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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
死を運ぶ使いの物語
47/82

47.捜査会議をしてみたのだけれど決め手はやっぱり……

 森の屋敷の二階の部屋で、私はテーブルに地図を広げた。


 ルリハたちが集まってみんなで王都の町の上面図を囲む。


「キッテ様! 地図ってすごいね! 本当に上から見てるのと同じかも?」

「空を飛べる貴方が言うなら、良く出来ているのね」


 手芸用品の入った小箱を持ってきて、準備完了。


 私は一羽ずつ話を聞いた。


 死神の噂を聞いた地点をルリハの一羽が「ここでちゅ!」とクチバシで指す。


 私はそこに、手芸用の赤いボタンを置いた。


「オイラはここで聞いたかな」

「ウチはこっちー」

「あーね、ここらへん? みたいな」

「俺はここだぜ!」

「自分ここッスねぇ」


 忙しい。けど、ポチポチポチとボタンを置いてみる。


 次に、誰かが亡くなったという地点をルリハたちから教えてもらった。


 黒いボタンを置いてみる。


 とりあえず、何かわかるかと思ったのだけど。


 噂は王都の外周部。貧民街区から徐々に中央に広がっていってるみたい。


 商業区では少なめ……というか、ほとんど無い。


 うーん。どこかで集中して発生しているってわけじゃなかったか。


 ルリハたちも首を傾げてる。


 場所に共通点が無いなら、そうね。


「じゃあわかる範囲でいいから、どんな人が死神の被害にあったか教えてもらえるかしら?」


「「「「「はーい!」」」」」


 笑顔で亡くなっているのが判明している人の情報を集める。


 七人。場所も性別はバラバラだけど、子供と老人だけね。老人は民家。子供は診療院が多いみたい。黒いボタンの上に、白いボタンを重ねて置いた。


 抵抗力が低いのよね。


 やっぱり伝染病? でも、だとすれば、もっと広がっていてもおかしくないかも。


 感染源があって、そこを中心に広がってるんじゃないのかも。


 たとえば全員が同じ魔法医の診療院を利用していたら、原因はそこにある。


 けど、別々の診療院で死神の被害者がいた。


 法則性、見いだせないかも。


 ルリハの一羽がぴょんと前に出る。


「姐さ……キッテ様! 物取りの線はどうですかい?」

「それなら変死じゃなくて強盗として話題になるんじゃないかしら」

「なるほど、あっしの早計でした。しかし、侵入者なら形跡が残るはず……いったいどういうことでしょう?」


 確かに。犯行は夜。人々が寝静まった頃。みんな用心して戸締まりしているはず。


 どうやって死神は中に入ったのかしら。


 それからも、お茶菓子を用意してルリハたちの噂を聞いてみたけど、死神の件は調べれば調べるほど何も見つからなくて、最初からそんなもの無かったんじゃないかって思えてきた。


 一番の違和感は――


 笑顔の死者。


 もしかして、死神を調べるんじゃなくて、なんで笑顔で亡くなったのか……が、先なのかもしれない?


「ねえ、みんなはどうしたら笑顔で死ねると思う?」


 一羽があたふたする。


「キッテ様! 怖いって! 死なないでぇ!」

「私は死なないから安心して」

「ううぅ、約束だよぉ」

「ええ。だから考えてみてちょうだい」

「ん~あたしならそーだなぁ。嬉しい?」

「けど、死んでしまうのよね。死ぬのは悲しいことなのに」

「死ぬのが嬉しかったとか? キッテ様は死にたくなったりしないでね!」


 心配性なんだから。


 ……。


 改めて地図を見てみる。


 わかんない。捜査令嬢シャーロットに相談……は、しない方がいいわね。決めつけでとんでもないことになってしまいそうだし。


 すっかり暗礁に乗り上げて行き詰まっちゃったわ。


 と、その時――


 窓の外から一羽の青い鳥が飛び込んできた。


「キャアアアア! 見たわよ見たわよ! 犯人見たわよ!」

「「「「「でかした!!」」」」」


 犯人見た……って、本当に!?


