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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
死を運ぶ使いの物語
45/82

45.夜の町を徘徊するなにかがいるみたいです

 今日も午後のひとときを森の屋敷で過ごす。


 テーブルには紅茶と焼き菓子。今日は薄焼きしたラングドシャをクルッと丸めたシガール。


 筒状のクッキーなので、その上にとまって軽業師みたいにコロコロとテーブルの上を玉乗りならぬ、シガール乗りするルリハたち。


「もう、みんな遊ばないの」

「「「「「はーい! いただきますキッテ様!」」」」」

「召し上がれ」


 キツツキみたいに筒状のシガールをつんつんして、ルリハたちは食べ始めた。


「サクサク美味し~!」

「バターの香りがたまらん! たまらん!」

「キッテ様は神だな」

「この縁の方の薄いところがもうホロホロでいい感じ」


 みんな嬉しそうだけど――


 一羽、手を着けず(クチバシを着けず?)に、しょんぼりしている子がいた。


 私はそっと手を差し伸べる。


「貴方は食べないの?」


 撫でてあげるとその子はブルブルと震えていた。


 寒い? 今日は気温が特別低いということもないのに。


 もしかして……怖がってるの?


 震える子の恐怖心が伝わったのか、ルリハたちはぴたりと動きを止める。


 私は訊いた。


「何があったの? お話しできる?」

「き、ききき、キッテ様ぁ……」


 全身をプルプルさせながら、怖がりな子が私の手の上に乗って身を丸めた。まるでルリハ団子ね。


 つぶらな瞳が涙で潤む。


「し、死神……」

「死神ですって?」

「ううっ……噂聞いちゃった。死んじゃうんだぁ! ぼく死んじゃうんだぁ! もう終わりだああああ!」


 私の手のひらの上で青い羽毛玉がブルブルブルブル小刻みに震えた。


 みんな一斉に丸まってそこかしこでブルブルしだす。


 あっ……ルリハにこんな弱点があるなんて。情報だけじゃなく感情も共有しちゃうのね。嬉しいや楽しいならいいけど、恐怖も広まってしまう。


 もう一度、優しく撫でながら訊く。


「みんな安心して。死神なんて私が追っ払ってあげるから」

「ほ、本当? キッテ様なら死神に勝てるの?」

「ええ。熱々の紅茶を掛けてやるわ。全然怖くないんだから」


 ニッコリ微笑む。少しだけルリハたちの震えが収まった。


「すごいなぁキッテ様って。ぼく、怖くて夜も眠れないよ」

「昼は眠れてるのかしら?」

「あっ……そういえば眠れてる! お昼寝できてる!」

「じゃあ、お昼寝がんばりましょうね」

「うん!」


 ひとまず落ち着いたみたいね。けど、死神の噂か。

 ちょっと気になるかも。


 手の中の青羽毛玉を見つめると。


「ところで死神の噂ってどういうものなのかしら? 退治するためにも教えてちょうだい」

「い、いいの!? 怖いんだよ? 恐ろしいんだよキッテ様?」


 王宮から追放されたし、誘拐もされたりもしたし、あれ以上怖いことなんてないんだから。


「逆に私が死神を驚かしてあげるわ」

「じゃ、じゃあ……」


 怖がりの子は両翼をバッと広げた。



 死神は決まって夜に鎌を振るう。


 王都の町のどこからか、黒い影が迫る。死神は、するりと寝室に忍び込み生者の枕元に立つ。


 翌朝ベッドの上に冷たくなった遺体だけが残される。


 恐ろしいのは、死神に魅入られた人間が笑顔で死んでいることだ。


 次に誰が狙われるのかもわからない。


 闇の中、今夜も誰かの眠りを永遠のものにしようと、死神は獲物を求めてさまよい続けている。


 怖がりの子が町で聞いた噂は、そういった怪異のものだった。


 本当にいるのかしら? 死神なんて。


 無差別に人を殺してまわる。しかも、殺された人が笑顔?

 不気味すぎるわね。


 王都の警備隊に通報しても、誰が狙われるかわからないのだから防ぎようがない。


 もし死神の噂が町中に広まったら、大混乱になっちゃうわ。


 ルリハたちもこのままだと、みんなお昼寝しかできずに夜型生活突入ね。


 ともかく情報がもっと欲しいかも。


「みんな怖いかもしれないけど、私に力を貸してちょうだい。死神の噂や被害者の情報。事件発生した場所。王都以外の町で同じような噂があるかどうかを手分けして集めてほしいの」


 ルリハたちの顔つきが引き締まる。


「しゃあああああ! やってやらああああ! 死神なんて怖くねぇぞ!」

「ちょ、おま。脚プルってんじゃん」

「ビビりかよ」

「オマエもな」

「あーしはお化けとか信じないし。霊感ないから余裕余裕」

「ウチはちょっと怖いかも。死神かぁ……やだなぁ」

「けどさ! キッテ様ならなんとかしてくれるよ! みんなで頑張ろう!」

「死神……燃やす」

「待て待て落ち着け死神を火葬するつもりか」

「ここは諜報部の出番ですぜ姐さ……キッテ様!」


 みんな気合い十分ね。


「頼んだわよ。けど、無理はしないでね。危ないと思ったらちゃんと逃げるの」

「「「「「はい! キッテ様!」」」」」


 情報はルリハたちに集めてもらって、私は王宮で死神の噂を集めることにしよう。


 あとは王都の詳細な地図ね。死神の噂をルリハが聞いた場所と、それとおぼしき被害者の位置関係が分かれば、出現範囲を特定できるかもしれないし。


 死神なんかに大きな顔をさせていられないわね。

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