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ショコラブラウンの錬金工房  作者: 池田しょこら
ショコラと世界魔法図書館
4/17

観測者



魔法学校に入学して数日が過ぎた。

ショコラが魔法学校に入学した理由は、3つある。

一つは、学校内の施設と錬金術の素材を使用できること。

もう一つはブラウンとの約束。

そしてなにより、学生生活を楽しみたかったからだ。

5歳でブラウンに拾われてから、10年間ブラウンの錬金工房で仕事を手伝っていたため、同世代の友達がいなかった。

学校に来たら友達が自然にできると思い込んでいたショコラは今、不貞腐れていた。


小人族、ドラゴン族、吸血鬼、エルフに猫耳族。もっといるが、クラスには多種多様な種族がいる。

その中でショコラは人間であって、仕事の事は秘密である。

そのため、ショコラから仕事を引くと明るい話題の一つも持ち合わせていない錬金術オタクの地味な女の子になってしまうのであった。

同じ専攻の女の子達はすでにグループが出来ており、様子を見ていると皆顔馴染みのようだった。ショコラは知らないが、業界で横の繋がりと一族経営が一番多いのが錬金術師なのだ。


「いいですか?魔法の始まりは魔法植物の伝播によるとの説が一番有力で、その魔法植物がどこから来たのかが一番の謎であり、現在研究されているのですよ!」


講義を聞きながら、ノートに目標を書いていく。

(友達をまずは1人作る!!)


「時間遡行の魔法が出来上がりつつありますので、一般人でも魔法行使が可能なら歴史学もまた発展していくことでしょう。」


(できれば小人族の女の子!)

(まずは錬金術で美味しい飴を作っておびき寄せ…)


