日本魔法師団
テンションが上がったまま家に帰ってきてから、買ってきた材料を整頓したり、調合をしてしまったため結局夜更かしをしてしまった。
ショコラは何度目かの目覚ましの音で飛び起きた。
「あ、やば!今日は打ち合わせの日だ!」
階段を駆け下りて、1階のキッチンに急ぐ。
「ますたー、ちこく?」
「おはよう、マァナ。あと30分だからまだ間に合うよ!」
寝起きでボサボサの髪をとかしながら、ブロックビスケットを頬張る。
「ますたー、お茶いれてー」
「自分でいれて!今忙しいから!」
「ますたー、キャンディーはー?」
「えっと、あれ?前作ったやつはカゴの中にない?」
ショコラは書類を鞄の中に入れていたが、キャンディを探し始めてしまった。
「ますたー、ちこくー」
「え!?ちょっとマァナ、早く言ってよ!」
シオンからの連絡がいつもの本に届いていた。
"今日何があるか覚えてる?"
"ショコラ、遅刻したらお仕置き何がいい?"
"はぁ。今から転移門だと間に合わないから魔法陣使いなよ。罠とか仕掛けてないから、大丈夫だよ"
「うわ!いっぱいメッセージ来てる!」
急いで鞄の準備をして、棚にしまってある魔法陣を引っ張り出して床に置く。
淡く光っているので乗れば着く。
「マァナ、行ってくるね!罠ってなんだろ?あ!」
転移中に、前回頭をぶつけたことを思い出して慌ててしゃがむ。
♢
「ぶっ。あはははっ!何やってんのショコラ」
シオンと、周りのメンバー達が大笑いしている。
「え?あ、あぅ……。時間間に合いませんでしたか……?」
「ショコラ。間に合ってるから安心して。だから罠はないって言ってるのに、こういう時だけしゃがむんだから……」
しゃがんで両手を前に出してるポーズをしていることに気付いて、顔が真っ赤になる。
「シ、シオン!今日は急いでたから助かったけど、だからってもっと廊下とか人のいないところで魔法陣広げてよぉ!」
魔法師団のメンバーが続々と集まっている中、会議机の中央に魔法陣が敷かれている。
ショコラがどくと、シオンの魔法で魔法陣が消えた。
「君がショコラちゃんかぁー!シオンから話は聞いてるぜ?いやー、かわいいねぇ。これはシオンが熱を上げるわけだ」
「おい、グルース。余計な事を言うと時空の狭間に落としてやるからな」
「え、それ本気ィ?この距離だと俺の方が勝てると思うけど?ちょ、目こわ!冗談だっての」
グルースと呼ばれた男がチャラチャラしながら自己紹介する。
「改めて、ショコラちゃん。俺はグルース!一応Sランク冒険者で、シオンとは長い付き合いになるかなー。俺と恋してみる?」
グルースは片目を閉じてウィンクしている。
「え?あ、グルースさんよろしくお願いします。恋はよくわからないので遠慮します」
「ぶっ。振られてやんのー。俺は魔法建築士のキング。こっちのグルースよりイイ男だぜ?」
少し小太りの男の人だった。
「お前は違法建築士の間違いだろ。悔い改めろ」
グルースとキングがやいやい言い合っている。
「あはは、楽しい人達ですね」
「ショコラ、こいつらはバカだから。関わるとロクなことにならない」
「はぁ?シオン、お前だって色々やってるだろー?何かっこつけてんだよ!」
三つ巴で睨み合っているなか、パンパンと手を叩く音が聞こえた。
「はいはい、もう時間だから始めるわよ?」
2本の角が頭から生えたスーツの女の人が着席を促す。
ショコラはどこに座ろうか右往左往していると、シオンが隣の席を指差してくれた。
「遅刻がいるわね。はぁ、今日は顔合わせだって言うのに」
「ライネちゃーん!今日もカッコイイねぇ!今度デートしてよー!」
グルースがライネを口説く。
「チッ煩いわね。足を机の上に上げないで。何回注意したら直るのよ」
ライネがイライラしながら指摘するも、直す気はないようだ。
「コイツは何言っても無駄だぜ?頭がおかしいんだ」
「はぁ?お前は太り過ぎだ。もっと運動しろ」
またキングとグルースが言い合いを始めたので、ライネが注意しようとすると、扉から顔色の悪い男の人が入ってきた。
「やあやあ。みんな元気だね。今回は顔合わせと説明があるからちゃんと話を聞くんだよ」
そう言うと一番奥の席に着席した。
「柳さん、遅いです。今日はケイスが欠席。マリリンが遅刻ですが、新しい子は2人いるのでは?」
ちらっとライネがショコラを見る。
