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ショコラブラウンの錬金工房  作者: 池田しょこら
ショコラと世界魔法図書館
8/17

ホムンクルス製作1



ショコラは工房の中のさらに奥の扉を開いて、ブラウンが作業していた部屋へと足を踏み入れていた。

そこは、人形の足だったり手だったりパーツが置いてあり、ブラウンはいつもそこでオートマタを作っていた。

ショコラはその作業を幼い頃から見ており、そしてその隣で見様見真似で作ったのがホムンクルスだった。

ほとんどの人が何を言っているかわからないと言った感想を抱くようなありえない快挙であったが、ショコラの目には人形も人もそう変わりなく映っていた。


「うーんと、3年間で11体だから、だいたい3ヶ月に1体のペースでいっか」


ふんふんと鼻歌を歌いながら、紙に文字を書いていく。


「やっぱり、図書館だからみんな本好きだよね!お姉さん司書さんと、館長は幼女で……」


ホムンクルスの心を自由に作れる錬金術師は現在発表されている限り、誰もいない。

ブラウンがショコラの代わりに発表した際も、自我の形成は成長により獲得されるとしか記しておらず、今この世にあるホムンクルスのほとんどが自我がないかあったとしてもマァナのように希薄である。

ショコラが作るホムンクルスはショコラの采配次第で性格や癖など自由に設定出来、ほとんど人と変わらない。

今までこの事実を知っている人が少ない事もあり正式な依頼はなかったが、このノアの方舟計画が完成したらショコラの名前は一躍有名になる予定だ。

しかし、本人はそんなことは知らない。

ちなみに最初にショコラが作ったホムンクルスは、ブラウンについていったっきり行方不明になっていた。



「ふぁー。マァナー、お茶ちょうだいー」


……。

…………。


しばらく経っても返事がない。


「……マァナー?マッシオン!!?」


壁にもたれかかって、腕を組んでるシオンがいた。


「呼んだけど、返事なかったし。だいぶ前からマァナちゃんにお茶貰ってたよ」


「えっ、ごめん!あれ?今日って昼からの予定じゃなかった?」


「……時間見て」


いつのまにか13時を回っていた。


「う、うわああ!急いで支度するね!」


今日は、素材を取りにシオンとグルースと約束がある日だった。


「まぁ、グルースは冒険者ギルドにいるし少しくらい待たせてもいいよ」


「すぐ済むから!少し待ってて〜〜!!」


だいたいショコラはいつも鞄の中に必要な物を入れて持ち歩くタイプなので、身支度が済めば鞄一つで出かけられる。

5分も経たない内に、身支度が整った。


「女の子の準備の早さとは思えないね」


「も、もう!おしゃれとかよくわかんないし、これでいいの!」


プンプンと怒りながら、シオンの転移魔法を待つ。


「んじゃ、飛ぶよ」


シオンが両手を広げると、地面に魔法陣の光が見えて、そのまま視界が変わった。

冒険者ギルドは都市結界の際にあり、外に出る時は必ずギルドを通らないと外に出れないようになっている。転移魔法でも外に出れるが、ギルドに届け出がないと違法になる。


「よぉ、遅かったな。まぁ女の子の身支度には時間がかかるからな。イイ男は待つもんだ」


グルースの言葉にショコラは身支度で待たせたわけじゃないのでドキッとしながらも、えへへと苦笑いした。


「遅れてすみません。今日はよろしくお願いします!」


「よろしくな!今日はドラゴンの討伐だったか?」


「はい、新鮮なドラゴンの死体が欲しいです。鱗はいらないので、傷をつけても大丈夫です」


「了解だぜ。外出登録はしといたから、出発しようぜ」


「いつもの場所まで行ったら、長野まで飛ばすから」


シオンは転移魔法をあまり部外者には見られたくないので、いつも都市結界の入り口から離れたところで転移していた。先ほども冒険者ギルドの個室に飛んでいる。



廃墟ビルが今にも朽ち果てそうに並ぶ外の世界。

アスファルトは禿げて地面がみえている。

魔法植物の侵食がそこらかしこにみえ、小型の魔物が様子を伺っている。


「久しぶりの外だぁ。前とあんまり変わらないね」


「特に最近異変が起きたって情報はないかな」


「戦闘になっても、俺とシオンがいれば大抵の魔物は即死だしな」


「なんか、そう考えるとすごい人達と一緒なんだなぁって思います」


「ショコラも大概だと思うけど……」


「違いねぇ。俺なんかは特に腕っ節が強いだけだからなー。考えるのは苦手だぜ」


ショコラは自分に力の強さはないと思って、やっぱり2人とも凄いと思っていると、目的地についた。

そこは海岸線沿いにある廃ビルで、壁が吹き飛んでおり、開放的なオーシャンビューとなっている。


「んー。じゃ、衛星に接続するからちょっと待ってね」


シオンは、魔力が見えない遠くへ転移する時は、衛星を使って安全を確かめてから転移していた。都市結界内では魔力は常に一定で、魔力が比較的見えやすいので相手が遮断していない限り転移先の情報はある程度わかる。


