終幕 それぞれの未来
東京ドームでのラストライブから数週間後。
全国ツアーの興奮も少しずつ落ち着き、仮面アイドルのメンバーはそれぞれ新しい道を歩き始めていた。
俺は、事務所で最後の仕事を終えた後、スタッフと別れの挨拶を交わしながら、改めて実感していた。
本当に終わったんだな……。
仮面アイドルは、もう存在しない。
だが、その名前はファンの記憶にずっと残り続けるだろう。
※
アカネさんは、海外に拠点を移すことを決めた。
「もともと、海外の舞台でパフォーマンスをしたかったんだよね〜」
彼女はそう言って、荷物をまとめていた。
新しい挑戦にワクワクしているのが伝わってくる。
「スミスミもカスミちゃんも、これからは個々で頑張るんでしょ? なら、私も負けてられないよね!」
「アカネさんなら、どこに行っても大丈夫そうですね」
「でしょ〜? でも、またどこかで会おうね、翠星くん!」
彼女は軽くウインクして、笑顔で去っていった。
※
ミズレさんは、裏方へ回ることを決めた。
「アイドルってのも、もう充分楽しんだしな」
彼女は新しい事務所に入り、若手アイドルの育成を手伝うらしい。
「まぁ、お前も宝条も、しばらくはバタバタするんじゃねぇの?」
「まぁな。でも、ミズレさんも忙しくなるでしょ」
「そりゃな。でも、次は裏方からトップアイドルを育ててやるよ」
彼女はそう言って、少しだけ寂しそうに笑った。
※
カスミさんは、ソロアーティストとして活動を続けることを決めた。
「……また、ステージに立ちたいから」
彼女はそう言っていた。
炎上騒動で一度傷ついた彼女だったが、それでも再び歌いたいという強い意志を持っていた。
「またライブを観に来てくれますか?」
「当たり前じゃないですか」
「……よかった」
彼女は安堵したように微笑み、俺に深く頭を下げた。
「翠星くん、本当にありがとう。私を支えてくれて」
「……いえ、俺は何もしてないですよ」
「そんなことないです。あなたがいたから、私はまた歩き出せるんです」
彼女はそう言って、まっすぐ俺を見つめた。
——仮面アイドルは終わったが、カスミさんの夢はまだ続いていく。
※
俺は、最後に宝条の元へ向かった。
彼女は、事務所の会議室で何かを書類に目を通していた。
「……やっぱり、お前は忙しそうだな」
「そりゃね。アイドルをやめたら、次にやることを考えないといけないし」
俺は椅子に腰を下ろし、少しだけため息をつく。
「お前は、どうするんだ?」
宝条は、一瞬俺を見つめたあと、微笑んだ。
「……また、ステージに立ちたい」
彼女の答えに、俺は驚かなかった。
宝条菫は、ただのアイドルではない。
彼女は、生まれながらのステージの人間だ。
「でも、今すぐに復帰するわけじゃない」
「……?」
「しばらくは、自分のことを見つめ直したいかなって」
俺はしばらく考えたあと、静かに頷いた。
「そっか」
「でも……」
宝条は、俺をじっと見つめる。
「翠星は、どうするの?」
俺は少しだけ考え、静かに答えた。
「お前と一緒にいる」
宝条の目が驚きに見開かれる。
「……え?」
「マネージャーとしてじゃなくて、お前の彼氏として、お前のこれからを支えたい」
俺は、改めて思っていた。
この女は、俺がいないとダメだ。
そして、俺も——こいつがいないとダメなんだ。
「お前が次に何をするかは、まだ分かんねぇけど」
俺は、宝条の手をそっと取る。
「俺は、お前のすぐそばで支える」
宝条は、じっと俺を見つめ——
そして、涙ぐみながら微笑んだ。
「……ありがと、翠星」
[エピローグ]
数日後。
俺と宝条は、一緒に街を歩いていた。
仮面アイドルの解散から時間が経ち、ファンの間ではまだ余韻が残っている。
「なぁ、お前、次にやること決まったのか?」
「うーん、まだ考え中」
「相変わらず優柔不断だな」
「うるさい。でも、一つだけ決めたことがある」
俺が訝しげに見ていると、宝条は少しだけ微笑んだ。
「私は、またステージに立つよ」
彼女の目は、強い意志に満ちていた。
俺は苦笑しながら、頷く。
「だろうな。……まぁ、お前がまた舞台に立つときは、俺もそばにいるよ」
「当然でしょ? だって、私の彼氏なんだから」
宝条はそう言って、俺の腕にそっと絡む。
……相変わらず、こいつは大胆だな
でも、それがこいつらしい。
仮面アイドルは終わった。
だけど、俺たちの物語はまだ続いていく。
俺は彼女の手を握り返し、前を向いた。
——これは、一つの終わり。
そして、俺たちの新しい始まりだ。
「さぁ、行こうぜ、宝条」
「うん、翠星!」
俺たちは、共に新たな未来へ歩き出した——。
何とか無事に最終回を迎えることが出来ました!
読んでくださりありがとうございました!
次回作も用意していますのでよろしくお願いします!




