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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
大切な人ほど怪しくみえてしまうお話
52/82

52.真相は青い小鳥が運んできてくれるから

 森の屋敷で以下略。


 窓の外からルリハが一羽、飛び込んでくるとテーブルに着地。私の目の前で両翼をバタバタさせた。


「大変大変! 変態! むしろ変態ですキッテ様!」


 他の子たちもギョッとなる。私は下を向いた。


 今度はいったい誰と密会したのかしら……レイモンド。


 もう、驚くことなんてないと思う。


 って、変態? この子、今、大変って言いながら変態って言ってなかった?


「落ち着いて。取り乱しすぎよ」

「けど変態で大変なんです!」

「なにかしら? まさか……男性と密会していたとか?」


 一部のルリハたちから「キャー!」と悲鳴が上がった。盛り上がってる……。


 報告の子がかき消すようにブンブンと首を左右に振った。


「レイモンド陛下! アリア王女と密会してたんです! 兄妹なのに!」

「ええッ!?」


 そ、そんな……。異国ではその……親戚同士のそういうこともあるとは聞いていたけど、いけないわ。


 これじゃあレイモンドが野獣じゃないの。


 子爵夫人や伯爵夫人たちの間をふらふらしてると思ったら、アリアにまで。


 ああ、もう。どうしたらいいの?


 不義ここに極まれりじゃない!


 私は報告の子をじっと見つめる。


「本当に……見たの?」

「は、はい! し、しかも……アリア王女の部屋を出たレイモンド陛下は、左頬が真っ赤になっていたんです!」

「頬が……真っ赤……」


 どうしたらいいの。私、もう何も……信じられない。


 ……。


 左頬が真っ赤って、じゃあ右頬はどうだったのかしら?


 ルリハたちが私を心配そうに見つめる。


 報告の子に指先を伸ばした。ぴょんとジャンプして指に乗っかるルリハを眼前に持ち上げる。


「ねえ教えて。左頬が赤くなっていたって、じゃあ右はどうなの?」

「陛下の右のほっぺたは普通でした」

「レイモンドとアリアはどんな雰囲気だったかしら?」

「アリア王女はプンプンでレイモンド陛下はしょんぼりでした」


 左頬だけ赤くてアリアが怒ってる?


 つまり――


 陛下は思いっきり平手打ちされて涙目って……こと?


