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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
物々交換でどこまで素敵にできるのか競い合ったお話
61/82

61.なんだか次になにに変わるのか楽しくなってきましたね

 王宮に戻るとアリアの部屋へ。

 さすがというか、さっきのダリウスの部屋がアレすぎたのよね。


 品の良い部屋でソファーとローテーブルを挟んで。


「ねえアリア。恋愛小説に興味は無いかしら?」

「お義姉ねえ様からオススメの本だなんて、いったい何が起こりますの?」

「警戒することないでしょう。実は……」


 ナタリア・ハーヴェイとゲームをしていることだけ教える。アリアは兄のレイモンドとも仲が良いから、彼に伝わるとフェアじゃなくなる情報は伏せる。


 ナタリアが不正をしているからって、私がするのは何か違う気がした。勝つなら気持ち良く勝ちたいものね。


 聞き終えるとアリアは。


「つまり、ナタリアさんとどちらが良いモノを交換できるかということですのね? 楽しそうですけど、お義姉様が銅貨からなんて不公平ですわ!」

「それも込みで楽しむ感じなのよ」

「でしたらこの本……金貨三枚で買い取りますわよ!」


 アリアったら、ゲームを壊しちゃうつもり?


「できればもう少し、交換しても自然なものが良いのだけれど」

「あら、そうですのね。でしたら……あっ!」


 何か思い出したみたいでアリアは化粧台の引き出しから、一枚のチケットを取り出した。


「実は、来月の初週末に封切りになる『夜の騎士・闇に咲く紅い薔薇』の特等観覧席チケットなのですけど、ちょうど別の予定が入ってしまって行けなくなってしまいましたの」


 半裸コウモリ男の一件が落ち着いてすぐ、アリアは戯曲を発注。今回も私が原案協力はしたけど、原作はアリアの名前でお願いした。


 彼女は腕利きの作家を何人も抱えてるみたいね。アリアのお眼鏡にかなった若い劇団をまるごとスカウトして、興行の日程まであっという間に整えてしまったみたい。 


「行けないなんて、それは残念ね」

「千秋楽は観に行けそうですけれど、だから、このチケットを誰かにお譲りしようと思ってまして」


 私は恋愛小説「愛の包囲網」を手に取った。


「なら、ぴったりじゃない」

「そうですわねお義姉様!」


 異国の銅貨は本になって、今度は演劇のチケットに変わった。



 夕暮れ時――


 私はブラッドレイ侯爵家のタウンハウスを訪問した。


 嫡男ヴェルミリオンは昼間は寝ていることも多いみたいで、ちょうど彼にとっては夕焼けは朝陽のようなものみたいね。


 客間に通される。少し遅れてヴェルミリオンが姿を現した。


 テーブルを挟んで座ると。


「これはこれは王妃様。自ら足をお運びになられるとは……いったいどのような御用件で?」

「実はね……」


 物々交換をしている経緯を説明すると、青年はにこやかに笑う。


「なるほど。ゲームですか。王妃様もそういった余興を楽しまれるのですね」

「私をなんだと思っているのかしら。普通の人間だもの。遊んだっていいじゃない」

「おっと失礼。ですが普通などとは思って欲しくないものです」


 執事やメイドは人払いを済ませていても、彼は外面を被ったままね。コウモリマスクが本当の顔なのかもしれないわ。被る方が正体なんて、なんだか矛盾しているけど。


 私はチケットをテーブルにスッと置く。


「実は初日の特別観覧席のチケットを手に入れたのよ」


 青年の目の色が変わった。赤毛が逆立つように揺れる。


「なにッ!? これは……アリア王女が手掛ける『夜の騎士・闇に咲く紅い薔薇』の観劇券ではないかッ!! どれほど手を尽くしても入手できなかった初演の……しかも特等席ッ!?」


 本性、出ちゃってるわよ。まあ、彼のことだから眷族コウモリを配置して、超音波で周囲に密偵だの聞き耳を立てていそうな人間がいないかは、探っているのでしょうけど。


 たしかヴェルミリオンって、アリアが手掛けた黒猫イチモクの演劇の大ファンなのよね。


 それを観たからコウモリたちと夜の悪人退治を始めたんだっけ。


 自分が感動した作品を生み出したアリアが、今度は自身をモチーフにした劇を手掛ける。


 観たいわよね。絶対に。しかも一番良い席で。


 私はちょっぴり大胆に出た。


「このチケットに見合うような何かと、交換していただけないかしら?」

「うぐぐ、喉から手が出るとはまさにこのことか……ああ、観たい。観たいぞ! 誰よりも早く! ぐあああっ! 貴様の術中というわけか!?」


 苦しんでる苦しんでる。


「あっ……けどお金はダメよ。それだとゲームが面白くなくなってしまうから」

「し、仕方ない。しばし待て」


 本性剥き出しのまま、赤毛の青年は一旦席を外すと、ほどなくして一本のワインを手に戻ってきた。


「当家所有のシャトーで最高の当たり年の赤の一本だ。極上の二十年モノになる。どうだろうか?」

「二十年って……」

「これ以上の品はタウンハウスには所有していないのだ! 頼む!」


 血よりも濃そうな赤ワイン。私はあまり嗜まないから価値がわからないけど――


「じゃあ、交換しましょう」

「ありがたい……いや、感謝いたします王妃様」


 チケットが手に入って冷静さを取り戻したのか、ヴェルミリオンは小さく一礼した。


 このまま素晴らしいワインをレイモンドに贈るのもいいかもしれない。


 けど――


 なんだか楽しくなってきたかも。まだ日数もあるのだし、ここで止めてしまうのはゲームを楽しむという意味では、もったいないわね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >なんだか次になにに変わるのか楽しくなってきましたね 読んでるこちらもメチャ楽しく面白いです、どんどん面白いです。この先の展開が全然想像できない^_^ コウモリ侯爵もイイ味出てきました! …
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