第十一話 約束
「おじさん、いなくなっちゃったから……」
「……え?」
「2年前から、おじさんはここに来なくなっちゃったんだ。」
―――「あー!また負けちゃった!やっぱりおじさんは紙鳥上手いねえ!!」
「へっへっへ。手先の器用さがちげえんだよ。」
「何をー!次は絶対負けないぞ!!」
「………………。」
「……あれ?どうしたの、おじさん?」
「……リュータ、お前に話があんだ。」
「なになにー?急に怖いじゃーん!!」
「俺は当分ここには来れなくなる。お前と遊ぶのも一旦終いだ。」
「…………は?」
「すまねえな。」――――
「おじさんがそんなことを言ったとき、僕は目の前が真っ暗になったよ。いつまでもずっと遊べると思ってたからさ……」
―――「なんで!なんでさ!?」
「仕事が忙しくなっちまうんだ。親がもう年でな……。」
「そんな……。今までずっと遊んできたじゃんか……。ひどいよ!!」
「本当にすまん。……俺ももっとお前と遊んでやりたかった。」
「僕、どうすればいいの……。嫌だ!嫌だよ!何とかならないの!?おじさんがいないと、僕は……」
「リュータ。」
「なんだよ!」
「これから毎日早起きしろ。」
「……え?」
「これから毎日早起きして、冷たい水で顔を洗え。そんで目が覚めたら、家の外に出て空を見上げんだ。そして呟け。”今日も一日頑張ろう”ってな。……時間は7時にすっかな。」
「……そんなことして何の意味があるんだよ。」
「俺も毎朝、同じ時間に同じことをする。するとどうなると思う?」
「よく分かんない。」
「一緒に同じ空を見上げることができるんだよ。これまで通りな。」
「…………あ!」
「別に俺たちが会えなくなっても、空がなくなるわけじゃねえ。だったら俺たちは同じ空の下で、いつでも繋がってんだろ?」
「おじさん……」
「俺もこれからはハードな日々になると思う。お互い、頑張ってこうぜ。」
「うん……。でも、いつかまた会えるよね?さよならじゃないよね……?」
「大丈夫。お前が空を好きでい続けてれば、絶対また会える。」
「……約束だよ?」
「ああ、約束だ。この空に誓うよ。」――――
「そうやって僕らは別れたんだ。」
粋なおじさんだな。同じ空の下で繋がってる、か。
「……別れる前、おじさんと紙鳥で最後の勝負をしたんだ。」
「そうか……。どっちが勝ったんだ?」
「おじさんだったよ。だから僕は、それからも紙鳥を練習してるんだ。”次は負けないように!”ってね。」
「なるほどな。」
健気な話だ。……あんなに手際が良かったのも、そういう事だったんだな。
「僕はおじさんが来なくなっても、ここによく来るんだよ。やっぱり空が一番良く見えるから。真ん中から見上げる空は、独り占めになっちゃったけどね……」
「それはちょっと寂しいな……。」
「うん。だけど悲しくはなかったよ。いつかまた二人占めに戻るって思えば、元気が出るんだ!」
「強いな、君は。」
「頑張ろうっておじさんが言ってくれたもん!……はーあ。でも、もう明日には無くなっちゃうんだもんね。ここも。」
いくら繋がってるとはいえ、ここが無くなれば二人が会うのは難しくなる。
ここが二人にとっての約束の地であり、いつかの待ち合わせ場所なのだから。
それが無くなるなんて、彼はどれほどの悲しみを感じているのだろうか。
「リュータ……。」
「そんな顔しなくても大丈夫!僕は大丈夫だから!結局おじさんには会えなかったけど、空を好きでい続けたおかげでみんなに会えたもん!!」
「今日だって、こんなに大勢で紙鳥をやれるなんて思わなかった!とっても楽しかったよ!!僕はもう十分幸せ!」
彼はそう言うと、満面の笑みを浮かべた。
「そうか……。」
しかし、彼の笑みは長くは続かなかった。
彼の表情は徐々に悲痛なものに変わってゆき、瞳からは涙がこぼれ始める。
「……うっ…………十分なはずなのに……。ぼ、僕は大丈夫だから…………」
そうだよな。辛いに決まってるよな。
彼とおじさんの約束が潰えるようなものなのだ。なのに笑顔でい続けるなんて、できるはずもない。
「リュータ、君はまだまだ子供だ。無理して笑わなくてもいい。」
「……ひっ……うう…………。」
……この子一人救えないで、この旅を成功させられる訳がない。
あんな話を聞かされたのだ、もうここを壊させる訳にはいかないだろう。
俺は彼の涙を拭い、言った。
「安心してくれ。ここは絶対に壊させない。」
「……本当?」
「ああ、本当だ。この空に誓ってな。」
「ありがとう。お願いだよ……?」
彼の目から、痛いほどの切実さが伝わってくる。
「任せとけ。」
俺はそう言って微笑んだ。
すると、カインも俺の言葉に続く。
「メルト、俺たちで絶対に守るぞ。あんなクソに良いようにはさせねえ。」
彼の声色からは、静かな怒りと確固たる意志が感じられた。
他のみんなも俺に続いてくれた。
「私も、リュータ君のために精一杯頑張ります!!絶対何とかします!!」
「あんなの、私たちがぶっ飛ばしてあげるから!!」
「町や村の人を守るために私たちはいるの。大船に乗ったつもりでいてね。」
誰の表情を見ても、やる気と希望に満ち溢れている。
誰もがみな、この少年のために一丸となっているのだ。
「みんな……。僕、みんなに会えて本当に良かった……!!」
彼の目からはまだ涙が流れ続けていた。
でもきっと、それはもう悲しみの涙ではなかった。
***
「俺に一つ、考えがある。」
現在、時刻は四時。リュータの家に帰ってきた俺は、あの飛行物体を撃退する術を提案しようとしているところだ。
正直、かなりリスクの高い方法のため、あまり胸を張って言いづらいのだが……
「何?メルト。言ってみてちょうだい。」
「うん。紙鳥で遊んでる時思い付いた方法でさ、かなり滅茶苦茶なんだけど……」
「勿体ぶってんじゃないわよ。早く言ってよね。」
「……シャル姉が、エマをあの飛行物体目掛けてぶん投げるんだ。」
「…………はぁ?」
「だから、シャル姉がエマをぶん投げるんだ。作戦名はそうだな……”鳥になれ!エマ!!作戦”としようか。」
「……噓でしょ?」




