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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
白いあの子がやってきたお話
28/82

28.大きなお友達にみんな興味津々みたいですけど

 今日も森の屋敷に青い小鳥たちが遊びにやってくる。

 さてと、みんなのおやつを準備しないと。今日はふんわり食感のシフォンケーキ。ふわふわメレンゲで空気をたっぷり含んだ生地を焼き上げて、口に入れればしゅわっと溶けるような美味しさよ。


 バスケットから取り出して切り分けるとお皿の上に乗せる。お茶菓子の準備は私の楽しみだ。


 その間もルリハたちはそれぞれ、最近の出来事を喋り出した。


「キッテ様! あーねあーね! 超イケてる歌舞劇みっけたの! 特に主役の女の子の声が素敵なのよ!」

「諜報部です。現在、王都に例の組織の活動はみられません」

「今度、市場通りにドーナツ屋さんができるんだって♪ たのしみー!」

「町の中に鹿の群れが出たー!?」

「逃げ足が速くて王都警備兵も捕まえられないぜ。奴ら……プロだ」

「プロの鹿草」

「画家のクイルさんがやっと頭がスッキリして外に出たんだってさ。公園でリフレッシュするって」

「クイルさん鹿に追い回されてたよ?」

「クイルさんもう外には出たくないって」


 鹿かぁ……。クイルも不幸ね。


「クイルさんね、鹿描いてたよ!」


 ただでは起きないのは、良かったわ。


「グワッグワグワ!」


 んもう。時々、ルリハたちって他の鳥の鳴き真似をするのよね。


 今日はアヒルさんごっこかしら。


「はい、準備できたわよ」


 顔を上げると――


「グワッグワ!」


 テーブルの上を埋め尽くすルリハの群れの中に、巨大(ルリハ比)な影がどかっと座っていた。


 真っ白なコールダックだった。


「あの、どちら様かしら?」

「グワワッ!」


 アヒルはスッと立ち上がると、短い尾羽をフリフリしながら片翼をあげて返事(?)した。


「ねえ、ルリハたち。どういうこと?」


 青い小鳥たちがざわざわし始める。


「え? どういうことって……なにか変ですかキッテ様?」

「ウチらいつもどーりじゃね?」

「平常運転ですぜ姐さ……キッテ様」

「誰か体調崩してるやついる?」

「元気元気~! 元気だよ~!」


 誰も異変に気づいて……ない?


「グワグワワッ!」

「だよねー」

「新入り結構やるじゃん」

「まさか小粋なジョークで返してくるとはな」

「グワーワ!」


「「「「「うけるー!!」」」」」


 意思疎通できてるッ!? アヒルとルリハたちで会話してるけど、私にはさっぱりわからない。


 私はコールダックを両手で掴んで持ち上げた。


「みんなおちついて。この子……なんだかちょっと……変じゃない?」

「グワッ?」


 つぶらな瞳でアヒルは私をじっと見つめて、首をかしげる。


 ルリハたちはお互いに顔を見合わせあった。


「なんだろ。違う? ……かな? いやでも……」

「目の錯覚かもしんないけど、あのルリハちょっと……大きい?」

「色も若干だけど白っぽいかも?」

「誤差っしょ」

「うんうん。普通にお喋りできるよね? ね? だよね?」

「ワンチャン、ルリハでない可能性があったりなかったり?」

「だどもあの子ってば自分もルリハだって言ってたべ。疑うんはよくねぇだよ」


 ええ……ルリハって自己申告制なの?


 私はアヒルをそっとテーブルの上に置いた。


 容疑が晴れましたとばかりに、アヒルはお尻をフリフリしながらルリハたちの群れの中に戻って、しれっと溶け込んだような素振りだ。


「グワワ」

「大丈夫大丈夫。バレてないって」


 今のでバレたわね。


「こーら、ルリハたち。私を騙そうとしたわね?」


「「「「「ぎくぅ!?」」」」」


「ルリハの中にアヒルを紛れ込ませても私が気づかないかどうか、ドッキリを仕掛けたんでしょう?」


 ルリハの一羽がアヒルの頭の上に乗った。


「ご、ごめんなさいキッテ様! この子の夢を叶えてあげたくて!」


 口ぶりからして、最初の子だ。


「夢? アヒルさんの夢ってことかした?」

「うん、この子ね、大きくなったら僕らみたいなルリハになりたいんだって」


 アヒルが「グワグワ」と首を縦に振る。


「大きくなったらって、もう貴方、ルリハたちよりもよっぽど大きいじゃない」

「グワーンッ!?」


 ショックだったみたい。アヒルはしょんぼりしてしまった。


「あ、ええと、なんかその……ごめんなさい。言い方が悪かったわね」

「グワワッ」

「けど、どうしてアヒルなのにルリハになりたいの?」

「グワワーワグワーワワ!」


 だめかも。何を言っているのか、さっぱりわからないわ。


「誰か翻訳してくれるかしら?」


「「「「「はーい!」」」」」


 アヒル語に堪能なルリハたちが、代わる代わるアヒルの言葉を通訳してくれた。


 どうやらこのアヒルは、ルリハみたいに青くて小さい姿に憧れていて、どうやったらあんな風になれるのかずっと悩んでいたみたい。


 綺麗な声で鳴いて、一緒に合唱するのが夢なのだそうな。


 だから歌を練習して、ルリハたちみたいに飛ぶのも特訓して、踊るようなステップも憶えて……ともかくルリハになろうとがんばった。


 けど――


「いくらがんばっても大空に羽ばたけないし、綺麗な声で歌えないのね。身体も大きいから身軽にステップも踏めない……か」

「グワワウ!」

「もっとがんばるって言ってます!」


 つぶらな瞳がまたしても私をじっと見つめた。ルリハたちもアヒルのがんばりを応援したいみたい。


 困ったわね。私もこの屋敷に囚われた時、ルリハのように自由に空を飛んでどこかへ行ってしまいたいなんて思ったけど。


 叶わない夢だとわかっていた。


 ルリハの一羽が前に出る。


「ねえキッテ様! この子をルリハにしてあげられないですか!?」


 ええっ!? 王国を救うよりも、もしかしたら無理難題かもしれないわね。


 いったいどうすればいいのかしら?

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