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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
酸いも甘いもなお話
10/82

10.とりあえず危険の芽を摘むことにいたしましょう

 諜報部のルリハから下着泥棒のアジトと、身長や体型なんかを教えてもらった。

 けど、ちょっと困ったことがある。


 泥棒はアイマスクみたいな仮面で顔を隠していて、人相がわからないみたい。


 テーブルの上でしゃなりとしたルリハに訊く。


「顔は判らないのよね?」

「姐さん……いえ、キッテ様。ヤツは仕事をするときしか家から出ないような、用心深くて普段から顔を隠して暮らしてやがるんでさぁ」

「不審者すぎるわね、まったくもう」


 さて――


 ミニテーブルから机に移動して座り直す。手紙を書こう。

 宛先は王都の治安を守る騎士団長ギルバート。


 王宮内でも「神の手紙」の噂は立ったままだけど、真相を知るのは私だけ。

 旦那様のレイモンドは気づいているでしょうけど。


 困ったわ。もしギルバートが下着泥棒を捕まえたら、その報告が国王陛下の元に上がってしまう。


 レイモンドから「君はいったいどこで下着泥棒の情報なんてものを手に入れたんだい?」なんて訊かれたら。


 返す言葉もございません。


 けど、このまま見過ごせないわね。下着泥棒は夜間に動き出すみたいだし。


 私は容疑者の身なりについて書く。それから今日までの被害者の盗まれた下着の種類や色についても、ちゃんと調べておくことをオススメした。


 手紙をクルクルと巻いて小さなリボンでとめると、鍛えているルリハが机の上に舞い降りる。


「オラが届けたる! 任せとき!」

「それじゃあよろしくね。宛先は騎士団長ギルバートよ」

「了解だぞキッテ様! ではなッ!!」


 飛び立つ一羽に残されたルリハたちが。


「「「「「行ってらっしゃ~い!!」」」」」


 両翼をパタパタさせて声援を送った。


 お手紙係は矢のように窓の外へと飛ぶと、あっという間に空の向こうへ。


 あとは無事、届けて戻ってくれるのを祈りましょう。



 騎士団長ギルバートは手紙の意図をちゃんと汲み取ってくれた。


 後日の宮廷会議で、町を騒がせた下着泥棒の捕縛が報告されたのだ。


 ギルバートからは「本件はその……神の手紙による情報提供に基づき逮捕に至ったことを、最初にご報告いたします」と前置きあり。


 隣に座る国王陛下が一瞬だけ、私の方を見る。ああ、もう。みんなの前でそんな反応しないで。って、言う方が無理か。王様をするにはレイモンドは素直すぎる人かも。


 私がフォローしてあげなくちゃ。その度にレイモンドには心配されるけど。


「安心なさってください陛下。私の下着は盗られていません」

「そ、そうか。そうだな。まさか王宮にまで入り込みはしないか、心配になってしまったよ」


 ギルバート団長は「王宮の警備は万全を尽くしております。ご安心ください」と敬礼した。


 おかげでレイモンドが私を心配したという感じになった。


 これからも手紙で何かする度にレイモンドが私を見るようになると、困る。


 騎士団長の報告は続いた。


 ただの下着泥棒なのに、壁を乗り越え衛兵をかわし、鍵開けをして屋敷に侵入。貴婦人のクローゼットから赤い下着だけを選んで盗むという。


 誰にも気づかれずそれをやりとげる手口は怪盗。やっていることは変態だった。


 今回、逮捕に至ったのは男のアジトを騎士団の斥候せっこうが監視し、行動を起こさせるまで粘り強く待つ。


 男が現れても夜の町を泳がせて、貴族の邸宅に不法侵入したのを確認。現場で押さえた、いわゆる現行犯逮捕だった。


 目下もっか、余罪を追及中とのこと。追って処分も決まるみたい。


 恐ろしい犯罪を一つ、ルリハたちのおかげで止めることができた。



 会議が終わるとレイモンドに手を引かれて、寝室に連れ込まれた。


 彼は後ろ手にドアを閉めて鍵までかける。


 そのまま私をぎゅっと抱きしめ壁に押しつけた。逃げ場が……ない。


 やだ、急に……その……困ります。最近、困ってばっかり。


 と、思いきや。


「本当に危ない目には遭ってないのかい? 君に何かあったら僕は生きていけないよ」

「私はなにもしていません。ご安心ください陛下」

「危険なものに近づいたりしていないんだね?」

「はい。全然」


 近づいているのって、私じゃなくてルリハたちだもの。むしろそっちが心配。


 レイモンドは美しい青い瞳でじっと私の顔をのぞき込む。


「本当に無茶はしないで。何か僕が力になれることがあれば頼って欲しいんだ」

「私の自由にさせていただいているのですから、それだけでも十分です」


 青年は少し困ったように眉尻を下げると、そっと私から腕を放そうとした。


「陛下! あの、お願いです。もう少しだけ……抱きしめてくれませんか?」

「あ、ああ! 君さえ良ければ」


 彼の匂いにしばらく包まれる。レイモンドは王様としてはまだ頼りないけど、私に自由と安心の両方を与えてくれた。


 いつか……この人にならルリハたちを紹介できるかもしれない。

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