第一話
…世界は、残忍非道な『魔王』率いる『魔族』たちによって支配されていた。
人類は、魔族を倒すべく幾度となく魔族へと戦いを挑み続けた…だが、魔王軍の強力な兵力や魔法の前に成す術はなく、何人もの尊い命が犠牲となってしまったのだった。
…魔族と人類の争いが始まってからおよそ数百年、人々は未だ魔族の恐怖に怯えて暮らす毎日…だがそんな時、魔王軍を打ち倒すべく『五人の勇敢なる若者達』が人類の存亡の為に立ち上がったのだった。
【とある小さな町】
「ヘッヘッヘッ、俺達ゃ泣く子も黙る魔王軍だぜぇ!死にたくないなら金目のもの寄越しな!」
「き、きゃあぁぁぁぁぁ!!だ、誰かぁ!助けてぇ!」
「そんな叫んだところで誰も来やしねぇよ!」
「そこまでだ!魔王軍!」
「あん?な!?お前らは…『勇者パーティー』!?」
目の前に現れた男女五人組、そう彼らこそが…魔王軍を倒すべく立ち上がった勇敢なる若者達、ひと呼んで『勇者パーティー』なのである!
「邪悪なる魔王軍め!この『勇者 ラミレス』が相手だ!」
『勇者 ラミレス』…勇者パーティーのリーダーであり『聖剣イクスセイバー』に選ばれし勇者、多彩な魔法と鍛え抜かれた剣術で戦う正義感溢れる熱血漢
「勇者パーティーなんかなんぼのもんじゃ!全員突撃!」
「『フェニックスファイヤー』!!」
「あちちち!に、人間の分際でこのレベルの魔術を!?」
「フン、『大魔導士 リーネ』様をナメんじゃないわよ!」
『大魔導士 リーネ』…人類最強の魔導士、若くしてありとあらゆる魔法を極めた天才肌である
「それっ!ドンドンいくわよ!」
「ひ、怯むな!さっさといけ!」
「…邪魔」
「えっ?ぐわっ!」
背後から容赦なく首をかっ斬られる兵士
「な、なんだ!?コイツ、いつの間に!?」
「…フン」
『暗殺者 シドウ』…先祖代々『シノビ』の一族の末裔であり、暗殺術や敵を翻弄させる戦法を得意とする
「くそ、人間の分際で生意気な…一気に取り囲め!」
「そうはいきませんことよ!『ホーリーフィールド』!」
「なんだこの光!?ち、近づけねぇ!」
『聖女 ハーミア』…回復や聖属性魔法を得意とする聖職者、対 魔族のエキスパート
「よし!一気に畳み掛けるぞ!」
「おぉ!!」
「調子に乗るなぁ!」
「後ろががら空きだぜ!」
「ラミレス!危ない!」
「っ!?」
“ガキンッ!”
「何っ!?」
「サンキュー!『ルド』!」
「…当然だ、仲間を守るのは俺の役目だ」
『重戦士 ルドルフ』…パーティーの盾役、頑丈な鎧を身に纏い鍛え上げた屈強な肉体で仲間を守る役目を担う
「後ろは俺に任せろ、いけ!」
「あぁ!いくぞぉ!」
バッタバッタと魔王軍の兵隊達を倒していく勇者達
「く、つ、強い…」
「俺達じゃとても敵わない!」
勇者達のあまりの強さに戦意喪失する魔王軍、するとそこへ…
「…やれやれ情けない、貴様らそれでも誇り高き魔王軍の一員か?」
「あ、あなたは!?魔王軍四天王の一人『イフリート』様!」
大柄な赤い皮膚の色をした強者感たっぷりの男が現れた
「出たな、四天王…俺達が相手だ!」
「ぶわっはっはっは!さぁ来い人間ども!まとめて丸焼きにしてくれるわ!」
「イフリート様、お待ちを!」
すると、そこへ現れたのは漆黒の鎧に身を包んだ騎士のような出で立ちをした人物、腰には二本の剣を携えている。
「なんだ?あいつ?」
「そうだな…紹介しよう、こやつは俺様の補佐役として新たに魔王軍幹部に加わった!その名も『悪魔騎士 ムエルタ』!魔王軍きっての剣術の使い手で血も涙もない女剣士よ!」
「悪魔騎士…だと?」
「イフリート様、こいつらの始末…私めにお任せください、イフリート様が自ら手を下すまでもありません」
「そうか…まぁいいだろう!さぁ悪魔騎士 ムエルタよ!貴様の実力を存分に見せつけるといい!」
「…承知いたしました」
と、剣を抜くや否や襲い掛かってくるムエルタ
「くっ!」
ルドルフが前に出てムエルタの太刀を大剣で受け止める
「ルド!」
「くっ!」
「…ほう、中々やるではないか貴様…人間の身でありながら私の太刀筋を読み、それを受けるとは」
「ナメてもらっては困る、その程度の太刀筋など止まって見える!」
「面白い、ならばその身を持って知るがいい!」
「みんな!コイツの相手は俺に任せろ!たぁっ!」
「ルド!」
「場所を変えるぞ、ついてこい!」
「望むところ!」
ムエルタを引き付けて場所を移していくルドルフ
「クックックッ、ムエルタ相手に一騎打ちとは…あの人間、死んだな」
「ルドをナメるなよ、ルドは簡単にくたばるような男じゃない!」
「フン、どうかな…さて、待ってるのも退屈であるからな…暫し貴様らと遊んでやろう」
「来るぞ、構えろ!」
・・・・・
一方その頃ルドルフとムエルタは互いに激しくぶつかり合っていた。
“ガキンッ!ガキンッ!”
