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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
真夜中に徘徊する怪人のお話
53/82

53.王都の夜に忍び寄る影について会議が踊り始めましたね

 王宮の会議室のテーブルに、国家の重鎮たちが顔を揃えた。


 午前の定例会議。主な参加者は大臣グラハムと騎士団長ギルバート。今日は珍しく王女アリアの姿もあった。


 もちろん、陛下が中心にいて、王妃の私はその隣でしおらしくする。


 一通り普段のやりとりを終えたところで、ギルバートが意見した。


「王都の警備主任として、皆様のお耳に入れておきたい事案があります」


 普段は冷静なのに、かすかに声に怒りの感情が混ざってる……気がする。


 アリアが「あら? 珍しいですわね。ギルバートが怒っているなんて」と、私の感じたことを代わりに言ってくれた。


「これは王都の平和を守護する我々への挑戦なのです」


 そう言うと騎士団長は語り始めた。


 王都に現れた不審者情報……みたいね。


 私はルリハたちから、変な人がうろついてるなんて話をいつも耳にしている。


 というか、騎士団や王都警備兵シティガードよりも、そっち方面の情報は掴んでいると思ってた。


 今回、ギルバートが語った不審者は、初めて耳にするものだ。


 どうやら犯罪者を勝手に捕まえて縛り上げ、路上に放置してるみたい。


 しかも、捕縛した相手の衣服に手紙を忍ばせているんだとか。


 大臣グラハムが顎髭あごひげを撫でた。


「ほほぅ。まるで『神の手紙』のようですな」


 ギルバートが首を左右に振る。


「実際、見ていただいた方がいいでしょう。こちらの手紙になります」


 三通ほど、ギルバートはテーブルに手紙を開く。


 そこには罪がずらりと並んでいて、捕縛放置された犯罪者の行為を赤裸々に記していた。


 しかも、文字の色。インクが鮮血のように真っ赤だった。


 ギルバートが小さく息を吐く。


「神の手紙の送り主とはまったくの別人でしょう。筆跡も文字の色も」


 私の隣でレイモンドが一瞬、ちらりとこっちを見た。


 けど、すぐに陛下は視線の行き先を公開された手紙に戻す。


「手紙……いや告発文だね。列挙された内容は真実だったのかなギルバート?」

「後日、確認を取れた限りでは……ですが、本来なら闇に葬られていたような犯罪までも、手紙は曝いております」

「そうか……大臣はどう思う?」


 グラハムは手紙を手にして「そうですな」と文面をさらりと目で追うと。


「神の手紙の送り主と遜色そんしょくない調査能力かと」


 レイモンドがこっちを見そうになるのをじっとこらえる。


 私じゃないわよ。


 第一、闇に潜んだ犯罪者の秘密を曝いて、捕まえて縛り上げるなんて派手なことをしていたら、ルリハたちが目撃してると思うのに……。


 そういった噂に気づかないわけがないわ、あの子たちが。

 つい、確認してしまった。


「いつ頃から事件が発覚したのかしら?」


 騎士団長が手元の資料を確認した。


「一週間ほど前に最初の一人。被害者というのもはばかられますが、酒に溺れ家族に暴力を振るう男が縄に捕縛され、路地裏で発見されました。三日後に別の一人。言葉巧みな詐欺の手口で、若い女性を中心に結婚の約束を繰り返し金銭を騙し取っていた男です。それから二日後に、もう一人。中毒性のある違法な魔法薬を異国から密輸入し、売りさばこうとしていた輩となります。実際にこの魔法薬物は王都の若者を中心に広まりつつありました」


