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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
突然攫われてしまったお話
22/82

22.絶体絶命すぎて泣きたくなってきたかも

 いくらルリハが人間の言葉を理解できても、言葉を発することができない私には何もできない。


 目で訴えるしかない。ルリハをじっと見つめて「助けて! お願い! 助けて!」と念じると。


「ピピピピーッ!?」


 ルリハは小さな身体をビクンとさせて、怯えたように夜空に飛び去った。


 終わりだ。うう、このまま誘拐されてしまうのね……私。



 失意に沈んで下を向いたまま、どれくらいがたったかしら。


 急に男たちの騒がしい声がし始めた。


「火事だーッ!」

「おい誰だよそんなところで火を使ったのは!?」

「俺じゃねぇよ! つーか知らねーよ!! 火なんか使うわきゃねぇだろ!」

「まずいぞ藁に引火してやがるッ!!」

「消せ! 消せ! 目立っちまうだろ!」

「クソッ! せっかく廃牧場を買い取ったってのに!!」


 火事……なの?


 耳を澄ませれば、パチパチと爆ぜるような音が聞こえてきた。


 このまま納屋ごと燃えたりしないでしょうね? こっちは貴男たちにとって大事な人質なんでしょう?


 え? 大丈夫よね? まさか忘れられたりしてない?


 不安になってくる。誘拐された絶望以上のことなんてないと思っていたけど、誰にも気づかれずに燃やされるなんて……無いわよね?


「ボス! 人質はどうしやす?」

「燃えてるのは母屋だ。納屋には引火しないだろう。今は火を消すことを優先しろ」

「場所を移しちまった方がいいんじゃないですかい?」

「ヴァルディア帝国の使者とはここで取り引き予定だ。変更はできん」


 声の片方に聞き覚えがあった。私を尋問したフードの男だ。


 彼には手勢がいて、この場所は恐らく……王都郊外の牧場跡地。悲鳴を上げても無駄なのは、そういうことか。

 買い取ったというからには、そこから調べられそうね。偽名くらいはわかるかしら。


 ううん、それだけじゃない。それどころじゃない。


 私の誘拐に関与しているのは東方の異国――ヴァルディア帝国。


 王国を狙っていると黒い噂が絶えない覇権国家。


 実際、王国内の一部の悪徳貴族をそそのかし、乗っ取りをしようとした。


 レイモンドと結婚する前、私を追放した占術師シェオルを送り込んだのもヴァルディアだ。


 まだ、諦めていなかったのね。


 私は耳を澄ませる。聞くのは得意だもの。まるで自分がルリハになった気分。


「ま、まさか見つかったりしやせんよね?」

「学院にいたはずの王妃が王都を出て、こんな廃牧場にいるとは誰も思うまい」

「これで俺らもエルドリッジ伯爵から、たんまりもらえるって寸法ですよね!」

「あの男との繋がっておけば、何かと便利だからな」

「ボスの給仕服姿、結構様になってやしたぜ」

「なんだ? 死にたいのか?」

「ひいッ!」


 だんだん記憶が甦ってきた。


 確か――


 そう。王立学院の件のあと、学院が少し落ち着いたところで生徒たちのための舞踏会プロムナードに来賓として招待されたのよね。


 不正が曝かれたばかりのところだけど、下を向いてばかりいられない。士気高揚のため……みたいな。


 ミア・サマーズにとっては初めての舞踏会。デビュタントだったので、彼女を勇気づけようと行ったのだけど。


 舞踏会は夕方から。


 始まってすぐ、私は給仕から差し出された飲み物を口にして……気分が悪くなり別室に案内されて……。


 ともかく男の手際が良すぎて、護衛になんの疑いも持たせなかったのだけは憶えている。


 私自身もすっかり、騙されてしまったのだし。


 案内された部屋で記憶は途切れた。


 ああ、だから私、ルリハが言ってたみたいにドレス姿のお姫様だったんだ……。


 給仕はフードの男が変装したもの。学院に男が入り込んだのは、エルドリッジ伯爵家の手引き。


 このことを、なんとしてでもレイモンドに伝えないと。ああ、いつもなら手紙を書くのに。


 どうして伝える手段がないのよ。


 うう、私ってば無力。


 ルリハとも意思疎通はできないし、もうダメよ。終わりなのよ。


 戸口の外からフードの男の声が聞こえる。


「ともかく、ここが見つかるようなら……オレらの中に内通者がいるか……」

「俺じゃねぇっすよ!」

「バカが。んなこたわかってる。オマエみたいなアホがオレを騙せるわけないだろ」

「へ、ヘイ。仰る通りで」


「いいか。王都で仕事がしにくくなったのは、明らかに王都警備兵シティガードに先回りされてるからだ。どっからか情報が漏れている」

「そっすよねぇ」

「と思うだろ? 組織の中に裏切り者はいない。オレらとは無関係な下着泥棒だのも捕まっている。アレは単独犯だ」

「マジっすか?」


「つまり、どういうわけか広域で情報を収集することができる能力を持ったやつがいる。もしくはそういった魔導具が存在するとみている」

「なるほどなるほど」

「組織が仕事をし辛くなった時期は、レイモンドが王位を継いで婚姻したのと近い。王家に伝わるなんらかの力をレイモンドが受け継いだか……」

「あー、でなけりゃ王妃が怪しいと」

「ここでもし、王妃に助けが来ないようなら……この女がすべての元凶だ」

「誘拐してからずっと、納屋にブチ込んで見張ってきやしたしね!」


 そこまでバレてるのッ!?


 終わったどころか、このままだとルリハたちまで巻き込んでしまうかもしれない……私だけのことじゃ済まなくなる。


 もう、あの人にも会えなくなるのね。


 目を閉じる。


 いつもちょっぴり頼りないレイモンドの笑顔を思い浮かべると、自然と涙が溢れてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここにきてルリハの事を他の人と共有しないままにしたキッテの悪手が響いていますね。 それでも私はルリハ達がレイモンドに助けを求めてくれるのを信じてます! きっと、他のルリハにこの事を話したら「…
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