「…見上げた男だ、よもやこの私の剣を受けてまだ立っていられようとは」
「生憎だが、簡単にくたばるほどヤワな鍛え方はしてないんでね」
「フッ、そうでなくてはつまらない…貴様、名は?」
「俺の名は重戦士 ルドルフ!よく覚えておけ!」
「ああ、覚えておこう久しく見ぬ強き者よ…そして、貴様の強さに敬意を表し我が最高の剣技にて屠ってやろう…」
「いいだろう…受けてやる!来い!」
「いくぞ!『悪魔流剣技・奥義!ダークネス・ソウルスラスト』!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
ムエルタの放った渾身の奥義を真っ向から向かっていくルドルフ
次の瞬間…
“パキィン!”
ルドルフの大剣は真っ二つに折れ、ムエルタの兜にも一筋の亀裂が走った
“ピキピキ、バキッ”
兜が割れてムエルタの素顔が露わとなった。
「っ!!?」
ムエルタの素顔を目の当たりにしたルドルフはその直後衝撃のあまり硬直してしまった…
それもそのはず、ムエルタの素顔は敵でありながらも想像を絶するほどの美しさだったのだ。
そのあまりの美貌にルドルフは思わず釘付けになってしまい目が離せなくなってしまった…
“ドクン、ドクン…”
(な、なんだ?心臓の高鳴りが、どんどん早くなっていく…!体全体が火のように熱い!なんだというのだ!?このドキドキは…まさか、これは!『一目惚れ』…なのか!?)
「…フゥ、私の最強の剣技を耐えきっただけに飽き足らず私の兜を破壊するとは…天晴れな男だ重戦士 ルドルフよ…益々私は貴様のことが気に入ったぞ!今日のところはこれくらいにしておいてやる!また再び相見えることを願っているぞ…さらばだ!」
と、姿を消すムエルタ
ルドルフは只々その場に呆然と立ち尽くしていた…。
「…ムエルタさん、かぁ…」
・・・・・
【勇者パーティーの宿】
「…ハァ」
「よぉルド、お疲れ!今日は凄かったな…新しい幹部が出てくるなんて思わなかったよ」
「…あぁ」
「そうだ、お前の剣だけど明日の朝には修理終わるってさ」
「…あぁ」
「…?、おいルド?」
「…ハァ」
「…おーい!ルドー!」
「わわっ!なんだラミレスか…脅かすなよ」
「だって、こっちが話しかけてんのにお前ずっと上の空でボォーっとしてるからさ…どうしたんだよ?らしくもない」
「いや、なんでもない…」
「??」
敵の女幹部に一目惚れしてしまったことなど言えるはずもないルドルフ…
【夕食の時間】
「…ごちそうさま」
「あら?ルドもういいの?」
「うん、ちょっと食欲なくて…もう寝るね、おやすみ」
「お、おやすみ…」
「ルドルフさん、どうかされたんですの?いつもならご飯大盛り五杯は召し上がるのに…今日は大盛り二杯しか食べてませんわ…」
「よもや、どこか悪いのではなかろうか?」
「あのルドが?俺、ガキの頃からあいつとずっと一緒にいるけどまともに病気したとこなんか見たことないぜ?」
「もしかして、『恋の悩み』かもね?」
「いやいやそりゃないってリーネ!ルドが恋?天地がひっくり返ってもありえないって!」
「いや、あれは確実に恋の悩みね…アタシの女の勘がそう言ってるわ!」
「またそのような何の根拠もないようなことを…」
「ぬふふ、面白くなってきた!明日それとなくルドに聞いてみましょ!」
「おっ、いいなそれ!」