 ルリハたちの活躍で、犯罪を未然に防ぐこともできたけど、それでもすべてを無くすなんてできないわよね。


 アリアが小さく手を上げた。


「悪い人間を勝手に捕まえてくれるなんていいんじゃないかしら? 白でも黒でもネズミを捕るのが良い猫ですわよ」


 ギルバートは首を横に振る。


「犯罪者を独断で処す不審者の行動は、王国の法と秩序に挑戦しているのです。私的に断罪する不審者が、急に心変わりをして人々を脅かすこともあり得るのです」


 アリアは「あら、ごめんなさい。そういうものですのね」と、小さく肩を落とした。


 勝手にやられたら騎士団や王都警備兵の面目丸つぶれよね。私の手紙は彼らに動いてもらうための、あくまで「お願い」だった。


 レイモンドが私を見る。


「君はどう思うかなキッテ?」


 ええっ!? ここで私に振るの!? どうと言われても。


「その不審者への対策はあるのかしら?」


 ギルバートがうなずいた。


「現在、配下のダリウスが事件……捕縛されていた犯罪者の発見地点などから、不審者の活動範囲などを算出中です」

「不審者ではななく、縛られた悪人たちが見つかった場所から?」

「ええ。何しろ不審者の目撃情報が不明確なもので」


 アリアがほっぺたを膨らませた。


「さっきから不審者とか犯罪者とか紛らわしいですわね」


 たしかに、悪事を行っていた方を犯人とか犯罪者って呼びたくなるわよね。


 王国にとってはどちらも悪人に違いないけど。


 私にだって分かる。国のルールを無視すると、みんなが好き勝手にしてしまって収拾がつかないし、それを治める王家の存在そのものを否定するようなものだもの。


 王妃の立場的にも、不審者は否定しなきゃいけない。


 いけないのに、ちょっとだけ、擁護したくなってる自分がいるけど。


 私は咳払いを挟みつつ。


「不審者について詳しくお聞かせいただけるかしら? そう思うわよね陛下?」

「あ、ああ。どうも僕にも全容が掴めない。不審者というからには、明かに不審な身なりをしているんだろうか?」


 ギルバートは一礼した。


「はい! 陛下!」


 騎士団長は資料をめくると不審者について、今のところ判明している事柄を並べ立てた。


 活動時間は夜。まだ昼間に悪人を捕縛放置したことは無いみたいね。


 場所について。悪人たちが見つかるのは王都外周部。どちらかといえば、治安はあまり良くない場所ね。


 先日、死を看取る黒猫を追った時に王都の地図とにらめっこしたけど、今回起こった事件は王都北西部で二件。南東で一件。ちょっと、離れてるわね。南東の一件がイレギュラーだったのかしら?


 事件数が多くなれば法則性も見えてくるかもしれないけど、それって王国の威信を傷つけられ続けるようなものだし……困ったわ。


 次に目撃者情報。王都警備兵が現場に駆けつける前に、不審者はどこかへ姿を消している。追っ手がいても、逃げ切ってしまうみたい。


 通報は近隣住民から。三件すべて不審者の目撃情報は一致していた。


 薄暗い宵闇に紛れ込んだその不審者の姿は――


 鳥とも獣ともつかない異形のマスクを頭からすっぽり被った、上半身裸の筋肉質な男……だそうな。


 ああ、半裸で悪人を私的に捕まえ続けているなんて、不審者という言い方になるのも仕方ないかも。


 だいたい鳥とも獣ともつかない異形って、いったいなんなのかしら?


 アリアが少し興奮気味に。


「闇に染まりながら夜の町で悪を斬るなんて、戯曲にしたら格好いい演目になりそうですわね! お義姉ねえ様!」

「王族が不審者の行いを認めるようなことを言ってはいけないわよ」

「うっ……はーい」


 天真爛漫すぎる。時々、義理の姉としてアリアが心配。


 大臣グラハムが腕組みをした。


「はてさて、王国の法秩序に対する挑戦……今のところ、その半裸男は殺人を犯していないようだが、生きたまま悪人を捕縛し王都警備兵から逃げる、その目的はなんだろうか」


 レイモンドも首を傾げる。


「冒険者の可能性はないかなギルバート?」

「そのことなのですが、違法な魔法薬物の売人に関しては冒険者ギルドから国際的な指名手配がかけられていたようです」

「指名手配か。もし半裸男が冒険者なら、賞金を得る権利があるはずだ」


 騎士団長はそっと首を左右にさせた。


「その仕事を受けた冒険者もいなければ、賞金が支払われたということもないようです。何分なにぶん、最終的に逮捕したのは我々ですので」


 一通りまとめると――


 王都に夜になると活動する、半裸男がいる。

 男は悪人を私的に捕まえて、放置という形で王都警備兵に引き渡している。

 男は上半身裸で、頭部には鳥とも獣ともつかない(?)マスクを被っている。

 冒険者ではなさそうである。

 今のところ悪人を殺害するようなことはしていない。

 かといって、いつ凶行に及ぶかもしれない。

 放っておけば王国の法と秩序を汚すことになる。


 加えて――


 そんな派手な行動をしているのに、ルリハたちに一切気づかれていない。

 ルリハは鳥の中でも夜目が利く(おかげで夜行性な子も多い)のに、報告が上がってこなかったのは偶然なのかしら?