「……さん!立木さん!」


「ふ、ふぇ!!?」


「この魔法学校支給のノートは、教員が閲覧可能な魔法が込められています。授業と関係ない事柄は記入しないように」


「ふ、ふぁい!!」


完全に油断していたショコラは、顔を真っ赤にしながらコクコクと頷いていた。



夕方になり、西日で綺麗に彩られた校舎と反対にショコラはうなだれていた。


「はぁ……。楽しい学校生活のはずが……。ついていけないよぉ」


常識や魔法の知識は乏しく、錬金術しかしてこなかったため、普通の講義ですら難解に感じていた。

だからこそブラウンは学校に入れたかったのだが、ショコラはそのことを知らない。

とぼとぼと廊下を歩いていると、教室から光が溢れて見えた。


「ん?なんだろ?」


近づいて、扉の隙間から中を覗いてみると、

艶のある長い黒髪の少女が机の上に座っていた。くるくると少女の周りをタロットカードが取り囲み、淡く光っている。

なんて幻想的なんだろうとショコラが思っていると、凛とした声が聞こえた。


「そこにいるのはわかっているよ?でてきてくれないかな」


ショコラは、後ろを振り返って左右を確認する。誰もいないということは、ここにはショコラしかいないと言うことだ。


「え、えと、あの、その……の、のぞいてませんよ!!」


黒髪の少女はタロットカードを口元に当ててクスクス笑った。


「君がここにくることは、ボクの占いで知ってるんだ」


「う、占い?」


「うん。占星術専攻1年の麻生夢だよ。よろしくね、葵さん」


くるくると夢の周りを取り囲んでいたカード達が順番に腰のポーチに納められていく。


「私、名前……」


「君とは長い縁になるからね。名前も、これからのこともよく知ってるよ」


机から降り、ショコラの方へ歩いてくる。

全ての所作が綺麗で、美しくて、ショコラは見惚れてしまっている。


「じゃあ、早速。一緒に放課後を楽もう」


「ふぇっ!?」


夢はショコラの手を取って、歩き出した。


「あ、あの、占いって未来のことがわかるんですか?」


「どうだろうね?未来はいつも不確かで可能性を秘めてるから」


夢の悲しげな表情が見えた気がしたが、すぐに笑顔になった。


「そんなことより、どこかに遊びに行こうよ」


「いいの!?嬉しい!」


金曜日の夕方。

出かけるには最高の時間帯だ。

しかし、ショコラは女子高生が出かけるような場所を知らなかった。


「あ、ごめん……。遊びに行くようなところを知らなくて……」


「君の行きたいところは?買い物とか、異世界とか、連れて行ってあげるよ」


「ほんとに!?異世界はいい思い出がないから、買い物がいいなぁ。魔石のお店に行きたい!」


「もっと服とかアクセサリーとかでもいいんだよ?最近のは付与魔法もあって高性能だし」


「いいの。お店で買うと高いし、服以外は自分で作ったほうが……や、なんでもない!」


ショコラは仕事の話をしちゃいけないと思い、途中で有耶無耶にしたが、そもそも錬金術専攻の一般生徒でも魔宝石やアクセサリーは自作可能だ。そんなショコラを見てか、夢は少し笑った。


