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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
大切な人ほど怪しくみえてしまうお話
50/82

50.ずっと一緒にいられることは素敵だと思ったのだけど

 森の屋敷の二階の部屋で――


 テーブルに集合した青い小鳥たちが、焼き菓子をつまみながら歓談する。


 そのうち、一羽が顔を上げて私をじっと見た。


「そーいえばー。キッテ様、髪伸びてね?」

「え、ええ、少し長くなってきたわね」


 するとルリハ女子たちがキャイキャイと私を取り囲むように並んだ。


「いつもお手入れしてくれる王宮の専属の真面目さんもいいけどぉ。町のヘアサロンにもすごい人いるし。個性的なんだから」

「あーね、わかる。キャラ出るよね」

「イケメン結髪師ランキング言っちゃう? あちしは西区のおひげがダンディなジタンさん最推し」

「おじさんじゃん」

「それがいいの! 大事なのは腕だし! テクいんだから。バリトンボイスも素敵♪」

「ウチは中央区のレガロ様かなぁ。めっちゃカリスマって慕われてるし」

「オラついてて苦手かも。なんかぁ、夜のお仕事の人? っぽくない?」

「あら、少しヤンチャに見えますけど接客はとても丁寧で、お姫様みたいに扱ってくれると評判ですって」


 まるで自分が髪を整えてもらったみたいに話すのが、ちょっとおかしくて吹き出しそうになる。


 一羽のルリハが目をぱちくりさせた。


「キッテ様どーしたの? 大丈夫そ?」

「え、ええ。みんながあまりに熱心だから、驚いてしまって」

「じゃあじゃあ今度、ジタンさん王宮に呼んで結ってもらおうよ!」

「絶対レガロ様だって! 技術は負けないんだから!」


 二羽が両翼をバッとあげて互いに向き合った。二人の間に割って入る。


「はいはい。喧嘩はしないの」


「「はーい」」


 振り上げた翼を互いに降ろす。どっちも本気で争ってるわけじゃないのよね。じゃれ合う感じ。


 別の一羽が前に出た。


「ぶっちゃけ今のキッテ様の髪の長さならぁ、盛り盛りの髪でアゲアゲじゃね?」

「盛り盛りのアゲアゲ? どんな髪型か想像できないわね」

「ういーす。お盆型にまとめて、ゴージャスにデコって、あーしたちがお盆の中にとまって超リッチな鳥の巣っぽくしてぇ、みんなで住めば幸せだし。ほら、髪型って言えば不自然じゃないっしょ? イケてね?」


 ちょっと想像してみたけど、私の頭の上にお盆というか、髪の毛で鳥の巣を作って、そこにルリハがぎゅうぎゅうに?


 社交の場ではきっとものすごく目立ってしまうわね。ドレスも髪型に合わせてボリューミーでゴージャスなものにしないと。


 うん、無理。


 髪型を維持していたらベッドで横にもなれないし、なにより頭が重たくて肩がこりそう。


 私は小さく首を左右に振る。


「さすがにそれは首と肩が疲れてしまうから、ごめんなさいね。面白いアイディアなのだけど……」

「そっかぁ……キッテ様なら似合いそうだと思ったけど、残念~」


 それからもルリハたちは、私の長い髪の活用法を検討したり、髪色を変えてみる提案をしてみたりと、盛り上がっていた。


 ところに――


 窓の外から一羽のルリハが矢のように飛び込んできた。


「大変大変大変なの! みんな聞いて! キッテ様も……あ、あうぅ」


 勢いよくテーブルに着地したものの、慌てるルリハは首をこまめに右へ左へ。上を見たり下を見たりと落ち着く暇もない。


「どうしたの? そんなにキョロキョロして」

「あ、ああ、あのね……キッテ様。ええと……こ、心を強く……もってくださいね」


 急にシリアスな雰囲気。

 私も気を引き締め直す。事件かもしれないのだから。


「ええ。教えてちょうだい」

「あう、や、やっぱり言えない……かも」


 遅れてきた子の気持ちが広がったのか、さっきまでお祭りみたいにはしゃいでいた他のルリハたちも静かになる。


 よっぽどのことね。


「お願い。聞かせてくれないかしら?」

「あうぅ……はい。キッテ様。さっきなんですけど……レイモンド陛下が……」

「あの人の身に何かあったの!?」


 つい、私は椅子から腰を浮かせた。


「レイモンド様は大丈夫です! あ、あの……子爵夫人の……マルガレータという女性と……その……逢瀬を楽しんでいるみたいで……」

「――ッ!?」


 レイモンドが……不倫してるっていうの!?


 身体から力が抜けて、私はへなへなとお尻を椅子につける。


 ルリハの諜報能力は、王国に攻め入ろうとしたかつての帝国さえも打ち負かすほどだ。殺人事件だって解き明かす。


 疑う余地が……無い。


 不倫報告をした一羽がぶんぶんと首を横に振った。


「そ、そそそその! 待ってキッテ様! あの、あの……証拠は……な、無いから」


 心臓が痛いくらいに脈打って、お腹の底がズンと鉛を詰め込まれたみたいに重くなる。


 なんとか呼吸を整え直し、がんばって……聞く。


「詳しく、教えてくれるかしら?」

「ええと、マルガレータ子爵夫人の邸宅にわざわざ陛下から出向いて、昼間なのに窓もカーテンも閉め切って」


 本当に密会じゃないの。

 ルリハはしょんぼり下を向く。


「ごめんなさいキッテ様。ずっと見てたけど、声も聞こえないし。カーテンがあって、中で二人が何をしてるのかもわかんなくて……」

「そう……だったのね。どれくらい二人は一緒にいたのかしら?」

「だ、だいたい二時間くらいして……陛下が邸宅の外に出てきたの。なんだかとってもニコニコで、マルガレータも嬉しそうだったから……飛んで戻ってきたんです」


 ああ、ああ……なんてことなの。


 レイモンドが他の女性と密会していたなんて。

 後宮とまではいかなくても、複数の妃を迎えることは珍しくない。むしろレイモンドは私だけで、一途で珍しい人……だった。


 だったのに。


 公に認められた側室ではなくて、相手は……マルガレータ。


 とある伯爵家に嫁いだ……私の……王立学院時代の級友だった。

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[一言] 許すま「燃やそう」まだそこまでじゃないから
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