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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
青い鳥との出会いのお話
6/82

6.お世話になったあの子たちと別れの時が来たみたいです

 翌朝――


 目覚めると森が静かだった。小鳥の声が聞こえない。


 シンと静まりかえっていた。


 窓は開け放たれたままだけど、この時間なら誰か飛んできててもおかしくないのに。


 結局……その日一日、待てど暮らせどルリハは一羽もやってこなかった。


 翌日はバスケットにランチボックスと飲み物を用意して、私は森の中を歩いた。


 湖畔にたどり着くと敷物を広げて、一人ぼんやりサンドイッチを食べる。


 誰かつられてやってこないかしら?


 夕暮れになったので、私は帰ることにした。


 いつも三時のおやつはどっさり用意した。


 誰もこないから余らせてしまって、焼いてくれた老執事に申し訳ない気持ちになった。


 もしかして――


 ルリハは全部、私が見ていた夢か幻だったのかしら。


 明くる日の朝、いつものように窓を開けっぱなしにしていたのだけれど――


 テーブルの上に赤いサンザシの実が一粒、置かれていた。


「誰か来てたんだ」


 もういらないと言ったのにね。赤い実を見ているだけで口が酸っぱくなる。


 これって、もしかして別れの挨拶なのかな。


 あの子たちは越冬する渡りとかしない、この森の固有種だって言っていたけど。


 みんな一斉に居なくなってしまった。


 サンザシの実を見て、思い出す。


 ここに来てからしばらく、空いた時間に費やした読書の記憶が甦る。


 サンザシの花言葉の一つに「希望」があった。それが今、実ったということなのかもしれない。


「そっか……私も……帰る場所があるのね」


 赤い実を頬張る。酸っぱくて……涙が出た。



 私は王都に戻った。両親は大歓迎だ。だって、王妃様なのだものね。生んでくれた二人にこう言いたくはないけど、やっぱりちょっと都合が良すぎると思う。


 レイモンドは膝を折って礼をして迎えてくれた。


 この人はルリハたちにも優しかったし、きっと良い王様になってくれる。


 私も……支えてあげないと。


 玉座の間に迎えられ、彼に「ありがとう。戻ってきてくれて」と言われた。


 いきなり彼にぎゅっと抱きしめられて、心臓が口から飛び出すかと思った。けど、ようやく彼を許して、その愛を迎えられるようになれた。


 王女アリアにグラハム大臣。騎士団長ギルバートも手を叩いて祝福してくれた。


 教皇猊下から婚姻の儀の予定を聞かされた。


 すべてを受け入れよう。あの子たちが望んでくれたのだもの。



 大聖堂で婚姻の儀が執り行われて、私はレイモンドと夫婦になった。

 参列者は大賑わいだ。


 誓いの言葉と指輪の交換。そして彼と口づけを交わした。


 盛大な拍手とともに、バージンロードを歩いて大聖堂の外に出ると――


 青い空に――


 青い小鳥たちの群れがハートマークを描いて編隊飛行をしていた。


「み、みんな……来てくれたの!?」


 一羽が私とレイモンドの元に降りてくる。


 私の肩にとまってクチバシを開いた。


「おめでとうキッテ様! 僕らもこれからは森と王都と両方で暮らすことにしたんだ! だって僕らは自由だからね!」


 レイモンドは「ああ、君の友達かい?」と優しく微笑みかける。どうやらルリハの言葉が解るのは、私だけみたい。


「ええ、とっても綺麗な小鳥さんでしょ」

「名前はあるのかな?」

「ルリハって名付けたの。さあ、みんなの元にお行きなさい」


 肩にとまった最初の子が、ぴょんっと跳ねて空の青に溶けていった。


 祝福の鐘が鳴り響く。


 私は今、幸せだ。

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