解脱の正体
その日も私は人の魂を喰っていた。
山頂から下界を見下ろしている。ひゅるりと吹き抜けた冬風は透き通っていた。
絶え間なく肉の体を出入りする人間。中でも特に高潔な一部の魂を私は好んで喰っていた。
私が選んで食ったそれは私の体の一部となる。私とともに恒久の時を過ごすことになる。土地と、空と一体となるのだ。
山伏が大挙してやってきたのは突然のことであった。
数十人はいただろう。一人一人が大きな力を、そして高潔な魂を持っていた。
私を前にして誰一人立ちすくむ者はない。勇敢な人間だった。
一人がぼそりとつぶやく。
「これが……解脱の正体」
また一人が首肯する。
「そうだ。……準備はいいか。では始める」
私を囲むように輪を作ると、彼らは口をそろえて耳慣れぬ経文を唱えた。
体がねじれるようだ。まもなく破裂が起こる。
とてつもない法力が私の体を壊した。
死骸から私の魂が抜け、今までに喰った人の魂が蜘蛛の子を散らすように出ていった。
それはわずか十日間ほどの出来事だった。
山伏たちが山を下りてゆく。十数人、魂の抜けた者もいる。
最も大きな力を持った山伏がうなった。
「これが……末法。大繁殖が約束された……末法の世」
日が暮れかかっていた。