ショコラは待っている間に、床のカーペットをひっぺがして、床に描かれている魔法陣を露出させた。


「ドラゴンの巣に近い崖側に飛ぶよ。特にショコラは転移後に動かない事」


「うん、崖から落ちないようにする!」


シオンが床の魔法陣の空いている箇所に数字や文字を書いて魔法陣を完成させた。

魔力を通すと、魔法陣から光が溢れて来た。

3人は魔法陣の上に乗り、シオンは最後に魔法石を床に落として砕くと、さらに強く光り転移した。



風の音がうるさく、天に延びる白塔と森に囲まれた場所に3人は転移した。

塔はドラゴンの住処になっている。

魔法歴が始まった頃、どこぞの物好きがドラゴンの群れを見て、「そうだ!この子達のために家を作ってあげよう!」と言い、この塔を建てたらしい。

その後塔に住もうとしたが、ドラゴンに食われそうになってやむなく放棄したとのこと。

都市結界と違って、外の世界では安全が保障されておらず、場所によっては放射線が高い区域や魔力濃度が濃く酔いやすい地域もある。

建築物を建てたとしても魔物や魔法植物などの被害が出るため、そうそう外に人は住まない。

そのため、外に出る時はシオンのようなガイド役がいると安全に行動できる。


「結構たくさん飛んでるなー」


「え、どこですか?」


グルースがドラゴンを見つけたみたいだが、かなり遠くて豆粒みたいな大きさだった。


「ショコラ、花火お願い」


縄張り意識の強いドラゴンは、何か異変を感じるとやってくるため、音などでおびき寄せることが多い。


「わかった。たくさん来ても1体で十分だからね?」


「大丈夫。この周辺に転移トラップを仕掛けたから、狙ったやつ以外はここに来ないよ」


ショコラは筒状の棒を持って頭上にかかげる。

棒についている紐を引っ張ると、そこから小さい花火が上がった。

わらわらと遠くからドラゴンがやってくるが、1体以外は何かに阻まれているかのようにこちらには来ていない。


「グルース、いつものやついくよ」


「おう。任せとけ」


ドラゴンが頭上で旋回を始めた。

グルースが両手剣を取り出して構え、助走をつけて崖下へ飛び降りたと思ったら、ドラゴンの上へ転移されてそのままドラゴンの頭を思いっきり剣の腹で叩いていた。

気絶したドラゴンとグルースが落下を始めたが、シオンが転移魔法で回収して元の位置へ戻ってきた。


「は、早かったですね……」


本当に瞬殺だったので、ショコラは自分用の結界を張るのを忘れていたぐらいだ。


「ま、こんなもんよ。気絶してるだけだから、早いとこ絞めちまおうぜ」


「窒息でいいかな。ひとまず真空の異空間に送るから、帰ったら渡すよ」


シオンは、ドラゴンの鱗に魔法陣を描いて異空間に送った。

転移魔法は魔力消費が激しく、魔法陣を描くことによって半減している。


「うん、ありがとう!完璧な状態だね!」


思ってたよりも良い状態でドラゴンが手に入ったので、ショコラはほくほくとした顔をしながら帰途についた。



「ショコラちゃんまたな!出来上がり楽しみにしてるぜ!」


「グルースさんありがとう!シオンもありがとうね」


グルースとは別れて、シオンと自宅の庭に来ていた。

倒したドラゴンをシオンに出してもらい、ショコラは解体を始めた。

血抜きと皮剥ぎはシオンの魔法でしてもらっていたので、スムーズに作業は進んだ。

さすがに細かい解体までシオンに頼むのは申し訳ないので、ショコラは断っていた。


「シオンも今日は帰っても大丈夫だよ?ちゃんと解体の仕方は師匠から習ってるし、解体が終わったらそのまま錬成に入るつもりだし……」


「んー、わかった。夜更かしはしないように……って言っても今日は徹夜コースだろうね」


「ぐぐ……否定は出来ないけど、楽しいからいいの!」


「はいはい。んじゃ、またね」


「うん、ありがとね!」


そう言ってシオンは転移で消えてしまった。

ショコラはドラゴンの肉を運びやすい大きさに切っていく。

マァナがそこから家の中のアトリエへ運んでいった。

昔ホムンクルスを作った時は、自分の血肉を使おうと包丁を取り出したところでブラウンからお叱りが入り、必要な物は取ってきてやると言ってくれた。その時使った素材はドラゴンではなくボアやワイバーンの血肉で、作成には長時間を要した。今回は反省を生かして、新鮮なドラゴンで挑戦している。


「ふぅ。ツノは収納鞄へ入れて、あとは全部使って……マァナ、他の材料は準備できてる?」


「ん、釜の前」


「ありがと。それじゃ、始めよっか!」


錬金釜の中に、魔石を入れて混ぜていく。

溶け出したところにドラゴンの肉、骨、眼球、内臓全て入れて混ぜて溶かし出す。

2時間混ぜたところで中和剤とあらかじめ採取していた自分の血を入れてさらに混ぜる。


「世界樹の葉っぱパラパラ〜。うーん、精気は十分だから、あとは魔力の調整だね!」


箱に入った魔法植物の種を物色する。

ガサゴソと漁って、ちょうどいい大きさの種を見つけた。


「これこれ〜!」


片手で種を潰して入れ、混ぜることを繰り返していく。


翌朝、目の下に隈を作りながらも完成した。


「出来たぁ……!マァナぁ後はよろしく……」


そのままショコラはソファで寝てしまった。

釜の中にあるのは命の源。別名、生命のスープである。

この液体を用いてホムンクルスを作るので、マァナは慎重に釜から回収して瓶詰めにしてから時間凍結の保管庫にしまった。


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