34.青いダイヤの首飾りは素敵だけど魔性を感じてしまうかも
前王妃――
若くして亡くなられたレイモンドのお母様のことね。
大事にとってある遺品の中に、それはあった。
青い大ぶりのダイヤがあしらわれた首飾り。
透き通った輝きについ、吸い込まれそうになる。魔性を感じる石だった。
彼ってば。
「良かったら君がつけてみないかい?」
ですって。ドレスでも宝飾品でも、私が着られてしまうわ。素晴らしいものには違いないし、青っていう色も好き。
だけど、好きと似合うは違うのよね。
私は他にもっと素晴らしい青に包まれているのだし。
なによりも。
「陛下。お母様との繋がりをもった大切な石なのですから、きっと貴方が持つ方が天国のお母様も喜ばれます」
と、辞退した。
彼は少し寂しそう。なので、翌日にルリハたちに相談してみたのよね。
森の屋敷の一室を埋め尽くす青い小鳥たちは、それぞれ意見を出し合った。
「キッテ様なら似合うんじゃね?」
「けどほら、彼氏のママの品ってどうなん?」
「直接会ったこともないわけだし」
「じゃあさじゃあさ! レイモンド王に女の子の格好してもらってさ」
「いーねー! あの王様美形だし絶対映える」
「不敬罪だろ常識的に考えて」
「ほならね、お前さんには良い案あるんかね?」
「王様を変えるんじゃなくてよぉ。宝石の方を変えたら?」
「それな! 指輪とか」
「もっと王様っぽいのいいでしょ。王冠?」
「それはもうあるじゃん」
「であるならば……男の……勲章である!」
「「「「「それだ!」」」」」
ということで、首飾りを勲章に変えるという案でまとまった。
私も経緯はいったん聞かなかったことにして、作り直すのには賛成。
ただ勲章は王が授けるものなので正確には徽章かもしれないわね。
ルリハたちに訊く。
「誰か宝飾品に詳しいルリハはいるかしら? 今、王都で一番の宝飾品職人で石を傷つけずに作り直せる名工がいれば教えて欲しいのだけど?」
一羽がぴょんと群れの中から飛び出した。
「であるならば……スミス・ストーンを推す」
「スミス・ストーン?」
「異国も巡りて原石からカット、磨き、彫金とすべてをこなす若き天才である。完璧主義者。二足歩行する神経質。精巧にして緻密な仕事ぶり。宝飾品はもちろんそのケースに至るまで自ら手掛ける。故に気難しく仕事を選び、依頼人とぶつかり合うこともしばしば」
「なんだか大変そうね」
「その腕に狂い無し。国中の職人が束になっても敵いますまい。王国に戻ってまだ日は浅く、異国の方がその名が轟いているのである」
そんな人材がいたのね。
「わかったわ。陛下に相談してみましょう」
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そんなこともあって、スミスの元に使者を送り、彼を王宮に招待した。
謁見の間に現れた彼の外見に驚く。隣で玉座に掛けたレイモンドも目を丸くした。
「この度は王宮にお招きいただき、光栄に存じます陛下。王妃様」
跪いて深々と礼をしてもまだ全体のシルエットが大きい。
声も低く落ち着いていた。これで二十代半ばというのだから、信じられない。
陛下の許しを得て彼は立ち上がった。
宝飾品職人というから繊細な見た目なのかと思っていたけど、身長も二メートルに達するかというところ。横にも広い。というか、筋骨隆々の屈強な戦士みたいな人だった。
肌も日焼けしている。ずっと工房にこもって作業しているようには見えない。
手には大きな革鞄。彫金道具がパンパンに詰まっているんだとか。出張修理でなくても、どこでも作業できるみたいね。
なんでそんなにムキムキなのかといえば、自分の手で宝石を掘り出すこともしばしばあるとかで。
一流の冒険者にして超一流の宝飾品職人とのことだった。
「ご依頼いただければ、必ずや満足していただける最高の徽章を作ってみせます。世界を旅して得た知見と技術の粋を結集し、国宝たり得る作品を陛下の胸に咲かせるとお約束しましょう」
渋い声で素敵なことを言うのね。普通の人なら浮いてしまうセリフも、職人スミスの自信と落ち着きが加わると説得力を持ってしまう。
陛下は少し押され気味に。
「で、では貴男に依頼します。どうか良い仕事をなさってください」
「この命に代えても」
形見の品。ブルーダイヤの首飾りはこうしてスミス・ストーンの手に委ねられた。
後に惨劇を起こすことになるなんて、思わなかったのよね。




