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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
青い鳥との出会いのお話
4/82

4.国の影にうごめく陰謀にペンで対抗したいと思います

 町の石畳の補修工事が始まった。これもルリハたちが町で拾ってきた情報だ。

 三日で仕事にかかるなんて、グラハム大臣は本当に優秀な人のようだった。


 王都の西の村で村民が突然倒れた。

 それを見たルリハが言うには、手足にまだら模様が出ていた……って。


 この屋敷に隔離された王族もわずらった、たちの悪い流行病だ。


「お願いねルリハ。手紙を大臣の下へ」

「がってん承知!」


 匿名の投函その2である。

 すぐに魔法医療団が西の村へと赴き、発症した患者さんをすぐに治療した。

 爆発的な感染拡大は未然に収まったみたい。


 村から使者が王都に助けを求めに行ってたら、今頃、大混乱になっていたかも。


 それから王都の劇場街へ。歌うのが好きなルリハたちのオススメスポットになったみたい。

 劇場に上手いこと忍び込んで、歌を覚えて帰ってくるとみんなで合唱してくれた。


 とってもかわいい。幸せな気分。


 演劇も見て、物語の概要を教えてくれた。ああ、もし自由なら劇場に足を運んでみたいな。素直にそう思った。


「チョーおもしろいのにお客さんいなくてガラッガラなの! 劇団潰れちゃうってさ! 次の公演がダメならおしまいなんてもったいなーい!」


 キャピッとしたルリハが見たのは、小さな舞台小屋のお芝居だった。

 新人ばかりの劇団で、知名度もなくて、演目がいいのにさっぱりなのだとか。


「っぱイケメン足りないっしょ」

「いや磨けばチョー光るって」


 二羽で見てきたルリハの女の子ペア。二人ともいくつも演劇を見てきての推しっぷりだ。

 チケット代が掛からないのをいいことに、国立劇場の大舞台で名優たちの夢の共演も観てきたのに、舞台小屋の新人の方が良かった。なんていう。


 私は手紙を書いた。宛先はレイモンド王太子の妹の王女アリア様。婚約を破棄される前は、よく一緒にお茶をご一緒させてもらった。


 アリアは演劇好きで、新しい出会いを求めてお忍びで色々な舞台を渡り鳥していると。そんな話を思い出した。


 さすがに新人ばかりの舞台小屋はチェックしてないわよね。


 匿名でオススメの内容をまとめて、アリアに手紙を飛ばした。


 自分で観てないのに無責任かもしれないけれど、観劇が趣味なルリハたちの臨場感たっぷりな語りが面白かったから、きっと実物はもっと面白いに違いない。


 数日後――


 アリアは新人劇団を大いに気に入って、大々的に宣伝し国立劇場に立たせてしまった。


 ダイヤの原石を発掘したとして、アリアの評判はうなぎ登り。新人劇団員も一気にスターの階段を駆け上がり始めた。


 よかったわね。幸運の青い小鳥たちに感謝なさい。


 それから王都の夜を騒がせる大規模窃盗団のアジトを、ルリハの調査チームが昼夜交替のシフトを組んで捜索し、ついに曝いてしまった。


 私は詳細を記した手紙を王国騎士団長ギルバートに匿名で送る。


 治安維持の部隊が酒場の地下にあるアジトになだれ込み、窃盗団は青天の霹靂だ。


 聖教会で行われた不正と腐敗もルリハたちはただした。

 一部の司教たちが貴族に寄付ではない個人献金を受けていて、教会が賄賂貴族に色々と便宜を図っていたみたい。


 教皇庁へお手紙させてもらったところ、腐敗司教たちは破門追放。教皇猊下が緊急集会を行った。その際、どうも私の出した手紙が取り上げられたみたい。


 差出人のないそれは「神の導き」として、聖遺物認定されちゃった。


 この一件がきっかけで――


 王都の悪人たちは眠れない夜を過ごし、人知れずがんばっている人々には思いがけない幸運が訪れるようになる。


