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笑顔が見たい
イルナはあまり表情を見せない少女だった。
それは妃教育の一端だったのだろうが、ディオスはイルナの笑顔が見たかった。
「そういえば、イルナ様がお読みになっていた冒険譚を読みましたが、海外に旅に出ることがない我らにとってこころ踊る話でしたね」
するとイルナはパッと顔を輝かせて言った。
「そうなんです。船に乗って世界中を旅する、それが私の夢なんです。今世で叶わなければ来世ではきっと私は冒険者になって世界中を旅をするのです」
普段見せない無邪気な笑顔と言葉に俺は笑みを浮かべた。どんなに教育を受けても中身はまだまだ幼い10歳の子供なのだ。
「あ…失礼足しました。どうか今の言葉はお忘れください」
ハッとして我に帰ったイルナは控えめにそいうと顔を伏せて耳まで赤くしていた。
「では、今の話は2人だけの秘密にしましょう、その代わり、もし来世で出会えたら一緒に旅をしてくださいますか?」
俺がそう言うとイルナは恥ずかしそうにはにかんだ笑顔でコクリと頷いてくれた。