「ふふ。そうだなぁ、このあたりのオススメの魔術具屋は第5転移門から行ったほうが早いかな」


廊下を抜けて、転移広場に出る。

床にはどの町へ繋がっているかが記載されている。


「こっちだよ。おいで」


転移門の向こう側が透けて見えている。

門の向こう側が見えることで衝突事故は起こりにくくなっている。


「わぁ!ここがアキバ?初めてくる!」


「そうだよ。お店は高層階にあるから、少し飛ぶよ」


夢が箒を出してくれて、後ろに乗せてくれた。

路地を抜け巨大な魔法植物のつるが道を横断しているエリアに出た。


「空から見る街並みってこんなに綺麗なんだ……」


「葵さんも飛行術を覚えればいいさ。学校に飛行同好会があるし、たしか講義もあったはずだよ」


「うんっ、今まで機会がなくって出来なかったけど、やってみようかなぁ」


高層ビルの窓には、箒で降りれるように板が敷かれていたり、そもそも入り口自体が地上になく窓が改造されて扉になったりしている。


「あった。あそこだよ」


廃れたビルの屋上に大きな魔石と扉が置いてあった。ガラクの魔術具屋と扉には書かれていて、扉のみで建物はない。


「わぁ、でっかい魔石!ここまで大きいと、加工できないなぁ」


「そうだね。巨大な建築物に使うとしてもそのエネルギーを分散させる作業は1人では難しい」


ショコラは技術的な話が夢に通じて嬉しく、うんうんと頷きながら、ドアノブに手をかけた。


「夢ちゃん!!開かないよ!」


ガチャガチャと押したり引いたりしている。


「ふふ。ここは横だよ。スライドさせてみるといい」


「おぉ〜!まさかの横だった!」


扉の中は廊下になっていて、すぐお店があるわけではなかった。

入って後ろを振り返ると、襖になっていた。


「お、おじゃまします?」


「和風建築の家屋だね。ふうん。魔法回線の情報と同じだね。これは期待できそうだ」


「魔法回線?」


「魔法ネットの掲示板だよ。君のお友達が詳しいと思うよ」


「ともだち?私に友達って……シオン?あ、な、なんでもないよ!」


ショコラがあわあわしていると、店主から声がかかった。


「廊下で騒いでるんじゃないよ」


しわがれた声のしわくちゃのおばあちゃんだった。


「あ、ごめんなさい。魔石を見に来ました!」


「冷やかしなら帰ってもらうところだったよ。こっちへ来な」


後ろをついていくと、階段が地下まで続いていた。

木の床なので音がよく鳴る。

下に着くと、心地いい木漏れ日と芝生。

そして小さな湖があった。


上を見上げると木造の家屋の廊下が見えた。


「あ!こっちからだとさっきの廊下が見える!」


「だから店主が気づいたんだね」


「まぁ珍しくもない仕掛けさね。商品はここだよ」


店主が杖で床を叩くと、棚がせり上がってきた。

色とりどりの魔石と、モンスターの骨、皮、金属、そして、魔法植物の乾燥品があった。


「わぁ!どれも高品質のレアものばっかりー!」


「ふん。そこいらの店と一緒にするんじゃないよ。ここはSランカーどもが手に入れてきた品がメインだからね」


「うっそ。夢ちゃん連れてきてくれてありがとう!おばあさん、この魔石とあとこれとこれと……」


一つ一つ宙に浮かせてピックアップしていく。

ちなみに、小物を宙に浮かせる事は魔力操作で子供でもできる技だ。

大きい物を浮かせるのは訓練が必要なので、空を箒で飛ぶのにもセンスがいる。


「君が喜んでくれて嬉しいよ」


夢は湖のほとりの切り株に腰をかけて本を読み始めた。

小一時間経った時、ショコラが店主に勘定をお願いした。


「お前さん、支払いはできるのかね?」


「え?そんなに高いの?うんと、お金はたくさんあるけど……」


「ほう?その歳で稼ぐねぇ。手に職があるんだね」


「は、はい!師匠にはまだまだだって言われますけど……」


「この時代で生きる気力があって、ちゃーんと働いている子は立派だよ。うちの子供達ときたら異世界に入り浸って戻ってきやしない」


「そ、そうなんですねー……」


ショコラはどう反応していいかわからず、苦笑いしかできていない。


「えと、支払いは電子マネーか、魔宝石かどっちがいいですか?」


収納鞄から、魔宝石袋を取り出す。

普段はネットスーパーで買い物をしたり、依頼時に材料をもらう事が多く、外で買い物をしたことが少なかった。


「あぁ、魔宝石が良いね。勘定するからちょっと待ってな」


そう言って、店主は秤を持ち出して魔力量を測っていった。

しばらくして、ショコラに声がかかった。


「待たせたね。新しいのが入荷したら知らせるから、またおいで。可愛い子は大歓迎さ」


「えへへ。よろしくおねがいします」


ショコラはお辞儀して、人差し指を店主の手のひらに当てて魔力を交差させて連絡先を交換した。


「夢ちゃんお待たせー。帰ろっか!」


「あぁ、終わったんだね。じゃあ近くまで送っていってあげるよ」


帰りは夢の箒で近くの転移門まで送ってもらうことになった。

夜の飛行は、ランタンを箒に付けて飛ぶのが法律となっている。

ランタンに魔宝石を入れると、明かりがついた。

夢は床を蹴って空に飛び出した。


「月と夜景がきれい!!」


「そうだろう?飛びながら見る月は風情があって好きだよ。まぁあれは人工物だけどね」


「一時期たくさん月が見えたのはびっくりしたよねー。やっぱりこの月が最初に出来たから残ったのかなぁ?」


「そうだね、他の月は特許侵害で全部異次元に送られて処分されたみたいだから」


大きな月がキラキラと街を照らしていた。

日本魔法師団が作り出した月は、表は普通の月だが内部と裏はテーマパークになっており、定期的に地上にアクセスして人を乗せて動いている。


「今日は帰ったら早めに寝た方がいいよ」


「え、どうして?」


「占いにそうでているから」


「わかった、荷物の整理をしたらすぐ寝るね!」


近くの転移門まで送ってもらったショコラは、また学校で会う約束を夢と交わして別れた。

ショコラの住む小結界は千葉にあり、ブラウンが残したアトリエもそこにある。

店としての扉は東京郊外に繋がっているが、そこから制服を着て学校に通うと店主だとバレてしまうため、いつも学校に行く時は小結界に繋がる裏口から出て、都心行きの転移門を利用していた。


農道を歩きながら、空を見上げる。


(初めての友達ができて嬉しいなぁ)


軽くスキップをしながら、マァナが待つ家に急いだ。


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