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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
青い鳥との出会いのお話
5/82

5.私の出した手紙で王宮が大騒ぎになりました

 王宮では神の手紙で大きな騒動があったばかり。


 みんなが手紙に戦々恐々とする中――


 私の書いた告発文は、ちゃんとレイモンドの元に届けられた。


 彼は「そんなわけない!」って、驚いてたみたいだけど、王太子を説得した面子が揃いすぎていた。


 王女に騎士団長に大臣に教皇猊下。それと、密告文を受け取った不倫被害者の貴族の面々。


 手紙の真実性を一同に訴えられた王太子。全員分の手紙を見せられて、筆跡が全部一致しているのも彼自身が確認した。


 レイモンド宛の手紙だけが偽物ということは無い。手紙は同一人物から送られたもの。配送方法は不明。女性の文字と文体なので、教皇猊下は「匿名の聖女」と、レイモンドを説得するために、私のことを聖人認定までしてしまった。


 名乗り出るつもりなんて、ないけど。


 王太子はやっと目を覚ましたみたい。


 国王陛下暗殺の日時と方法も、優秀なルリハ諜報部がガッチリ掴んでいたので、手紙にしたためてある。


 計画を逆手に取った王太子は、陛下をお守りした。賊は全員、伏せられた騎士団に捕縛された。

 異国と共謀した悪徳貴族も排斥。国王のお気に入りだった占術師シェオルは即日逮捕。


 騎士団長ギルバートが証拠を固め、裁判ののち、インチキ占い師は処刑された。


 なんのことはない、シェオルはただの詐欺師の男で、東方の異国に金で雇われただけのつまらない男だった。


 王都での大捕物は十日間ほど続き、毎日新しい事実が明るみに出て、私は毎晩ルリハたちの報告を聞いて眠った。


 特に騎士団長ギルバートと異国の間者との一騎打ちなんて、聞き応えが抜群だ。

 国王陛下が息子に命を救われて、すべてを悟った時の「今まで済まなかった」という言葉と「謝るのでしたら僕ではなく、追放してしまったキッテに謝りましょう父上」なんてやりとりがあったみたい。