 そこにもう一羽が窓からスーッと音もなく舞い降りた。


「姐さ……キッテ様。諜報部です。ついにレイモンド陛下が動きました。どうやら陛下の本当の目的は……」



 ある夜のこと――


 髪を解いてゆったりとした夜着に袖を通し、ベッドの縁に腰掛けた私の元に、レイモンドが嬉しそうにやってきた。


 後ろ手に小箱を隠して。


 なんとなく尻尾をぶんぶん振る大きな犬っぽく見えてしまう。


「あら、何か嬉しいことがあったんですか陛下?」

「君にとっての嬉しいことになれたら、それが一番幸せだよキッテ」


 青年は恥ずかしそうに、そっと小箱を前に出す。


「わ、わあああ。何かしら」

「あれ? 急にしゃべり方がぎこちなくなってない?」

「そんなことありません」


 だって仕方ないじゃない。サプライズプレゼントがサプライズにならないのだもの。


「受け取って欲しいな。けど、その前に……この箱の中身はなんだと思う?」

「さあ、何かしら」

「当ててごらんキッテ」

「じゃあ……そうね……か、髪飾り……かしら?」

「わあ! 正解だよ! 僕たちって相思相愛なんだね」


 レイモンドの方が驚いてしまった。正解だってするわよ。貴男が今日まで何をしてきたか、全部聞いているのだもの。


 本当に、私の勘違い。思い込みで彼を傷つけてしまうところだった。

 何も言わず我慢していたのが良かったのか、何も言えない……言い出せない自分の性格のおかげか。


 受け取った小箱を開くと、そこには金細工の美しい髪飾りが静かに輝いていた。

 デザインのモチーフは……青い石の小鳥だった。


 緊張した顔のレイモンドが私に訊く。


「ど、どう……かな。君に似合うと思うんだけど、身に着けるものは好みもあるし」

「と、とっても素敵です。ありがとうございます陛下」

「良かった。気に入ってくれて。君のことがますます大好きになったよ」


 そう言うと彼は正面から優しくぎゅうっと抱きしめてくれた。


 突然の贈り物。


 驚きはない。だって彼が王都の彫金細工師ギルドに発注したことも、ベテラン職人がこの髪飾りを作ったことも、青い小鳥のモチーフなのも、全部、聞いているのだから。


 何も知らないでいきなりプレゼントされていたら、こんなぎこちない感謝じゃなくて、もっと喜びを素直に表現できたのに。


 結局どういうことなのかといえば――


 レイモンドは私の髪が伸びたのを見て、髪飾りをプレゼントしようと思ったみたいなのよね。

 何かの記念日でもないけれど、せっかくなら驚かせたいと、サプライズを企画した。


 けど、どんな髪飾りを贈ればいいかわからない。私が喜ぶものが何か知りたくて、彼ったら国王陛下権限をフル活用


 私の級友マルガレータに、親戚で幼なじみのエレオノーラ。他にも、私がパッとすぐに思い出せる女性たちに会いに行って、私のことを色々と聞いたみたい。


 サプライズがバレないよう、密室で。


 もし、何かあっても私が変な誤解をしないよう、既婚者ばかりと。


 結局、私のことをたくさん聞いたみたいだけど、決め手が見つからなかったレイモンドは妹のアリアに相談したみたい。


 たぶんだけど「お兄様! そういう大事なことこそ、ご自身でお決めになってくださいまし! お義姉様もお兄様が選んでくれたものなら、必ず喜んでくれますわ!」とか、言われたんでしょうね。


 国王陛下のほっぺたをペチンと叩いて気合いを入れることができるのは、アリアくらいよね。


 青年はゆっくり私の身体を解放した。


 私は小箱から金の髪飾りを手に取る。


 青い石が小鳥のシルエットに綺麗にはまっていた。


「陛下がこのデザインを?」

「あ、ああ。実は秘密にしていたんだけど、君の知人たちに君が好きなものとか、どういった意匠がいいかとか相談したんだ。ほとんど雑談になってしまって。みんな君の奥ゆかしさや、秘めた優しさを思い出すように語ってくれたよ」


 うっ……恥ずかしいかも。


「そ、そう……ですか」

「けど、どうしていいかわからなくなってね。最後に、君と仲良くしている人間というと……アリアだったんだ。そうしたら『お兄様! そういう大事なことこそ、ご自身でお決めになってくださいまし! お義姉様もお兄様が選んでくれたものなら、必ず喜んでくれますわ!』って、頬を叩かれたよ」


 一字一句同じでこっちの方がサプライズよ。


「大丈夫でしたか?」

「気合いが入ったよ。君の優しさを信じていなかった自分を恥じたんだ。だから、僕なりに思い出してね。実は……ある朝、君と目覚めた時に寝室に青い小鳥が大量にいたような、夢を見たんだ」

「は、はぁ……」


 夢じゃなくてそれ、事実なんだけど。


「あれはきっと何かのお告げだったのかもしれないね。最近、時々だけど目の端に青い小鳥の姿が映ることがあって。そういえば、君の元にも良く来るから。とても美しい。君にぴったりだって、思ったんだ」


 ルリハたち、目立ってる!? ちょっとレイモンドから距離を置かせた方がいいかもしれない。


 今回の私が勝手に早とちりした不倫疑惑で、ルリハたちの陛下監視網が強化されたのも影響してるわね。


 私は手の中の髪飾りに視線を落とした。


「とっても綺麗。なんだか……着けるのがもったいないわ」

「気に入ってくれたんだね。良かった! ええと……君が着けたところを僕に……見せてほしいな」


 うぶな少年みたいにレイモンドは言う。


「じゃあ、貴男がつけてくださる?」

「よ、喜んで! 我が麗しの君」


 彼に髪をブラシで整えてもらった。レイモンドは不器用だった。それでもなんとか髪留めでまとめる。


「ああ、とっても似合っているよキッテ。青い小鳥も幸せそうだ」

「ありがとうございます。私も愛しています。とっても嬉しいです陛下」


 言葉にしないと伝わらない。だから声にする。驚きはないけれど、不器用な優しさに包まれて私は幸せだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かったね、キッテ様。もらうだけじゃなくて、今度はこっちから何かあげられたらいいな、言葉とともにね。そんな日が来ることを祈ります。 (…最終回だったりして!)
[気になる点] ビンタというのは俗称で正式には平手打ち。 平民言葉なので、高貴な身分の方が使うのは違和感があります。
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