表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
真夜中に徘徊する怪人のお話
54/82

54.会議室を舞台に推理ショーが開演してしまいましたね

 騎士団長の姪っ子にして迷探偵。シャーロットがテーブルについた私たちに説明を始めた。

 彼女ってば、まるで舞台の中心に咲いた主演女優みたいね。


「不審者……半裸男の正体と目的。それを解き明かさないのは、焼きたてのパンにバターを塗らないようなものです」


 別にバターを塗らずに食べるのが好きな人もいると思うのだけど。

 なんて、言うのも野暮なので聞くことにした。


 シャーロットは赤いドレスの胸元にそっと手を添える。


「まず、なぜ男が夜しか行動しないのか。ギルバート叔父様ならおわかりですよね?」

「まったく……推理をショーにしなければ気が済まないのか。留学して何を学んできたんだ……」

「わたくしの流儀ですので。話を戻しますけど、夜にしか不審者が動かないのはなぜか?」

「昼間は寝ているのだろう」

「叔父様、真面目に答えてください」

「無論、言うまでも無く人目に付かないようにするためだ」


 赤いドレスをふわりとさせてシャーロットは騎士団長の叔父の顔を指さした。


「異議ありです。不審者には目撃情報がありますから」

「夜に行動していても、王都は人が多いから見られることもあるだろう」

「そこです。不審者はむしろ見られたいのです」

「何をバカなことを……」

「本当に目立ちたくないなら、得体の知れないマスクを被り上半身裸になんてなりません。目撃者たちにあえてその異様な姿を見せているのです……よね? キッテ様」


 急に不安そうになって、シャーロットは私に確認した。


 どうして巻き込むのよ。


 と、思ったけど、捜査令嬢の言っている内容は気になるわね。


「どうして異様な姿なんて見せる必要があるのかしら?」


 聞き返すとシャーロットはホッと息を吐く。


「ええ、そうです。見せる必要があるんです。いくつかの効果が考えられます。一杯の濃い紅茶で二つの目がぱっちり冴えるように。まず、不審者は不審者として目立つことができます。仮にその不審者が犯行後、マスクを外して普通の町人の姿に変装したら……」


 ずっと静観していたレイモンドが「なるほど、追っ手から姿を消せるというわけか」と唸る。

 シャーロットはすかさず。


「陛下の仰る通りです。半裸男という自身の影を囮に、姿を消すのです。異様な姿であるほど、目撃者の印象にも残ります。証言は必ず『マスク』と『半裸』になって、不審者の他の情報は限りなく、小さくなります。満月に隠された淡い星の輝きを、わたくしたちはつい見逃してしまうのです」


 一々、演技っぽいわね。アリアが「シャーロットさんをモデルに……主演にした戯曲もおもしろそう」って、もう楽しんじゃってるし。


 ともかく、犯人はわざと異様を見せて目撃者の印象を操作した……ってことね。


 主演女優は続けた。


「半裸男は無名ではいられないんです。彼の行動は私的ながら、悪党に天誅を加えること。続けていけば人々の間で噂になるでしょう」


 ギルバートが不機嫌そうに首を左右に振る。


「顔を隠した名声にどれほど価値があるものか」

「叔父様。謎が謎を呼び、ハイハイしていた噂はあっという間に二足歩行して王都に駆け巡るのです。人々は口々に半裸男の正体について口にし、好奇心から憶測が飛び交う。宣伝などしなくても、いずれ王都のみなの知るところとなります」


 謎……ね。私たちですら、一体何者で、何が目的なのかと興味をそそられてる。


 騎士団長は腕組みした。


「結論から話しなさいシャーロット」

「では……ずばりと。半裸男の目的……それは……」


 たっぷり溜めてから。


「王国民の支持を集めて国家体制をひっくり返すことに違いありません。反乱が芽吹く前に、この謀反者を捕縛する必要があります」


 大臣ガイウスが「ほぅ。それは大胆な仮説ですな」と目を丸くする。

 ギルバートが頭を抱えた。


「根拠はなんだね?」

「この男は恐らく『組織』と通じているはず。国を裏から牛耳ろうとする非道なる『組織』の先兵なのです。留学先においても、そういった輩の噂や気配を、わたくしも見聞きして参りました」


 ここで「組織」……か。王国だけじゃなく、国境線を越えて色々な場所で活動しているのね。


 ギルバートが眉間にしわを寄せた。


「まったく……先ほどから飛躍しすぎだ。君は一度こうだと決めつけると、視野狭窄しやきょうさくになりやすい」

「感性的な知覚も活用してこその推理力です……よね、キッテ様?」


 いちいちこっちに確認とろうとしないでシャーロット。投げた骨を拾って戻る仔犬じゃないんだから。


 私は氷の仮面を身に着けて。


「難しいことは私にはわかりません」


 と、受け流した。


 結局――


「皆様……姪が大変失礼いたしました」


 ギルバートが頭を下げてシャーロットを連れて先に退室した。


 シャーロットの推理は納得させられるところもあるけど、危なっかしさは相変わらずみたい。

 やっぱり私がなんとかしてあげないと、いけないかも。


 気になるのは「組織」が関係してるかどうか。私を誘拐拉致監禁して帝国(現在弱体化衰退中)に受け渡そうとした連中なのよね。


 しばらく王都のルリハたちの情報網には引っかかっていなかったけど、今回の半裸男なんて格好の話のネタに、ルリハの誰もが気づいていない。


 今日の午後は森の屋敷でルリハたちに事情を説明して、協力してもらうことになりそうね。


 たまたまルリハが気づかなかったのか、それともルリハの目と耳を盗む、誤魔化すなにかがあるのか。


 だんだん私も気になって仕方なくなってきたかも。町の人たちが同じ気持ちになるのも時間の問題だから、早くなんとかしないといけないわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シャーロットちゃんのキャラめっちゃ立ってますね〜。超絶危なっかしくて、いちいちくどい例えがもう! どんどん進化している。 でもまあシャーロットちゃんはここらで派手に失敗してちゃんと己を省…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