 遅いわよ。まったく……。


 そして、明くる日の朝――


 森の奥の屋敷に白馬がやってきた。

 王位を譲られ国王の座に就いたレイモンドを乗せて。どうも陛下にレイモンドが退位を迫ったみたい。


 本当に私のことを愛していた。けど、婚約破棄をして追放しなければいけなかった。

 それをずっと悔やんでいた。

 妹のアリアに打ち明けたみたいね。まさかルリハ観劇大好きペアに、聞かれているとも知らないで。


 レイモンドは異国と共謀した悪徳貴族の娘との縁談を拒み続けた。


 もしかして、本当に心から私を……愛してくれていたのかしら。


 彼が今日、私の元にやって来るのは分かっていた。


 だってルリハたちったら、殿下……じゃない、レイモンド陛下が王城で支度をしているところから、逐一伝令してくるのだもの。


 私は身綺麗にして、ちゃんとお化粧もしてドレスを身に纏って屋敷の中庭に降りた。


 荒れ果てていたお庭も、自分同様、綺麗に整えてある。


 会って、何を話すつもりなのか。自分でもまだ、よく分からない。


 レイモンドは馬から降りるなり、頭を下げた。


「本当に済まなかった」

おもてを上げてください陛下」

「ああ、そうか。やはり君なんだねあの手紙は」


 ゆっくり青年は顔を上げる。


「手紙? なんのことですか?」

「僕が父上から王位を継いだことは、まだこの屋敷の関係者には教えていないんだ。なのに君は陛下と口にした」

「今のご立派な姿に王様の風格を感じて、つい間違えてしまいました」

「アリアが演劇好きなのは、君も知っているよね。妹にお勧めの新人劇団を紹介してくれたね?」

「さあ、私は演劇には疎いですから」

「大臣と騎士団長にも話は聞いた。君はこの国をよくしてくれたと」

「お二人とも国の宝です。大切になさってください」

「教皇庁は匿名の聖女として、君を聖人認定したよ」

「私がその聖女という証拠はありません」

「手紙は……君の文字だった。婚約の時に君からもらった挨拶の手紙の文字と一緒だ。文章の書き方も。僕の元に手紙が届いた時に、全部理解した」

「そう……ですか」

「婚約破棄に追放までしたのに、君はこの国を救ってくれたんだ」


 青年は拳を握り込む。


「今更、戻ってきて欲しいなんておこがましい。君が今のままの暮らしを望むなら、今度こそ……生涯をかけて守ると誓うよ。だけど……もう一度、やり直せないかキッテ?」

「私がもし本当に匿名の聖女だとしたら、利用価値がありますものね」

「ちが……ああ、そうだね。君がそう思うのは当然だ。すべて僕が悪いのだから。何か不思議な力があるのかもしれない。けど、言わなくていい。もう使わなくてもいいんだ。お願いだキッテ……君が好きだ。愛している。どうか戻ってくれないか?」


 レイモンドも前国王に命じられていたから、仕方なかったのだと私だって理解してる。

 私がレイモンドとの婚姻を、家族の決めたものだと諦めていたのも事実。


 もしかしたら、この人なら今度こそやり直せるかもしれない。ルリハたちが……レイモンドの肩にとまった。


「あっ……ええと、困ったな。人なつっこい小鳥だね。ええと、今、とても大事な話を彼女としているのに」


 レイモンドは固まってしまった。

 もし、彼が心の冷たい人間なら、ルリハを手で振り払っていてもおかしくない。


 少しだけ、見直してあげる。


「考えさせてください」

「そ、そうだねキッテ。すぐには決められないのに、朝から押しかけてすまなかった。ええと……君の導き出した結論を尊重する。この屋敷は自由に使ってくれて構わないし、もちろん外にも自由に出入りして欲しい。それじゃあ、また来るよ」


 青年の肩からルリハたちが飛び立った。ホッと安堵の表情を浮かべると、レイモンドは馬に乗ってとぼとぼと帰っていった。



 その日の午後三時のおやつ時間は、マドレーヌだ。

 老執事にはたくさん焼いてもらった。


 初めてルリハたちがやってきた日のように、部屋が青一色に染まる。


 最初の子が私の肩に乗る。


「おめでとうキッテ様! もう悲しくなくなったね!」


「「「「「おめでとー! キッテ様ー!!」」」」」


 一斉に、盛大にお祝いされちゃった。


「まだ王都に戻るって決めてないのに……みんなして……」


 過激派なルリハたちが少し寂しそうだ。


「やっぱ帰っちゃうのかなぁ」

「お前やめろってしょんぼりすんの! 祝いの席だぞ?」

「けどさぁ……もうこうやって、キッテ様とお茶したりお喋りできないべさ」

「んだなぁ王妃様だもんな。公務で忙しくなっちまうっぺ」


 急に不安が広がって、祝賀会がお通夜ムードだ。


「みんなが望むなら、わたし、ずっとここにいます」


 私の肩から最初の子がぴょんと飛び降りて、テーブルの天板に着地した。


「せっかく名誉を回復したのに!? 良くないよキッテ様!」


 他の子たちも悲しそうにしながらも、うんうんと首を縦に振る。


 最初の子がくりっとした瞳で私を見上げた。


「みんなキッテ様には自由になって欲しいんだ。鳥かごはもう卒業さ」

「でも……みんなのおかげなのに、出て行くなんて……」


 お調子者のルリハが両翼を万歳させる。


「ま、今日は大勝利つーことでぱーっとやりやしょうや! 各チームよくがんばったんで一羽ずつキッテ様に撫でてもらおうぜ!」


「「「「「いーねー!!」」」」」


 というわけで、私は一羽一羽を撫でる作業をすることになった。

 今夜中に終わるかしら。みんなかわいいからいいのだけど。

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