輩とかにもよく絡まれるんじゃないか?そこら辺はどうしてんだ?」
「輩の人も立派なお客さんですよ!……最初はわざと強がるんです。”お前らには負けない!僕は強く生きてるんだ!”って感じで。で、少ししたら涙を流すんです。”我慢してたけど溢れ出しちゃった”って言う雰囲気を纏うのがコツです。」
「そしたら大体同情してもらえますよ!輩は男の涙に弱いですから!!」
「……ほぇ~。」
最近の子は怖いなあ。
関心と恐ろしさの狭間で揺られていると、右隣からスピカとザックの楽しそうな声が聞こえてくる。
よっぽど意気投合したんだな。……結局昼に何があったんだ?
俺はそこの謎を解き明かすべく、スピカの背中をトントンと叩く。
「何?メルト?」
「なあなあ、お前ら昼に何の話してたんだ?すげえ仲良くなってるっぽいけど。」
「ええ!?そ、それは……」
ダァァァァン!!!!!!
突然、俺たちの会話を遮るように左隣から凄まじい音が聞こえてくる。
咄嗟にそっちを振り向くと、そこには信じ難い光景が広がっていた。
「……(もぐもぐ)。」
レイスが、ど真ん中にナイフをぶっ刺したターキーを丸かじりしている。
一体どこから突っ込めばいいんだ。
ターキーを丸ごと手に持っていること?武器のナイフを食事に使っていること?そのままかじりついていること?
スラムの子なんだ。多少行儀が悪いのは仕方ない。
だが、行儀が悪いの次元を優に超えた暴挙。
周りのお客さんの視線が突き刺さりまくっている。
「レイス!一旦戻そうか!」
彼女から半ば強引にターキーを取り上げ、俺はそれを皿に乗せる。
「…………?」
彼女は首をかしげている。
こりゃ骨が折れそうだ。
「……流石にちょっと行儀が悪いかな。こいつはな、こっちの綺麗なナイフで切り分けて食べるんだ。」
彼女にナイフを持ち替えさせ、手を添えながらちゃんと切れるように促す。
「足の部分に刃を入れて……つっても難しいか。貸してくれ。切ってやるから。」
俺はやっぱりナイフを奪い取り、皿に切った肉を乗っけてやる。
「……(ぽやー)」
彼女は俺の顔を見ながらボーっとしている。
「なんだ?……って君、口元がベタベタじゃねえか。ほらこっち。」
俺は彼女をこっちにこさせ、ナプキンで汚れを拭き取った。
「女の子なんだから、お行儀は良くしないといけないぞー。ま、しょうがないか。ゆっくり覚えていこうぜ。」
「……(こくっ)。……(もぐもぐ)。」
彼女は頷いた後、皿の上の肉を丁寧に口に運んだ。
そんな彼女を眺めていた俺の脳内に、ふと最悪な可能性が過った。
あのナイフの叩き付け方、まさかな……
「そういえば君、殺しとかは……してないよな?」
「(ぶんぶん)」
首を横に振るのをやめてほしい。どっちか分かんないから。




