表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
新進気鋭の天才画家の話
17/82

17.色を集めに行けないなら発想を逆転させればいいじゃない

「と、いう感じの悩みだったみたいなの」


 森の屋敷の二階の部屋で、青い小鳥たちに語り終える。

 クイル・グラスハートについて聞いたルリハたちは、一斉にお喋りを始めた。


「やっぱキッテ様ってすげぇんだな」

「あっさり聞き出してしまわれるとは……閉じた貝の口を開かせるがごとく」

「貝ってなによ例え話下手か?」

「ま、さすがあたしらのボスって感じだけど」

「んだな。オラたちじゃ調べられんかったし」

「けどさけどさ、どーしよ。頭の中の理想の色なんて、わかんないじゃん!」

「もういっそ、無理矢理外に連れ出してやればいいのでは?」

「ウチはそれあかんと思う」

「なんでや?」

「あーね、たぶんアレっしょ。人見知り? 引きこもり?」

「違う違う。なんかほら、瞬間記憶的なやつな」

「知ってるど! 見たものを絵として記憶してまうって」

「情報を増やしすぎて頭がいっぱいというヤツですな」

「絵を描くと収まるんでしたっけ?」

「描けば助かるのに」

「ほら、なんかプライド? みたいな」

「もういっそ、ダサくても駄作でいいじゃんよ!」

「お前そんなんだから老け顔って言われるんだよ」

「なんだぁテメェ? オレのプリティベビーフェイスのどこが大人びてるって?」

「自己肯定感の鬼。嫌いじゃない」

「あーはいはい。ともかく、クイルって人さ。なんでもいいから吐き出して頭空っぽにしてから外に出るのは、ありよりのあり?」


「「「「「それな」」」」」


 わちゃわちゃぺちゃくちゃ。秘密のサンザシで言葉がわからなかったら、小鳥たちの合唱に聞こえていたかも。


 とりあえず結論が出たみたいなんだけど……。


「みんなの意見としては、クイルの中に溜まっている情報をどんな形でも吐き出させてあげるのが良い……で、いいかしら?」


「「「「「はい! キッテ様!」」」」」


 好き勝手にお喋りしていたかと思えば、息ぴったりね。


 困ったわ。ルリハ会議の中でも出ていたけど、こだわりの強い天才画家に駄作を描けなんて、言えないわよ。


 それができるなら、本人がとっくにやっているはず。


「あのねルリハたち。クイルも妥協して描こうとはしていたみたいなの。デッサンや構図はたくさんあったわ。彼なりに苦しみ続けているのよ」


 ルリハの一羽がちょんちょんっと前に出た。クリッとした瞳を輝かせて私を見つめると。


「家燃やしたら外出る」

「急に怖いこと言わないで」


 純真無垢な顔して突然どうしたの!?

 ヤバめな子は他のルリハたちにクチバシで引っ張り戻された。


 相変わらず、群れの中に溶け込むと個体識別できなくなるのだけど、今の子は何班なのかしら。


 そもそもルリハたちの班分け、把握してないけれど。放火班とか無いわよね?


 軽くホラーを味わったところで、別の一羽が進み出た。ちょっと身構えちゃうかも。


「キッテ様キッテ様! 僕らじゃどうしていいかわかんないよ!」


 口ぶりからして、最初の子だ。


 考えるのも私の仕事よね。今回はルリハたちに情報を集めてもらって、しかるべき相手にお手紙をするのでは、解決できないし。


 アリアの期待には応えられないかも。


 他の誰かに与えられたものではなくて、クイル自身が気づいた鍵でしか開かない扉。あの青年はそういうものの前で、立ち往生しているように思えてならない。


 クイルに閃きが訪れるのを待つしか……。


 窓の外から一羽が遅れてやってきた。


 クチバシに桜色の花びらみたいなものをくわえている。


 テーブルに着地すると、私の前にそっと置いた。


「ねー! 見て見てキッテ様! 白い砂浜で見つけたの! かわいいでしょ? キッテ様にあげるね!」

「なにかしら?」


 秘密のサンザシ以外で贈り物をもらうのは初めてだ。


 花びらに見えたのは桜貝の貝殻だった。薄紅色でとっても愛らしい。


「素敵な色でしょキッテ様!」

「ええ、とっても。ありがとうルリハ」


 背中をさすってあげると嬉しそうに目を細める。他の子たちが「ずるいずるい!」「賄賂だ!」「贈収賄罪!」「オラもオラもぉ!」と尾羽を立てて抗議する。


 って――


 これよ! これかもしれない!


