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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
そのあとのこぼれ話
8/82

8.大切なものはどちらも守りたいと思います

 夜になる。今夜はレイモンドはグラハム大臣との重要な会議で遅くなるみたい。


 今がチャンス。一旦、城を抜けて町を出て、森に行ってルリハたちと会議しないと。


 寝室とガーデンパーティーで二回、人に見られている。


 三回目は偶然じゃ済まされない。動きやすい服に着替えて部屋を出る。


 王宮内を何気ない顔で歩いていって、城の中庭を抜けると……。


 外に通じる跳ね橋が上がりっぱなしだった。見張りの衛兵もいて、とてもじゃないけど抜け出せる雰囲気じゃない。


 でも、言うしかない。


「あ、あの、ちょっと町の方にお散歩に行きたいのですけど」

「なりません王妃様。護衛も無しに城外に出歩かれては。お戻り下さい」

「はい……」


 他に返す言葉もない。ああ、私の背中にルリハたちみたいな翼があれば、寝室の窓から森までひとっ飛びなのに……。



 会議を終えてお疲れなレイモンドが、寝室で私の肩を抱く。


「大丈夫かいキッテ?」

「は、はい? え、ええと、だ、大丈夫です」

「なんでも城を抜け出そうとしたっていうし。この暮らしが窮屈だったかな?」

「そんなこと……」

「なにか隠し事をしていないかい? 夫の僕にも言えないのかな?」


 レイモンドは心配そうだ。疑うのではなく、ただただ、私を案じるような優しい眼差し。


 話してしまった方がいいのかしら。ルリハたちのこと。私が手紙を書けた理由でもある。

 レイモンドを信じていないわけじゃない。


 それでも、私が秘密を口にしたら、どうなってしまうのか。怖かった。レイモンドがうっかり誰かに話してしまって、それがきっかけでルリハたちが捕まえられてしまわないだろうか。


 ルリハの言葉は私にしかわからない。だから、私が誰にも言わない限り、安全は保たれる。


「レイモンド様。隠し事なんてありません」


 じっと見つめられた。心苦しい。

 ごめんなさい。説明するのも怖いし、上手くも言えない。


 そっと青年は私のおでこに自分のおでこをつける。


「僕は君を疑ってしまった。婚約を破棄した時も、心のどこかで君が本当に国を滅ぼすのではないかと、思った。最後まで信じてあげられなかったから、今度こそ君の言葉を信じるよ」


 うううう、罪悪感で死んじゃいそう。

 レイモンドも守りたいしルリハも守りたい。


 青年はそっと腕を広げた。


「さあ、おいで」

「はい……」


 彼の両翼に優しく包まれる。こうして夫婦になってから、ますますレイモンドの優しさを身近に、何度も感じるようになった。


 ルリハの秘密は明かせないけど――


「陛下……お願いが……あります」

「なんだいキッテ?」


 優しく私の髪を撫でるレイモンド。

 ごめんなさい。わがまま、言わせてもらいます。


「森の奥のお屋敷を……また、使わせてほしいんです」

「あの屋敷を!? あれは……君を閉じ込める檻なのに」

「気に入ってしまいまして」


 青年は黙り込む。と、急にぎゅうっと強く、背中に腕を食い込ませるようにして私を抱きしめた。


「わかったよキッテ。きっと……君には一人で過ごす時間も必要なんだね」

「あ、え、あの……本当によろしいんですか?」

「悪いもなにもないさ」


 そっと身体を離すと青年と見つめ合う。自然と唇を重ね合った。


 私が外で誰かと会って、それが不倫だったりとか……思わないのかしら。


 ううん、この人は私を信じてくれているのだ。


 お互いの手のひらを合わせて、指を絡めるように握り合った。



 こうして――


 晴れて私は陛下の承諾の元、森の中の屋敷を別邸として使えるようになった。


 いつでも行き来して良し。送迎は馬車。護衛は最低限だ。

 馬車を操る御者は、前にも屋敷で色々と取り仕切っていた、寡黙な老執事だった。


 森の奥、木々のアーチを抜けて屋敷に戻る。


 帰ってきた気がした。


 屋敷の外観は相変わらずのボロっぷりだけど、中は掃除がされていた。


 二階の自室に戻る。


 老執事がバスケットから山盛りのクッキーをテーブルに広げた。


「あ、あの、これは?」

「ご必要でしょう。紅茶も出来上がりましたら、廊下側の台の上に置いておきます。なにかあればお申し付けください」


 老執事はしなやかな一礼をして、部屋を去った。


 うっ……うん。バレてるかも。少なくとも、私がルリハたちとお茶を楽しんでいることは、確実に。


 けど、深入りはしないようにしてくれているみたい。


 紅茶が出来た頃合いを見計らって――


 私は部屋の窓を開いた。


 ぶわあああああああああああっと青い小鳥たちがなだれ込む。


 知らなかったら恐怖しかない。


「わーいキッテ様だ! おかえりなさい!」


 いつも一番に肩口に乗るのは、最初の子だった。


 あとはもう、各々自由に歌ったり踊ったり。


「自分、クッキー良いッスか?」

「んもー! おかえりなさいなんだから! これからはずっとこっち?」

「なわけねぇだろ! キッテ様は王妃様なんだぞ? けど、俺も嬉しいよ。俺らとの時間、また作ってくれたんだろ?」

「ほら言ったじゃん! キッテ様なら絶対にあちしらを捨てたりしないって」

「身をひくことも本気で考えてたくせに、アンタ……泣いてんじゃん」

「ままま、いーでしょ、キッテ様との再会に乾杯ってね」


 一同が一斉に私を見た。


「「「「「聞いて聞いてキッテ様!」」」」」


 よほど溜まっていたみたいね。私はミニテーブルの椅子に座る。


「はいはい、みんな落ち着いて。今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしら?」


 我先にとクッキーよりも、私の前にルリハたちが並んで押し合いへし合いになる。


 順番を決めて、ルリハたちの見聞きしたことに耳を傾けた。

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