9.これからもよろしくねルリハたち
話を聞いている途中で、ふと思う。
「あの、いいかしら?」
「「「「「はい! なんですかキッテ様!?」」」」」
普段は自由気ままなのに、私の言葉にはみんな揃って返事をする。王国の騎士団みたいな統制の取れ方だ。
「そもそもなのだけど、みんなの声って、他の人たちにはやっぱり、小鳥の囀りに聞こえているのかしら?
こういうときは、決まって最初の子が答えてくれた。ぴょんと私の肩口に止まると。
「そうだねキッテ様! キッテ様にしか僕らの言葉はわからないんだ」
「他の小鳥の声はわからないのだけど……それが不思議なのよ」
テーブルに集まったルリハたちも「あーね」「わかる」「それな」と、各々、何やら納得したみたいな感じ。
「ちょっと、私だけ仲間はずれはずるいわよ」
最初の子がテーブルに降りて振り返った。
「あのねキッテ様……味が酸っぱくて苦手って言ってたけど、実は……」
酸っぱい。で、思い出す。
そういえば、最初の子が初めてこの屋敷の窓から入ってきた時には、普通の小鳥の鳴き声だった。
喋ったのは二度目に会った時。だけど、その前に――
「あの、赤い実? サンザシかしら?」
「うん。秘密のサンザシ。どこにあるかも秘密だよ。あれを食べると僕たちの言葉がわかるようになるんだ」
「そうだったのね」
「時々、効果が消えちゃうこともあるから、その時は美味しくないかもしれないけど……」
最初の子がクリッとした瞳を伏し目がちにする。
背中を指でなぞるように撫でた。嬉しそうにぷるぷるっとなって、他の子たちから「「「「「ずるいー!」」」」」と声が上がる。
「わかったわ。酸っぱいのは苦手だけど、みんなとお話しできなくなるのは寂しいものね。これからも食べるから、安心して」
「「「「「わーい!!」」」」」
青い小鳥たちは揃ってぴょんぴょんテーブルの上で跳ねた。
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私たちは符丁を決めた。
基本的に、私は王城に居る。その時は私の元に舞い降りてこないように。
緊急事態の時には一羽が代表で伝えに来るようにしてほしい。
何か重大な情報が入ったら、朝、王城の寝室の窓辺に赤い実を置いておくこと。
屋敷で話し合いができる時は、その実を私が食べる。どうしても外せない公務の時は、赤い実は置いたままにする。
公務をしない休日を決めて、屋敷で羽を伸ばす。週に一度は行けるようにする。
そんな感じ。今は大雑把にだけど、必要に応じて変えていくことにはなるかもしれない。
山盛りのクッキーが無くなり、紅茶もポット一杯飲み終えたところで。
ルリハの一羽が私の前で尾羽を左右に揺らした。
「超嬉しいけどさ、あんまり旦那様をひとりぼっちにしちゃ可哀想よ?」
「うっ……わ、わかってるわよ。レイモンドは優しいから……つい、甘えちゃうけど」
他の一羽が「甘える時はベタベタ甘えて欲しいと思うぜ、男ってやつぁよぉ!」だってさ。うん、そうします。あの人を不安にさせたくもないし。
今日も一通りルリハたちのお話を聞いて、背中を撫でてあげたりもしたけど、王都は比較的平和みたい。
まあ、つい最近、犯罪組織だの国家転覆を狙った輩が一斉検挙されたばかりだものね。
しゃなりしゃなりとした足取りのルリハが私の前で両翼を広げてポージングした。
「ところで姐さん」
「あ、あねさん?」
「おっと……俺としたことが……キッテ様。諜報部らしく一つ、情報をお持ちしやした」
緊張感が走った。また、王都で何か事件の火種が燻っているの?
「なにかしら?」
「へい。貴族の女性の下着ばかり狙う怪盗のアジトを見つけた話になります」
それは、一大事。私は両手を軽く口元で組むと。
「詳しく……聞かせてちょうだい」
これからも午後のティータイムの片手間で、私は王都を影から守ることになりそうね。