「ライネ君すまないね。もう1人の子も遅刻だよ。彼女は政府関係の子で、予定が詰まってるんだ。今日も無理を言って来てもらう手筈になってる」
「そう言うことならわかりました。では、私から自己紹介させていただきます。調整役のライネです。魔法師団では、資料作成、メンバー調整、交渉を主にしています。種族は見ての通りドラゴンです」
ライネは眼鏡をくいっとかけ直すと、柳へ視線を向けた。
「あぁ、私は柳ベルフォルト。種族変換魔術で有名になってしまったばっかりに魔法師団団長やら魔術学校の校長をしている。ちなみに吸血鬼はもうそろそろ飽きてきたから次は何の種族になろうかな?良い案があるかな?」
柳が優しく微笑みながら聞くと、グルースが手を挙げた。
「はいはーい!次は俺ことグルースでーす。オススメの種族はサキュバスで、団長には性別変換をしてほしいかなー。あ、俺は基本的に材料採取担当だから、なんか欲しいもんがあったら俺までよろしくー」
「ふむ。その方向性は試していなかったな」
柳は頷いて、真剣に検討しているようだ。
「柳さん!やめてください」
ライネが焦って反対する。
グルースはライネに向かってVサインを作って煽ると、ライネが中指を立てて返した。
「次は俺か。俺はキング。月事件でお馴染みの魔法建築士とは俺のことだ。今回も俺の芸術的な建築物に期待してくれ」
ぺいぺいとシオンに手を振って次を促す。
「僕は情報屋シオン。魔法師団では諜報担当兼異空間担当だよ。この計画ではマリリンと協力して空間作成をする感じかな。何か不具合が出たときには呼んでね」
ショコラが次は自分かな?とおずおずと手をあげる。
「あ、私はショコラです。みなさん始めまして。えと、ブラウンの弟子で、主にホムンクルス製作が得意です!よろしくお願いします!」
ライネが情報を補足する。
「今回はブラウン氏が不在なので、弟子のショコラさんに来てもらいました。経歴としては、10歳の時点でホムンクルス製作に成功しています」
「ちょっと待て。お前、今何歳だ?」
ずっと本を読んでいて会話に参加しなかった黒服の男がショコラに話しかける。
「えっ、あ、15歳です……」
突然睨まれたので、ショコラは驚きつつも答えた。
「ふん。と言うことは、ちょうどホムンクルスの製造方法が流出した時期と同じか。オートマタ技師だったブラウンが急にホムンクルス製造とは、おかしなものだと思っていたがお前か?」
「……えと、詳しいことは師匠との約束で秘密なんです……ごめんなさい」
「おっさん、ショコラちゃん困ってるだろー。あんまり聞いてやんなよ」
グルースが男を咎めると、男は目を細めてグルースを見た。
「貴様には聞いていない」
「あ!あの、あなたも錬金術師なんですか?わ、私、錬金術師の知り合いが少ないので、またぜひお話が聞きたいです」
「あぁ。私は雑貨屋ランセルと言う。小物、装飾何でも作る」
「ファンシーランセルとはよく言ったもので、こいつの作るぬいぐるみは女の子に人気で俺も……」
「黙れ。もう作らんぞ」
グルースがどこからかぬいぐるみを抱えてショコラに見せていたが、ランセルが一蹴した。
黒服に黒髪。髭を生やした見た目こわもて40代のランセルにショコラは少し怯えていたが、グルースの話を聞いて安心していた。
「ランセルさんには今回、内装、装飾、館内施設を担当していただく予定です」
ライネが補足している間に、いつのまにか1人見知らぬ女の子が増えていた。
その女の子は頭の上にある天使の輪をクルクルと回しながら、机に上半身をビターンと突っ伏していた。
「ごめーーん。寝坊したー」
「はぁ。マリリン、せめて着替えてきては?どうせ遅刻するなら着替えてきてからでも変わらないでしょうに」
ライネが呆れたようにため息をつく。
「えー?起きてすぐに来たのにぃー」
本当に起きてすぐに転移魔法で移動してきたようだった。
そして、またいつのまにかパジャマを隠すようにコートを羽織っていた。
「まぁ、いいでしょう。今自己紹介中ですし、マリリンで最後ですよ」
「はぁーい、私マリリンー。あれ?シオンいるじゃん〜。今日私いる?」
「シオンは他にも仕事がありますから、今回はマリリンが空間の責任者になりますよ」
マリリンはうぇ〜めんど〜と言いつつ、どこからか朝食を出して食べていた。
「では、あらかた揃いましたので概要についてお話しさせていただきます」