 ギルバートが一通り報告を終えたところで、陛下が一同に告げた。


「ひとまず、情報を集めてほしい」


 すると――


 テーブルについた全員の視線が私に自然と集まる。


「あの、どうしてみんなして私を見るのかしら?」

「な、なな、なんでもありませんわ! お義姉様!」

「いえ、別に……」

「はてさて、なんのことでしょうな」


 アリアもギルバートもグラハムも、私が動くのを待ってる!?


 うう、今日まで色々と裏でも表でも動いてきたから、私がなんとなしに問題解決に関係してるんじゃないかっていう、そんな空気。


 今回は……うん。見守ることにしようかしら。目立って動くこともないわよね。大人しくしていましょう。


 事件については騎士団長ギルバートが把握しているのだし、私とルリハたちがすることっていつも「第一報」なのよ。その役割はもう、終わってる。


 具体的な対処は現場のお仕事だもの。


 ルリハたちが感知していないのは、気になるけど……。


 大丈夫。きっと大丈夫よ。王国の優秀な騎士団と警備兵たちを信じましょう。


 と、思った矢先――


 会議室の扉がノックされた。


 少女の声が響き、赤いドレス姿が颯爽と舞い込む。


「難事件と聞いて、いてもたってもいられず参上しました。どうか、わたくしの話を聞いてください」


 迷惑……もとい名探偵の捜査令嬢シャーロット・ホークスだった。


 ギルバートが席から立ち上がる。


「シャーロット! 陛下の御前だぞ! 失礼ではないか? 警備の人間は何をしているッ!?」

「何か気づいたことがあれば、いつでもいいから考えを聞かせてほしいと仰っていたではありませんか。そのむね、近衛兵の皆様に説明して通していただきました」

「いつでもいいを曲解しすぎだぞ。確かに意見は求めたが……それは『今』ではないだろう。タイミングを考えなさい。よほどの緊急性が無い限り、会議のあとで十分なはずだ」

「直感と閃きは鮮度が大事と仰っていたのも、叔父様ではありませんか?」


 言うなりシャーロットは私とレイモンドに一礼カーテシーした。


「陛下に王妃様に王女様。突然の無礼、失礼いたしました」


 ギルバートとシャーロットはずいぶんとお互いを知った仲のようだけど。

 って……叔父様?


 騎士団長が頭を下げる。


「姪の無礼をお許しください陛下」


 叔父と姪ということは、この二人、親戚だったのね。

 レイモンドは「いや、構わない。シャーロット嬢は先日、ブルーダイヤ徽章きしょうの盗難と殺人事件を解決に導いてくれたからね」と、柔和な笑顔だ。


 危険……かもしれない。


 シャーロットは胸を張った。


「では、お耳を拝借します。わたくしの推理を聞いてください」


 一度「こうだ」と思い込むと、突き進みすぎて突き抜けて、どこか遠くに飛んでいってしまう。


 大丈夫かしら、本当に。


 というか、この事件に捜査令嬢が関わるようなら、私とルリハでフォローしないと王国の法と秩序が大変なことになってしまうかも……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不審者の風貌でグリフォンマスク思い出した件
[気になる点] そもそも王族と重鎮が会議をしている部屋に出席者の姪とは言え一貴族令嬢が近寄れる尚且つ部屋に入れるという時点でおかしいのでは?少なくとも部屋をノックして開けるのは部屋前で警備していた近衛…
[気になる点] いちいちキッテ様をジロジロ見るな 燃やすぞ! [一言] こういうのは迷探偵にだな…て思ったとこだったw 呼ばれる前に来ちゃうのかw それも騎士団長の姪w 騎士団長ガンバw
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