 テーブルの上に着陸すると、目撃者ルリハは地図のある地点をツンツンつついた。


 劇場が集まった区域から少し南の住宅街だ。


 私は手芸箱から金の星が刻印された飾りボタンを取り出して、犯人目撃地点に置く。


「詳しい話を聞かせてくれるかしら?」

「もちろんだわよ! あのねあのねキッテ様! 昨日の夜の劇を見たあとなんだけどね!」


 ルリハは興奮気味に話し出す。


 色々と私なりにヒントを集めて推理しようとしてみたけど、事件現場の目撃情報には敵わないわね。



 劇を見終えたそのルリハが森に帰ろうとすると、小さな影がするりと、とある民家の窓から中に入り込むのを見てしまった。


 普段なら素通りするのだけど、私が死神探しをしているから……もしかして? って、なったみたい。


 怖かったけど、勇気を振り絞って影のあとを追ったのよね。


 それは部屋に入り込むとベッドで休む老婆の枕元に立った。


 身を寄せて丸くなる。


 黒い猫。老婆はそっと黒猫を撫でる。表情は穏やかだった。


 朝までルリハは監視を続けた。


 日が昇り、猫はゆっくり身体を起こす。老婆は永遠の眠りについていた。


 老婆は家族に先立たれて独り身だったらしい。


 黒猫は外に出ると老婆の家の前で鳴き、近所の人が異変に気づいて老婆の様子をうかがいにいく。


 猫は消えていた。ルリハの監視の目をかいくぐり、町のどこかへと走り去った。


 目撃者ルリハが語り終える。


「黒猫の死神なのだわよ! キッテ様! だってそのおばあさん、昨日まで元気だったのに!」


 黒猫が死を撒いている? 本当……かしら?

 

 異国では商売繁盛の幸運をもたらすなんて話もあるみたいだけど、王国での黒猫は魔女の使いとして不吉なもの扱い。


 実際にどうかなんて、わからないわよね。


 ただ、目撃者ルリハの話を聞いた限り――


「ねえ、その黒猫を探せないかしら?」


「「「「「ええーっ! 怖いよキッテ様!!」」」」」


 ルリハたちはブルブル震えだす。


「みんな落ち着いて。私にはその黒猫が……看取ってあげたように思えるの。死神みたいに命を奪いに来たんじゃない。死を感じて寄り添っていたのかも。だから、怖い猫じゃないんじゃないかしら?」


 青い小鳥の群れが顔を見合わせあった。ざわざわしちゃってるわね。


 一羽が恐る恐る前に出る。


「いい猫なんでちゅか?」

「ええと……王宮で私も聞き込みをしたのだけど、特に変わった様子はなかったのよね。死者が急増したとか、どこか一カ所で増えているとか。結局、死神の噂だけが一人歩きしていたんじゃないかって、思うのよ」


 私だって本当なら王宮の、自分の身近で起こった出来事からしか判断ができない。


 もし大切な人がある朝、笑顔で死んでいたら……それを知らせたのが黒猫の鳴き声だったりしたら、死神のせいだって思っちゃうかもしれない。


 視野を広く持てないのが普通よね。


 今の私は、少し違う。


 町の暮らしや、人々がどんな悩みを抱えているのか。路地裏の猫とカラスの縄張り争い。腐敗した貴族たちの秘密のお喋り。


 そういったものをルリハたちを通じて、知ることができる。一人一人では気づけなかったことに、たくさんの声や視点を集めて、たくさんの目と耳で気づくことができる。


 ルリハたちをぐるりと見回すと。


「だからみんな、黒猫に関する噂を集めてくれるかしら?」


「「「「「はい! キッテ様!」」」」」


 死神でないとするなら、なんで黒猫が死者を看取るようなことをしているのか、その理由が気になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今の世の中、一人で死ぬ人って多いですよね。別に不幸な人生だったとかじゃなくて、子どものいない夫婦とか。または親は田舎に夫婦で暮らし子供は都会で働いてる、なんて場合も。その夫婦の片方が亡くな…
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