表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
酸いも甘いもなお話
14/82

14.木イチゴのタルトは甘くて酸っぱいからよいのですね

 ルリハたちのお話を聞いて、手紙を書く。

 送り先に困ったけど、とりあえずグラハム大臣に宛ててしたためた。


 結果――


 王都の商人ギルドに対して「王室御用達をかたる不届き者がいる」と通告。


 ギルド全体の責任問題になる前に、悪徳商人を探し出したところ三人も出てきたそうな。


 その中にはもちろん、私の名前を無断使用した化粧水詐欺の男も含まれていた。


 王国の法律にのっとって、刑罰が執行された。


 被害者たちへの謝罪と返金。罰金。商人ギルドからの追放。営業許可証の永久停止。王都中に三人の名前と罪状を立て看板にて広める。三年間の労役。


 そして――


「「「申し訳ございませんでした王妃様!! 国王陛下!!」」」


 王宮で直接の謝罪。謁見の間で三人の罪人が床に頭をすりつける。


 別に私はどうでも良かったのだけれど。


 男の一人が顔をあげた。


「こ、心を入れ替えますから! どうかギルドからの追放と営業許可証だけは!」

「だめです。これを許してしまえば、同じようなことを考える人が出てきます。王家の威信を傷つけたのですから、本来であれば死刑も免れないところ。レイモンド陛下に感謝してください」


 ピシャリと言っておしまい。時々、昔の自分――氷の女が顔を出す。


 男たちは失意たっぷり。中にはボロボロと涙を流して後悔する者もいた。


 最初から後悔するならやらなければいいのに。


 きっと、これまで誰にもとがめられず、上手くできてきたのよね。


 影に隠れてきたものたちを、ルリハの目と耳と翼は逃さなかった。


 時々、自分が怖くなる。


 正義を振りかざすようで……。


 男たちが去ると、今度は婦人たちが通された。身なりの良い貴族階級か、それに準じた身分みたい。


 謁見の挨拶を済ませた彼女たちは、私と陛下に感謝の意を伝えた。


 代表の女性がうやうやしく礼をする。


「王妃様の名を聞いて、つい買ってしまいました。これからは気をつけます。ありがとうございます陛下、王妃様」


 中には家の大事なお金を巻き上げられたとか、自分の娘の結婚資金をだまし取られそうになったとか。旦那様が残してくれた遺産が消えるところだったとか。


 うん――


 やっぱり、これからもやっていこう。ルリハたちが力を貸してくれる限り。


 騙される方が悪いんじゃない。騙す方が悪いに決まっているのよ。


 玉座のレイモンドは小さくうなずいた。


「皆、大変だったな。今後、こういったことが起こらないよう、法律の改正をしよう。詐欺の厳罰化と被害に遭わぬよう周知の徹底。商人ギルドで営業許可証を発行する際の審査の厳格化などを行うと約束する」


 王様らしく青年は告げた。私の前では少し頼りなく見えるけど、今日の彼はいつもよりもしっかりしていて……かっこよかった。



 社交の予定が無い夜の夕食は、二人でテーブルを囲むことが多い。


 そもそもレイモンドも人が多いのは苦手みたい。


 私たちって似たもの同士だったのかも、と、二人きりになると思うことがある。


 食事も進み、今日あったことを話し合いながらデザートが運ばれるのを待つ。


「今日の陛下はとってもご立派でしたね」

「いつもは頼りないかな?」

「あら、失礼。普段も素敵です。今日は一段と輝いて見えました」


 詐欺被害に遭った女性たちの話に向き合って、ちゃんと「これからどうしていくのか」までの道筋を示したのだもの。


 青年は「恥ずかしいな。けど、君に褒めてもらえるのが一番嬉しいよキッテ」とはにかんだ。


 テーブルに老執事が木イチゴのタルトを運ぶ。赤いベリーがたっぷりのっていた。


 そういえば、先日はルリハたちにあげてしまって食べ損なったのよね。


 切り分けられたピースをお皿にのせて配膳されると。


「あ、いや、僕はよしておくよ。すまないね」


 青年は代わりに食後酒の甘いワインにした。


「どうしましたの? この木イチゴのタルトは、王家秘伝のレシピなのでしょう? 陛下も幼い頃から食べてきたものだと、料理長からうかがいましたけど?」

「あ、ああ。そうだね。けど、実は……あんまり得意ではなかったんだ。伝統だからと食べてきたんだけど、酸っぱいのは……ちょっとね」

「あら、そうでしたの」

「この前、寝室のテラスに赤い実がおかれていたと話したのを憶えているかい?」


 秘密のサンザシのことだ。


「え、ええと、そんなことも仰っていましたよね」

「すごく艶々で赤くて、熟し切っているように見えて……子供心が甦り、つい、口にしてしまったんだ」

「確か、とても酸っぱい顔をしていたような」

「そうなんだよ! あれで良くわかった。僕は酸っぱすぎるものが苦手なんだとね。もう、落ちている木の実には手を出さないようにすると、心に誓ったよ」


 国の法律を決める立場の人なのに、子供みたいな報告を意気揚々とするなんて、ギャップがすごいかも。


 かわいい人だと思った。


「それがよろしいですね陛下。あと、得体の知れないものを食べるのはよくないですよ。暗殺されてしまいますから」

「あ、ああ、そうだね。気をつけるよ」


 青年はしょんぼりと眉尻を下げた。

 ちょっと……ううん、かなり心配。


 けど、どうやらルリハたちとの符丁は変えずに済みそうね。


 秘密のサンザシを食べないとレイモンドも言っていることだし。


 私は木イチゴのタルトをいただくことにした。


 相変わらず酸味とクリームの甘みが複雑にからみあって、美味しい。


 きっとベリーの酸味に合わせて、その都度タルトのクリームを調整しているみたい。


 酸いも甘いも何事もバランスね。


 今日のタルトは特に美味しかった。


 一ピースをぺろりと食べてしまうと。


「陛下の分も頂いてよろしいかしら?」


 太ってしまうけど、今夜だけは特別に許してね。


 こうして王城の夜は更けていった――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 連載版、お待ちしておりました。怪盗下着泥棒、ちゃんと捕まって良かったです。その情熱と能力を他のことに使えない辺りが変態たる所以なのでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