「おやめなさいな、人様の色恋に面白半分で首を突っ込むなんてはしたないですわ」
「それは拙者も同意見、他人の色恋沙汰なんぞに興味はない…」
「ノリ悪いわね、じゃあ私達だけでいくからいいわよ…」
【翌日】
「ル~ドっ!」
「ラミレス、リーネさん…ハァ、どうしたの?」
「たまには、一緒に飲まない?」
「…急に何?」
「お前、なんか悩んでるんだろ?俺らでよければ聞くぜ」
「………」
「まぁまぁ、まずはぐいっと飲みねぇ!酒が入った方が少しは話しやすいんじゃない?」
「リーネ、ほどほどにしとけって…ルドこう見えてあんま酒強くないんだから…」
「で、悩みって何よ?もしかして、好きな娘ができたとか?」
「っ!?、ち、違うよ!」
「当たり、ほらだから言ったでしょ?アタシの女の勘は当たるんだって…」
「よく言うよ、こないだだって博打で散々すったって言ってたクセに…」
「まぁアタシの話はいいから!それで?どうなのよルド?」
「…え、えっと」
ルドルフはとうとう観念して二人に話した…勿論相手が例の悪魔騎士 ムエルタということは伏せて
「…なるほどね、そういうことか」
「うん、俺…どうしたらいいか?」
「なぁ、やめた方がよくね?だって話聞く限りじゃ上手くいきそうもない相手なんだろ?」
「うん…」
「ならやめとけって…そんな高嶺の花なんかよりももっと身近にイイ女なんて星の数ほどいるだろ?」
「でも、彼女と目が合った瞬間…体中に雷に打たれたみたいな衝撃が走ったんだ!これはもう間違いなく運命なんだ!」
「運命ねぇ…ロマンティックで素敵じゃない!ならさっさと告白しちゃいなさいよ!」
「無理だよ…言ったろ?所詮彼女と俺なんかとじゃ、住む世界が違うって…」
「…ハァ、情けない!アンタそれでも男なの!?本当に好きなんだったらどんな困難が待っていようとも乗り越えてやろうっていう気概はないわけ!?」
「そういうわけじゃないけど、でも…」
「デモもストもない!!いつまでもウジウジウジウジ悩んでんじゃないわよ!住む世界が違うからって何!?その程度で諦めちゃうほどアンタの想いは薄っぺらだっていうの!?」
「う、薄っぺらなんかじゃない!」
「だったら!男みせてみなさいよ!男なら潔く当たって砕け散りなさい!」
「いや、砕け散ったらダメなんじゃ…」
「…目が覚めたよ、リーネさん!俺、彼女に想いを告げる!」
「よっしゃ!その意気よ!頑張って!」
「うん!二人ともありがとう!」
外に駆け出していくルドルフ
「…大丈夫かな?あんなに焚き付けちゃって」
「さぁ、後はルド次第でしょ?」
「そんなご無体な…」
・・・・・
【魔王城 ムエルタの控室】
「失礼します、ムエルタ様…ムエルタ様宛にお手紙が届いております」
「私に?どれ…」
『”拝啓、悪魔騎士 ムエルタ様へ…明日の夜、最初に戦った場所にて待つ、必ず一人で来ること…俺も一人で行く 重戦士 ルドルフより“』
と、手紙にはこう綴られていた。
「ほぅ、この私に『果たし状』を送り付けるとは…中々いい度胸ではないか重戦士 ルドルフよ…明日は貴様の命日になることだろうぞ…フフフ」
【翌日】
指定された場所でルドルフを待つムエルタ
(フフフ…さぁ来るならいつでも来い!この日の為に鎧も新調し念入りに剣も研いできた…全ては貴様を地獄へ送ってやる為!待っていろよ、重戦士 ルドルフ!)