 素人の私が画家のクイルに助言なんてできないけど、ルリハたちなら彼のプライドを傷つけることなく、アドバイスできちゃうかも!


 ルリハたちが私の顔を見上げて声を揃えた。


「「「「「キッテ様! 悪い顔してる!」」」」」


「いいのよ。悪巧わるだくみを思いついてしまったんですもの。これにはみんなの協力が要るわ。お願いできるかしら?」


「「「「「はい! キッテ様!」」」」」


 私はルリハたちに作戦概要を説明した。悪戯いたずらとドッキリの仕掛けで、クイルを立ち直らせることができるかもしれない。



 ルリハたちには色を集めてもらった。


 彼の家の窓の縁に、ルリハがそれぞれ見つけてきた「自分の好きな色」のモノを並べてもらう。


 桜貝に飾りボタン。銀の針や植物の種。小粒のドングリと毛糸の端っこ。玉虫の甲殻にガラスの欠片……などなど。


 朝起きて、ふと窓を見たら、そういったものが並んでいたなんて……怖い。


 だから、ルリハたちにはクイルにわざと姿を見せるようにさせた。


 巣作りのための素材集めの振りをして。これが私がしたお願い。ルリハたちは見事に完遂したみたい。


 数日後――


 王宮のお茶会の席に、ニッコニコのアリアが現れた。


「お義姉ねえ様! クイルのお話を聞いてくださったのですわね?」

「え、ええ」

「彼、復活しましたの! 今までの溜まりに溜まったものを吐き出すように!」

「じゃあ探していた色は見つかったみたいね」


 アリアはテーブルにつく。彼女はずっと長方形の包みを抱いたままだ。


「それで……復帰の一枚目は是非、キッテ義姉様にって。本当は、あたしが欲しかったのですけど。彼が立ち直るきっかけをくださったのは、義姉様だってクイルが言うので預かってきましたわ」


 包みを開くと、やっぱりというか。図鑑の表紙くらいの大きさのキャンバスだった。


 そこに描かれたのは……ルリハだった。


 飛び立つ瞬間。両翼を広げた躍動感のある姿を、まるで時間を止めて切り取ったみたいな絵。


 青い。蒼い。本物のルリハと見まごうばかりの……もしかしたらそれ以上の青。


 小鳥たちが集めたどんな色よりも、その青さが画家クイルを目覚めさせたみたい。


「ね、ねぇ、お義姉様ぁ……や、やっぱりこの絵……く、くださらない?」

「見せてしまったのが失敗ねアリアさん。とっても素敵な絵だわ。ちょっと譲れないかも」

「あうぅ……ですわよねぇ。うう、涙を呑んでお譲りいたします」

「元々、私に贈られたものでしょ?」

「いっけない! そうでしたわね! ごめんなさい。はい、どうぞ」


 美術芸術が大好きなアリアが、人の物と解っていても欲しがるくらい、すばらしい絵だった。


「この絵にはタイトルは無いのかしら?」

「クイルはタイトルどころか絵に自分のサインさえしない人ですけど」


 ルリハの絵の端にクイル・グラスハートの署名がされていた。しかも王妃キッテ様へとメッセージが添えられている。


 アリアは呟く。


「幸運を運ぶもの……だそうです」

「ぴったりの題名ね」


 この絵は森の屋敷の部屋に飾ろう。きっとルリハたちも喜んでくれるわ。



「と、いうわけなのだけど」


 部屋の壁に絵を飾ると、ルリハたちはその前に集まった。


「ひゅ~! オレちゃん格好いいじゃん」

「なに言ってんだよ、どうみたって俺だぞ」

「あちしだし! あちしの絵だし!」

「みんな落ち着いて。目元がほら、ボクだよね? イケメンだし」

「お前さぁ色探し不参加だったろ」

「あれ? そうだっけ?」

「ワシじゃい!」

「いいや私ですね。この飛行姿勢を見る限り」


 ルリハたちは自分がモデルだと主張し始めた。

 収拾がつかない。


「はいはい。みんながモデルよ。今回もありがとうねルリハたち」


「「「「「お安い御用ですキッテ様!」」」」」


 こうして森の屋敷の簡素な部屋に、王都でも新進気鋭の画家が描いた一枚が飾られるようになったのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