第十話 紙で作った鳥
「じゃあいくよ……えい!!」
彼は紙鳥を、展望台の外目掛けて放り投げた。
すると、それは空中を優雅に滑空しながら遠く遠く飛んで行った。
その姿はまるで、空を自由に舞う鳥のようだった。
「おいおい、こりゃすげーな。」
「ええ。これは新しいおもちゃの定番に……」
「すっごおおおおおおおい!!!」
シャル姉の言葉を切り裂くのは勿論、エマだった。
とてつもない興奮が原因か、彼女の瞳はあまりにも輝いていた。もはや直視できないほどの眩しさである。
「あははは。そんなに喜んでもらえると思わなかったよ。じゃあエマさん、やってみる?」
「いいんですか!?」
「もち……」
「ありがとうございます!!!!!」
とてつもない興奮が原因か、彼女は返答を待つこともできなくなっていた。
「じゃ、じゃあ、僕が手本を見せるから、それを真似しながら折ってみて!多分すぐできるから!!」
「わっかりましたあ!!」
「待ってくれ!」
「え?メルトさん、何か?」
そう。実はこの場にはもう一人、瞳を輝かせていた少女がいる。
彼女は意外と子供心を忘れておらず、こういうものが好きな傾向にあるのだ。だから紙鳥が飛んでいる間表情を注視していたのだが、確かに瞳が輝いていた。
だが一方彼女は意地っ張りでもあるから、こういう時恥ずかしがって一歩引いたりもする。でも、それは良くない。
旅は一期一会なのだ。全ての機会を大切にしてこそだろう。
「スピカにもやらせてやってくれ!」
俺は知ってるぞ。お前が密かに興奮していたのを。
「ちょ、ちょっと!何勝手に決めてるのよ!」
フン、そんな返答は想定済みよ。
虚勢で固めた砂の孤城なぞ、一息で吹き飛ばしてくれるわ!
「じゃあお前、やんなくてもいいのかよ?」
「…………やる。」
全く、素直じゃない奴だ。
まあ意地を張りすぎず、最後にはちゃんと”やる”と言えるのが、コイツの良い所だな。
「おっけー!じゃあスピカさんも、僕のを見ながら折ってみてよ!」
「わかったわ……。」
かくして二人は、彼の手本を見ながら紙を折り始めた。
彼の言った通り、すぐに二人は手本と遜色ない紙鳥を完成させた。
「できました!」
「私も、多分いい感じにできた。」
「うん!簡単だったでしょ!?それでこの紙鳥はね、どっちが遠くへ飛ばせるかで競うこともできるんだ!二人とも、やってみれば?」
「それはまた面白いわね。……エマ、覚悟はいい?」
「望むところです!!」
二人の間に白い火花が走り始める。
どちらも負けず嫌いだからな。こういうのは燃えるタチなのだろう。
「よーし!じゃあ僕の掛け声に合わせて投げて!あとコツなんだけど、優しく送り出すイメージで投げるといいよ!!」
「了解よ。優しく……優しく……」
「分かりました!送り出す……送り出す……」
いつになく真剣な表情で言葉を反芻する二人。空気は徐々に重くなっていく。
そしてとうとう、戦いの火蓋が切られるようだ。
「じゃあ行くよ!……3!2!1!ハイ!」
少年の掛け声に合わせ、二羽の鳥が華麗に羽ばたいた!……と、思いきや。
「あ、あれ?私の紙鳥ちゃんが……」
エマの紙鳥は、まるで飛び方を知らないかのように急降下し、すぐに視界から消えてしまった。
一方スピカの紙鳥は、先程のリュータのものと同じように村を目掛けて羽ばたいていった。
結果だけ見ればスピカの圧勝だ。だが……
「あ…………あ……あああ…………」
エマが崩壊している。あまりの絶望に、言語能力も無くなってしまった模様である。
「え、えっとね!羽根をしっかり立ててなかったり左右対称に折れてなかったりしたら、失敗しちゃうこともあるんだ!大丈夫!次はできるはずだよ!!」
「そ、そうね。エ、エマ。もっかいやろ……?次はうまくいくって。」
「う……うう…………」
何て気まずい雰囲気なんだ。勝った側が気を遣うという、遊びにあるまじき雰囲気である。
エマにもう一度チャンスをやるのはいいが、もしまた惨敗でもしたら目も当てられないことになってしまうぞ……。ここはエマの勝率を少しでも上げる措置をとらねば。
「なあ!次はみんなでやらないか!?リュータも入れてさ!最強決定戦だ!」
「あら、それはいいわね。私も少し気になってきたところだったの。」
「……言っとくが、俺は負けねえぜ。」
「わーい!みんなでやるの面白そう!やろやろ!!」
「よし!決まりだ!エマ、次はいけるさ!元気出せって!」
「……うん。」
何とか雰囲気を持ち直した俺たちは、少年のお手本に従って紙鳥を完成させていく。
いざ自分でやってみると、綺麗に折るのは中々難しい。勝負はここから始まっているみたいだ。
「うし!できたぞ!」
我ながら良いものができた気がする。形はきちんとした左右対称で、羽根もしっかり立てた。
いざ完成させてみると、かなり愛着が湧くもんだな。これが無様に落下していったら……と考えると、言語能力の喪失も頷けるというものだ。
「私も、完成よ。」
「うん!みんな上手だね!でも負けないよー!!」
「いや、勝つのは俺だ。」
やるからには真剣勝負だ。特定の誰かに忖度などはしない。
俺はこの愛鳥と共に、必ず勝利を掴む。
「じゃあいくよ!……せーのっ!はい!」
少年の掛け声とともに、6羽の鳥がスタートを切った!!