待つこと数分、漸くその時は訪れた…
「待たせたな…」
「フン、随分遅かったじゃないか…勿体ぶらせおって、さぁ決着を…ん?」
そこへ現れたルドルフは、いつもの鎧姿ではなく丸腰でビシッと白いスーツに身を包み手にはいっぱいのバラの花束を抱えている。
「き、貴様その格好…一体なんの冗談だ!?」
「今日は戦いに来たわけじゃない…俺のこの熱い想いを、是非とも君に聞いてほしい!」
「な、何を言っている…?」
「聞いてくれ…悪魔騎士 ムエルタ!いや、ムエルタさん!俺は、一目君のことを見たその瞬間から俺の心は君に奪われてしまいました!どうか、俺と真剣にお付き合いをしてください!」
と、ムエルタの前に跪いて持っていた花束を差し出すルドルフ
「…はっ?」
理解不能といったような顔でポカンと口を開けるムエルタ
「ちょっと待て、貴様なんと言った?」
「…その、俺と真剣にお付き合いをしてください!」
「ハァっ!?きききき貴様!自分で何を言っているのか分かってるのか!?私は魔王軍幹部で貴様は勇者パーティーの一員!馬鹿も休み休み言え!」
「信じられないと思うが俺は本気だ!どうかこの俺の熱い想いを受け取ってください!」
「いやいやいや!おかしい!絶対におかしい!さては貴様、この私を罠にはめて油断した隙に私を亡き者にしようと企んでいるな!?そうでもなきゃそんな馬鹿げたこと言うはずもない!」
「違う!断じてそんなことは企んでない!信じてほしい!」
「黙れ!誰が人間の言葉なんぞに耳を貸すものか!この私を愚弄しおって…その口、今すぐに聞けなくしてやる!」
と、怒りに任せてルドルフを袈裟斬りに斬りつける…するとルドルフは防御する姿勢も見せずに真っ正面からムエルタの太刀を受け入れた。
「ぐふぅ…」
「!?、何故防がない!?死ぬぞ貴様!」
「…これで、信用してくれたかな?ハァ、ハァ…」
「くっ、ナメられたものだ…まぁいい、今に化けの皮を剝がしてやる!次は喉笛を容赦なく掻き斬ってやる!」
ルドルフの喉元に剣を突きつける、それでもルドルフは眉一つ動かすことはなかった。
「これで最後だ…本当のことを言え、さもなくば次で本当に殺す」
「…もう一度言う、誰が何と言おうと俺は一辺の嘘偽りなく君のことが好きだ!それでももし本当に信じられないというのであれば…どうぞ煮るなり焼くなりするといい」
と、大きく両手を広げるルドルフ
(この男は…一体何を考えてるんだ!?まさか、本当にこの私のことを…いや待てムエルタ!私は魔族でコイツは人間!私達は敵同士、こんな恋など…あっていいはずがない)
「俺は、君の全てを受け入れる!魔族だろうと、魔王軍幹部だろうと!そんな些細なこと関係ない!俺が君を好きだというこの想いは…決して揺るがないっ!!」
「っ!?」
「さぁ、君の答えを…聞かせてほしい」
「…わ、私は」
戸惑いを隠しきれていないムエルタ、剣の切っ先もプルプル震えている
「………っ」
次の瞬間、ムエルタは剣を思い切り振りかぶり力いっぱい振り下ろした
「…っ!」
だが次の瞬間、剣が首元に触れる寸前でムエルタは剣を止めてしまった。
「…くっ、うぅ」
「??」
すると突然、ムエルタはその場に剣を落として泣き崩れてしまった。
「う、うえぇぇぇぇん!!」
「ム、ムエルタさん?」
「ホ、ホントは嬉しかったんだ…男の人に面と向かって告白されたのなんて生まれて初めてだったから、すっごく嬉しかったのに~!」
「…えっ?」
「なんで私は魔族でお前は人間なんだ?そんな垣根なんかなければいいのに…」
「なら、俺達がその垣根を超える架け橋になろう!」
「…えっ?」
「恋をするのに人間も魔族も関係ない!ただそこに好きという気持ちさえあればいい!俺達がそれを証明しよう!」
「…そんなこと、ホントにできるの?」
「できる!ていうか、絶対にやってみせる!」
「…嬉しい」
「では、改めて…ムエルタさん、俺と付き合ってください!」
「…はい、喜んで」
…この物語は、禁断の恋路を歩み始めた魔王軍幹部の女と勇者パーティーの重戦士の男の恋物語なのである。
To be continued...