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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
突然攫われてしまったお話
21/82

21.気づいたら独りぼっちになっていました

 うかつだった。

 今、私は薄暗い小屋に閉じ込められている。両手をしばられ猿ぐつわまで噛まされていた。


 ここはどこかしら?


 顔を上げる。ボロい納屋の上に空いた穴から夕日が差し込んでいた。


 一つ言えることは、私は誘拐拉致監禁されてしまったということだけ。


 記憶がぼんやりしている。薬……かしら。


 いつ、どのタイミングで狙われたのかも憶えていない。けど、ここに護衛がいないということは、誘拐者の手中なのだ。


 不意に納屋の扉が開いて、男が姿を現した。


 フードを目深に被った男が、私の猿ぐつわを解く。


「王妃を誘拐してただで済むとは思わないことね」

「……開口一番、その言葉が出るとは勇ましいな」

「誰の差し金かしら?」

「あんたを消すなら教えてやってもいいんだがな」

「身代金が目的ということね?」

「いや、欲しいのは情報だ」


 男の声は暗く、重い。雰囲気で察する。人を何人も殺めてきて、手に掛けることをなんとも思わないような人物。


 殺し屋か傭兵か。


「王家の秘密を知りたいと?」

「最近、王都の取り締まりが厳しくてな。どういうわけか王都警備兵シティガードの連中に先回りされるようなことが頻発している」

「統括する騎士団長ギルバートは優秀な人物ですから」

「……オレはアンタだと踏んでいる」


 あっ……やばいやばい。


「貴男は何者なの?」

「質問しているのはこっちだ」


 男は短剣を抜くと私の喉元に切っ先を突きつけた。

 ひいい。こ、殺されるちゃうかも。

 男の顔はフードの奥で、どんな表情かもわからない。


「おっと、叫んでも誰も来るような場所じゃないんでな」

「でしょうね」

「どうなんだ? アンタがやってるのか?」

「それより、お花を摘みに行きたいのだけど」

「我慢するんだな」


 こういうのをとりつく島も無いって言うのよね。幸運にも本当に行きたいわけじゃなかったけど。


 男は抜いた短剣を収めた。


「まあいい。今夜は新月だ。国境を抜ければ誰も追ってはこられまい。話は落ち着いたらゆっくり聞かせてもらうとしよう」


 フードの男は私にもう一度、猿ぐつわを噛ませると納屋から出ていった。

 夕日がだんだんと暗くなる。


 大ピンチね。夜中になったら男の仲間たちが迎えに来る。それまでに脱出しなきゃいけない。


 叫んでも誰も来なさそうな場所。

 柱に縛られて身動きが取れない。


 私がいないことは、王宮も……レイモンドも知っているはず。


 きっと王都は蜂の巣を突いたみたいな騒動になってるわ。


 このまま助けが来るのを待つのは、望み薄。


 下を向きそうになった。けど、上を……空を見上げなきゃ。子供たちにそう言ったのは、私だもの。


 納屋に空いた天井の穴に――


 小さなシルエットが一つ。


「キッテ様見~つけた! アチシが一番のりなのだ! かくれんぼ大会優勝なのだ!」


 穴からスッと舞い降りる天使……ルリハが肩にとまって尾羽をフリフリする。


 助かった。これでなんとかなりそうね。


「むごー! もごごごー!」

「なーに? キッテ様? てかてか変なの! 縛られて捕まって、魔王城に囚われのお姫様ごっこ? あのねあのね! この前に観た演劇でね! そんなシチュだったの!」

「もごごもごごー!」

「ピピピー?」

「――ッ!?」

「ピピピーピ・ピーピピ」


 あっ……もしかして……。


 こんなタイミングで……秘密のサンザシの効果が切れてしまったの!?


 私の肩から飛び降りて、ルリハが前に立つと首を傾げた。


 ど、どうしよう。猿ぐつわのせいで言葉が伝えられない。紙もペンも無い。そもそも縛られてる。


「ピピピ? ピピピピ?」


 どうしよう。どうしようどうしよう。どうしよう!?


 絶体絶命。


 夕日が落ちて、空が暗くなる。月明かりの無い闇夜の始まりだった。

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