「あ…………」
早速一羽の鳥が落下していった気がするが、きっと気のせいだろう。
「いけ!俺のカイン・ファンタスティックバード!!」
名前ダサ。
「唸れ!私のシャルロッテ・スペシャル!!」
技名みたいだな。
「負けないわ!頑張って!スピーキング・スピカ!!」
センスが深すぎて分からん。
全く、どいつもこいつもくだらない。
勝つのは俺のジャグリング・トリックスターV2で決まりだな。
「っておい!誰だよ!俺の奴にぶつかってきてんのは!?」
「はああ!?アンタの奴邪魔なのよ!!」
なんと、始まって少しのところでスピカの紙鳥が俺の紙鳥に衝突。結果、二人仲良く墜落してしまった。
俺たちは紙鳥ですらいがみ合ってしまうのか。やはり俺たちは宿敵。相容れることはできないようだな。……さらば、俺のトリックスター。
失意の眼で、勝負を見届けようと前を向く。するとそこには、一歩も譲らぬ戦いを繰り広げている3羽の姿があった。
「2人とも、すごいね。だけど絶対負けない!」
「ファンタスティックバードを舐めんじゃねえ。俺が勝つ。」
「そんなクソみたいな名前の奴には負けないわ。うちのシャルロッテ・スペシャルは強い。」
「お前が言うんじゃねえ!」
3羽ともブレることなく順調に飛行を続けている。まさに互角、このままどこまでも飛んで行ってしまうのではないか、と思うほどの接戦だ。
そんな時、突然勝負は動く。横殴りの風が吹いたのだ。
「ちっ!耐えやがれ!」
「うわっ!こっち来ないでよ!」
強風でバランスを崩したカインの紙鳥が、リュータの紙鳥を掠めた。リュータの紙鳥は左右にゆらゆらと揺らされる。
安定感を失った二羽は、何とか持ちこたえながらも徐々に高度を落としていった。
シャル姉の紙鳥は、それを意に介さず悠然と距離を伸ばし続ける。
「……勝負あったようね。」
戦いは、シャル姉の勝利で幕を閉じた。
「いやー!負けちゃったー!カインさんのさえなければなあ!」
「それはこっちのセリフだ!お前のが邪魔だったんだよ!」
「勝負は時の運ってことね。」
俺たちが早々に脱落し、3人のデッドヒートをシャル姉が制す。振り返ってみれば妙に納得感のある結末だ。
あ、エマは……
「……………………。ヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁ…………。」
もう駄目だな。ヤバめの邪神みたいになっちまった。
圧倒的な闇、直視できない。
変に触れても祟られそうだ。諦めよう。
「それにしても、お前すげえな。ガキのくせにこんなもん作っちまうなんてよ。本当にいつか翼も作っちまうんじゃねえか?」
「えへへ。……作れたらいいなあ。」
11歳にして紙鳥の開発。確かに翼を作るのも夢ではないかもな。
……っと、そうだ。そういえばまだ話の途中じゃないか。
「なあ、それでおじさんとの話はどうなったんだ?」
「ん?……ああ!そうだった!紙鳥が楽しくて忘れてた!!」
「って言っても、もうあまり話もないんだけどね。」
「おじさん、いなくなっちゃったから……」




