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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
そのあとのこぼれ話
7/82

7.新しい朝がなぜかホラー展開になりました

 小鳥たちの声で目が覚める。


「キッテ様聞いて聞いて! あのねあのね!」

「あっ! ずるいぞお前! 俺ちゃんが先にお話ししたいのに!」

「みんな静かにッ!! キッテ様はまだお休み中です!!」

「そういうお前が一番声がデカいってわかってんの?」


 パッと目を開いて身体を起こす。


 天蓋付きの大きなベッド。隣でレイモンドが寝苦しそうな、なんとも言えない顔をしていた。


 開かれた大きな窓から、ようやく顔を出した朝陽が差し込み、部屋の中をうっすら照らす。


 青一色。ルリハたちが私の元に集まっていた。


 多分、事情を知らない人がみたら、集合体恐怖症で悲鳴をあげたり、なんらかのホラーな演出って思うかも。


 私の起床に合わせてルリハたちは大はしゃぎ。


「「「「「おはようございまーす! キッテ様!!」」」」」


 挨拶の大合唱。

 私は自分の口元に人差し指を当てた。


「おはようみんな。もう少し静かにね。レイモンドが起きてしまうわ」


 ルリハたちも私を真似て、片方の羽でクチバシを隠すようにした。


 けど――

 遅かったみたい。


「んっ……ああ、なんだか今日は小鳥の声がやけに大きい……うわああああああああああああああ!!」


 レイモンドが悲鳴をあげた。

 まあ、そうなるわよね。部屋中小鳥まみれで天然の羽毛布団状態なのだもの。


 旦那様の悲鳴に驚いて、ルリハたちが一斉に窓の外へと飛び出した。


 少し遅れて――


「陛下! 王妃様! ご無事ですかッ!!」


 城の衛兵たちが寝室に突入してきた。


「だ、大丈夫よ。レイモンドったら、悪い夢でも見ていたのね」

「鳥……鳥が……はは、はははは」


 そのまま青年はパタンと枕に頭を埋める。

 よかった。寝ぼけていたみたい。


 兵士たちは安堵の表情を浮かべて「失礼しました!」と、持ち場に戻った。


 これは、良くないかも知れない。


 森の屋敷ならいざ知らず、王城にルリハたちが押し寄せるのは目立ってしまって仕方ない。


 そのうち、勘の良い誰かが「王妃は鳥を操って人々を監視している」なんて言い出したら……半分当たってるだけに反論できない。


 私はベッドを出るとテラス付きの窓を閉めた。


 あの子たちを拒むみたいで、胸が締め付けられる。


 ごめんね、みんな。レイモンドが驚いてしまうし、あまり目立つのはルリハたちにとっても危険だから。


 ただでさえ美しい色をしていて、あんなにも愛らしいのだもの。誰かに捕まって籠の鳥になったら、かわいそう。


 けど、このままだと王宮で、みんなの楽しいお話を聞けないわね。


 公務もあるし、困ったな。



 王妃になると夜会や陛下の狩猟のお供に、本当に妹になったアリアと観劇したり、大臣の揃う会議にも同席するなどなど。


 毎日忙しかった。


 少し変わったことといえば、ルリハたちに鍛えられたおかげで、何人もの貴婦人たちのお喋りを聞き分けることができたし、ちょうどいいタイミングで相づちを打ったり、相手に詳しく質問して、会話を引き出せるようになったこと。


 自分から話すのは相変わらず苦手だけど、気持ち良く話してもらうのを心がけた。


 けど――


 やっぱり王妃という立場もあって、私のご機嫌取りに来る人たちも多い。


 無邪気なルリハのお喋りが恋しくなった。


 今日の午後は王宮の中庭でガーデンパーティー。青空の下、紅茶と軽食にお菓子も用意して、お喋りの時間。


 こういった場所でも人脈作りとか、非公式な場だからできるちょっと大胆な政策の議論なんてのも行われる。


 もっぱら、そういうのはレイモンドに任せて、貴婦人たちはファッションや演劇の流行のお話に夢中だった。


 ちょっと退屈。だけど、表情に出さないようにしないと。公務なのだもの。


 不意に、一羽の青い小鳥が私の肩にとまった。

 貴婦人たちが「あらまぁ」「王妃様の魅力に小鳥まで」と驚く。


 ルリハだった。


「うちもまぜてキッテ様! あのねあのね! この前ね! 猫とカラスが大げんかしてたの! あれ? どうしたのキッテ様? うちの言葉、ちゃんと聞こえてる?」


 聞こえているけど返事をしたら、変な人だと思われてしまうかも。


「あ、えーと小鳥さん。遊びに来るのはまた今度にしてくださいませんこと?」

「小鳥じゃないよルリハだよ! あーもう! キッテ様どうしちゃったの? ねえねえ! このクッキー食べていい?」

「クッキーはまた今度にしましょうね」

「えー! いーじゃんいーじゃん! みんな食べてるんだしぃ!」


 貴婦人たちが「まるで小鳥とお喋りなさっているみたい」と、驚いた顔だ。


 よくないかも。けど、まあ、一羽くらいなら。


 と、思ったのも束の間――


 青空にルリハの群れが現れて、次々と降りてきた。


「あ、ああ、ええと、どうしましょう」


 ルリハたちは私の周りに集まった貴婦人たちの肩や帽子の上にとまって歌い出す。


「「「「「お茶会ルリハも参加する~!」」」」」


 青い山が出来てしまった。


 衛兵がやってきてルリハたちを手で追い払う。


「ご無事ですか皆様方!?」


 青い小鳥の群れはそれぞれキャーキャーワーワー言いながら、散り散り飛んでいった。


 あー、そうでした。


 一羽来たら、情報を共有して集まってきちゃうのよねルリハたちって。


 困った。


 王都で集まられると、目立って仕方ないわ。

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