 軒並み手紙を受け取った人の社会的評価と信用はアップ。神の手紙とまで言われてしまったものだから、受け取ったことを公言する者も出始めた。


 そういう人には二度目は送らないようにしないと。貴方の売名のためじゃなく、困ってる人を助けてほしいだけなのだから。


 その点、グラハム大臣も騎士団長ギルバートも、送った手紙の諸問題を黙々と解決していってくれた。


 もう送ったその日に対処するくらい、信用された模様。


 逆に、王女アリアは手紙を受け取ったことを公言した。自分が劇団を見つけたのではないとも。

 また、良い劇団の話が舞い込んできたら、教えてあげよう。あの方は演劇を愛しているのだもの。自分の功績にしてしまってもいいのに。

 ちゃんと新人劇団の後見人をしているのだし。


 ええと、うんとね。


 王宮に飛んだルリハたちが、それはもうこれでもかというくらいのゴシップを持ち帰ってきた。

 誰が誰と浮気をしているとか、不倫の証拠とか。


 挙がる名前は、私が人生最後の夜会で王太子レイモンドから婚約破棄と追放をされた時に、手のひらを返したお歴々のものばかり。


 私は手紙を十二通書いて、一斉に送った。それぞれの恋人や伴侶に向けて。


 しばらくすると――


「大変でちゅ大変でちゅ! 王宮の貴族たちが夜会で殴り合いの大乱闘でちゅわ! もうめちゃくちゃで婚約破棄とか離婚とかやりまくりのでまくりでちゅわ!」


 その日の夜、催された夜会を見物に行ったルリハが大騒ぎ。

 人の婚約破棄と追放を笑っていいのは、笑われる覚悟がある人だけよね。


 王宮は無茶苦茶になった。大混乱だ。困らせるつもりはなかったけど、胸がスカッとした。


 そしてついには――


 この混乱に乗じて、ある人物が動き出したとルリハ諜報部のチームから報告が上がった。


 正体不明の占術師シェオルが、夜半に王城を抜け出して王都の裏通りで得体の知れない連中と密会しているのを目撃したそうな。


 どうやら東方の異国の間者らしく、使っている言葉が違った。

 ルリハの何羽かが東方に飛んだ。三日で言葉を覚えて戻ってきた。


 この子たち、もしかして……やばい? 今頃気づく私も私だと思う。


 ルリハたちが調べを進めたところ――


 どうやら、占術師シェオルが国王陛下暗殺を三度未遂で止めたのは自作自演だったみたい。


 国王陛下の信頼を勝ち取り、王宮内で数々の予言じみた占いをして地位を固めたシェオル。

 だけど、裏で暗躍する異国の者たちによるものだ。


 彼らの真の目的は……王太子レイモンドだった。すでに婚約していた彼から私を引き剥がし、闇に蠢く者たちの息が掛かった別の貴族の娘を新たな婚約者にしようとしていた。


 だから私を排斥しておく必要があったのね。


 そうやって最終的に国を乗っ取る算段だ。


 だけどレイモンドはかたくなに、新しい恋人候補になびかなかった。


 業を煮やした占術師シェオルは、二人を結ばせるため最後は恋占いをして、国王陛下に「今すぐお二人婚約させねば国が滅びます」と、圧力をかける。


 急ぎだしたのは多分、神の手紙を黒幕たちが恐れたから。


 レイモンド王太子の新たな婚約が成立した暁には――


 国王陛下を今度こそ本当に暗殺し、王権をレイモンドに継がせる。あとは骨抜きにするという寸法みたい。


 背筋が凍る陰謀を、首謀者以外で知るのは王国の中で私たちだけだった。


 レイモンド……。

 貴男のためじゃないのよ。アリア王女や騎士団長ギルバートにグラハム大臣みたいな、ちゃんとした人たちのためなんだから。


 この国を悪い奴らから守って。貴男のお父様の……陛下の目を覚まさせて。


 だから……手紙……書くわね。

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