3.小鳥たちの話を聞くうちに王都の問題点が見え始めました
「キッテ様悪くないのに酷い!」
「死ぬまで鳥かご暮らしかよ!」
「こんな人生あんまりすぎるじゃん俺らでなんとかできんか?」
ルリハの中に過激派というか、強火な子たちが集まって会議を始めてしまった。
「まあ鳥かごはさ、ご飯の心配はいらんし、毎日のおやつは美味しい。それは認める。けど外に出られんのはありえんて。伸び伸び羽ものばせんし、友達んとこにも遊びにいけんし」
「おかわいそうすぎますキッテ様が。そうだ! みんなで王太子様に抗議しましょ! 抗議活動よ!」
わーわーと議論が紛糾した。止めないと本当に、王都に向かって突撃しちゃいそう。
「みんな落ち着いて」
ルリハの一羽が胸を張った。
「王太子様への抗議はダメでっか? キッテ様」
「え、ええ。私との婚約破棄をしたのは彼だけど、それを命じたのは……」
「ほな王様襲撃か」
「もっとダメになってるわよ!」
「んならアレや。王様にタレコミしたけったいな占い師のあんちゃんか」
占術師シェオルは仮面にフード付きマントで声も魔法でいじっている、男か女かもわからない謎の多い人物だった。
宮廷で私は一度だけ、すれ違って挨拶したことがあるけど、ただただ不気味。
「みんな落ち着いて。もう、済んだことだもの。それに王都に行くのは危ないわ」
「ワシら所詮小鳥ですけんチュンチュン言うときゃスズメと間違われるくらいじゃけ、問題なかね」
スズメの振りをすればいいというものなのかしら。
別の一羽が両翼をパタパタさせる。
「キッテ様だけ我慢するのおかしくないですか?」
魅惑のバリトンボイスだった。
気持ちは嬉しい。けど、ダメ。ルリハたちは良い子だもの。私の厄介事に巻き込みたくない。
一同がテーブルの上に寄り添って私をじっと見る。
「キッテ様はなにもしてない! 悪くない! 冤罪ですらない!」
「俺らいつでも動けますぜ。なんならこのクチバシで、チュンッ! ってな」
いったい何をチュンッ! するつもりなのよ。害鳥に指定されたら大変なんだから。
このままだと過激派が暴発してしまう。
私が止めなきゃいけない。でも、なんて言えば矛を収めてくれるのかしら。
最初の子が私の肩に飛び乗った。
「みんな落ち着いて。キッテ様困らせちゃだめだよ。僕らはキッテ様に笑顔でいてほしい。だよね?」
「「「「「おう!」」」」」
全員の意思統一を図ると、最初の子が私の肩から降りて振り向いた。
「キッテ様が外に出られないなら、僕らが代わりに目と耳になるよ! 聴きたい歌とか物語とか秘密とか噂話とか、なんでも集めるのでリクエストして!」
別に今まで通りで良いのだけど、この子たちに役割を与えてあげた方が過激な子も無茶しないか。
「それじゃあ……もし、王都に行くなら困っている人を助けてあげて」
「キッテ様! 僕らじゃ助けたりは無理かも」
「なら、わたしに町で困っている人のことを教えてちょうだい」
何羽かが首を傾げた。
「いや今一番困ってんのってキッテ様じゃん」
「町の知らん連中のことなんて、いくら困ってようと関係なくね?」
「キッテ様を助けたいのに!」
私は咳払いを挟んだ。
「おっほん。えーとね、あなたたちがいてくれるおかげで、わたしは孤独を感じず幸せ。だからみんなが危険な目にあってしまうのが、とっても恐ろしいわ。町でみんなが大暴れなんてしたら、害鳥として捕まって殺されちゃう。そんなの絶対よくないの」
何羽かがブルリと震え上がった。
「ご、ごめんなさい。脅かすつもりはなかったの。だから、町の人たちに愛される小鳥さんでいて欲しいの。困ってる人のためにみんなががんばれば、きっと受け入れてもらえる……と、思うのよ」
過激派の一羽がうんうんと頷く。
「おーやっぱりキッテ様は俺らの慈愛の女神様じゃん。いっちょやるか! 人助け!」
誘導成功……かな? みんな私の言葉を待っていた。
「え、ええと……町には見えないところで困っている人がいるわ。辛そうな人には歌を聴かせてあげて。困っている人の声に耳を傾けて、それを私に伝えて」
教えてもらってなにができるわけでもないけれど。
ともかくルリハはお喋り好きだから、報告を聞いてあげれば「やった感」に満足してくれる……はず。
「「「「「わかった!」」」」」
青い小鳥たちは一斉に片翼をあげた。本当にわかってくれたのかしら。ちょっと……ううん、結構心配。
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翌日から、王都の目に見えない問題点が私の元にたくさん集まってきた。
人が転ぶ道がたくさんある。どうやら細い裏路地で石畳の敷石が外れてしまったままのところが、点在していたみたい。
箇所を私はメモにしてまとめると――
「ねえルリハたち。お手紙を届けることってできるかしら?」
「んなら俺っちにお任せあれ! 便せん一枚ならギリいけるぜ!」
力自慢の一羽に手紙を届けてもらうことになった。封筒さえも重たいから使えない。
便せん半分。書ける文字数も限られる。その中で、王都の町を隅々まで見て回ったルリハたちの情報を記して、メッセージを飛ばす。
手紙を丸めた枝に見立てて、両足で掴むと窓の外に飛ぶ。
空を駆けた差出人の名もない手紙は、王城の大臣執務室へと届けられた。
グラハム大臣は質実剛健かつ聡明な人物として、国王陛下の鉄の右腕と言われている御方だ。夜会のような華やかな場には挨拶程度しか顔を出さず、日夜政務に励まれている。
私の手紙をグラハム大臣が見るかどうかわからないけど、戻ってきた力自慢の子の背中と頭を撫でてあげた。
翌日からルリハたちに筋トレブームが起こる。みんな手紙を届けるのを名誉ある仕事だと思ったみたい。