37.名探偵か迷探偵か運命の分かれ道にさしかかりました
ほどなくして――
来賓リストと客の人数が合わないことが発覚した。
いないのは……宝石好きのジョエル伯爵ね。
私は「すぐに探してください。城内だけではなく、中庭なども念入りに」と衛兵に指示を出した。
名探偵(?)のシャーロットが私に訊く。
「王妃様? 中庭ですか? もし……陛下を襲った犯人がジョエル伯爵なら、逃げ場の無い中庭に隠れているとは思えないのですが?」
「念のためよ。それよりも第一発見者だからと、彼を疑ったことを謝罪なさい」
「うっ……ま、まだわかりませんから。共犯の可能性もありますし。捜査の基本は疑うことです」
最初にレイモンドが倒れているのを見つけて、すぐに報告してくれた衛兵に私は言う。
「もう下がっていいわ。ええと、お名前は?」
「は、はい! 自分はその……エリックと申します!」
「ありがとうエリック。陛下をすぐに見つけてくれて。疑いが晴れたらきちんとお礼をさせてくださいね」
「と、ととととんでもないです!!」
「今夜は念のため、王宮には残っていてください。また、貴男の証言が必要になるかもしれませんから」
「しょ、承知いたしましたッ!!」
ビシッと敬礼をして衛兵エリックは持ち場に戻った。
シャーロットは不満そうね。
「王妃様はお優しいんですね」
「疑い始めたらキリがないもの」
「ところで、肩のそれは? 小鳥……ですか?」
「あ、あら。どこから紛れ込んだのかしら?」
と、ごまかしつつ、私は指をルリハに近づける。ぴょんと乗った青い小鳥はシャーロットをにらみ付けると「キッテ様をいじめるな!」と抗議した。
もちろん、私以外には小鳥がチッチと囀るようにしか聞こえていない。
すると――
会場にエリックとは別の衛兵がやってきた。
「王妃様! 中庭に……ジョエル伯爵が……その……し、死んでいるようです」
死んでる? いったいどうして?
指先でルリハが言う。
「あのねあのねキッテ様! 他の子が見てたんだけど、さっきテラスで大きな人と、黒い人がもみ合いになってたよ!」
いったいどういうことかしら? 大きな人って? 何か特徴があれば知りたいけど、ここでルリハに話しかけると私が不審者かも。
けど、目の前には赤いドレスの少女が立っている。
「ねえ、ええと……貴方。犯人について他に何か気づいたことはないかしら?」
「まだ現場の状況を見ていないからなんとも……ですが、ジョエル伯爵が死んでいるなんて……状況によっては……ともかく、調べてきますね」
いてもたってもいられず、シャーロットはホールを出る。
指先で遊ぶルリハは片翼を上げた。
「はいはーい! 大きな人がね! えいって黒い人の首を曲げてね! それから青いキラキラを胸につけてあげたの! 最後にテラスからポイーって。あとね! 大きな人は大きな大きな鞄を持ってたかも!」
犯行現場は王宮二階のテラス。
なぜだかわからないけど、そこにジョエル伯爵と……宝飾品職人のスミスがいた。
ルリハの話だと、二人はもみ合いになった。スミスが……ジョエル伯爵の首を折った? のかしら。
そして、二階のテラスから投げ落とした。
一番意味がわからないのは、スミスが青いキラキラ……ブルーダイヤ徽章をジョエル伯爵の胸に着けてから、遺体を中庭に捨てたこと。
いったいどういうことなのかしら?
私は衛兵を呼ぶと「宝飾品職人のスミスを探してちょうだい」とお願いした。
ルリハのおかげで犯人がわかっちゃいましたけど、いったいどうしてこうなったのか、さっぱりね。
ただ一つ言えることは――
スミスがジョエル伯の首を折ったということ。明確な殺意の現れだった。
困ったわね。
ルリハが現場を目撃したけど、証拠にはできないわ。
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シャーロットが捜査を終えて戻ってきた。
再びステージに上がって、脚光と来場者の視線を集める。
「皆様にご説明します。今回の事件の全容と全貌を。つまびらかに、それでいて大胆に。アイスクリームの食べ過ぎで頭が痛くなった時、薄いサクサクのゴーフルでその頭痛が治るように。事件がアイスクリームの氷山なら、わたくしがそのゴーフルになりましょう」
推理ショーの第二幕開演に、会場中から拍手が巻き起こった。相変わらず例え話の癖が強いわね。
赤いドレスの裾をふわりとひるがえして。
「まず、レイモンド陛下を襲った犯人ですが……残念ですけど……亡くなったジョエル伯爵です」
そういう結論になってしまうのね。
ここはきちんと聞いていかないといけないわね。間違ったらきっと、事件は迷宮入りしてしまう。そんな気がした。




