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ショコラブラウンの錬金工房  作者: 池田しょこら
ショコラと世界魔法図書館
2/17

魔道書



シオンとショコラは、都立図書館へと足を運んでいた。


「大きい図書館だねー」


石造りで出来た壁は、荘厳な内装と相まって幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「本は嵩張るからね。電子書籍で大抵の人は事済むんだけど、ここは日本の都市結界唯一の図書館だから、マイナーな書籍も揃ってるよ。何より魔道書の品揃えが素晴らしいんだよね」


スタスタと歩くシオンは、奥へと迷いなく進んでいく。


「魔道書……いつもシオンとの連絡で使ってる本のこと?」


「いやいや、あれは魔道具だよ。魔道書は、ここ」


シオンが指差している場所には転移陣が敷かれている。

ショコラ達は転移陣の中へと入っていった。


「う、うわぁ……!」


転移の光が収まると、そこには様々な大きさの本が置いてあった。最大でビル20階建ほどの大きさがある。

ちらほら、魔道書に向かって何かをしている人の姿が見える。


「すごいでしょ?ここは異空間なんだけど、そうでもしないと入りきらないんだよね」


ショコラが本に触れようとすると、「危ない本もあるから、あんまり触らない方がいいと思うよ」と、物騒なことをシオンが言い出したので眺めるだけにする。

シオンは近くにあった椅子に腰かけて、自身の空間収納から資料を取り出す。


「ショコラ、こっち」


シオンに呼ばれて丸いテーブルに向かい合って座る。


「ショコラは、魔道師団ってどんな事してるか知ってる?」


「うーん……あれだよね、有名なやつだと月を作るってやつだよね?」


「まぁ、そうだね。あれは……世界各地で模倣されて大変な事になったなぁ……。それもそうなんだけど、例えばアメリカ政府の魔道師団だと都市結界丸ごと時間封鎖したり、企業と連携した世界倉庫とWFB(世界食料貯蔵庫)を元にした世界フードデリバリーサービスとかもある。僕たちの日本魔道師団は、都市結界の結界とか種族変換とかが有名なんだけど、公には魔道師団と言うよりは、政府が発表するから僕たちの存在ってあんまり知られてないんだよね。月の事件はメンバーの独断でやったやつだから悪名の方が知られてるし……」


いくつかの資料を見せながら、シオンは説明してくれた。


「なるほど……それで次にするのが図書館ってこと?」


「っそ。ノアの方舟計画。図書館はその中の1つだよ。世界魔法図書館。世界中の全ての本が収蔵される施設だよ」


「世界中の?ほわぁ……すごいね……」


ショコラは規模がでかすぎて話について行けてなさそうだった。


「この魔道書も勿論収蔵されるよ。で、管理をするのはホムンクルス。魔道書は特殊だから、ショコラにもどんなものか教えておこうと思ってね」


シオンは本棚から1冊取り出してショコラに見せる。


「例えばこれ。中身は変な記号とかがいっぱい書いてあってとても読めたものじゃないけど、触って魔力を通してみてよ」


「うん、ちょっと待ってね。」


ショコラは仕事柄いつも手袋をしている為、それを外して言われた通り本に手をかざして魔力を通す。

すると、一瞬でどこかに転移したようだった。



「え?草原?何ここ……」


見渡す限りの草原で、風が心地よかった。きょろきょろと辺りを見渡していると、シオンがやってきた。


「これは、草原の書。亜空間と言うよりは、どこの世界にも属してない意識の中のようなところだよ。今の僕たちの体はちゃんと図書館にあるから安心して。まぁ物によっては体も引き摺り込まれるけどね。さて、帰り方だけど……」


シオンが右手を前に出すと、白色の魔法陣が空間に現れた。

魔法陣に数字が自動で書き込まれていく。

それを見たショコラは、仕事鞄から手乗りサイズの魔道具を取り出してスイッチを入れた。

すると、1人サイズの結界がショコラを包む。


「な、何が始まるの……?」


「きたきた!」


楽しそうなシオンの声につられて前を見ると、大きな狼がこちらに牙を見せて走ってきていた。

あと10メートルといった距離で、狼の体のあちこちに穴が空く。

そして狼から少し離れたところで狼の手や頭などが落ちてきた。

ショコラはシオンと素材狩りに行くことがあったから知っていたが、これがシオンの狩りのスタイルで、空間魔法で一部の空間を別の空間と繋げて通ってきた魔物をバラバラにするという恐怖でしかない魔法だった。


「と、言った感じで戻ってこれるよ」


「ふぁ!?」


ショコラは古びた本の匂いと硬い椅子の感触で、本の世界から戻ってきたのだと認識した。


「本それぞれに戻ってくる条件があってね。今回の本は目の前に現れた敵を倒すこと。いわゆるバトル系ってやつだね」


「なんか精神的に疲れたよぉ……。でも、戦えない人がこの本に入っちゃったら大変だよね?それに、時間がかかってもお腹空いちゃいそう」


「あはは、戦えないなら死んじゃうだけだけど、死んだら戻ってこれる。しかも外の時間は経っていない。つまり、本の中にいた時間は現実には影響しない。まぁ精神的に疲れるけどね」


「そうなんだぁ〜。むむ!つまり……ホムンクルス達の楽園を作れば……!!」


「ショコラならそう言うと思った。出来なくもないけど、作るのが大変なんだよね。そのうち授業で習うから今のうちに慣れておいた方がいいんじゃない?」


そう言ってシオンは本をショコラに渡した。中身は数字や記号で構成されていて、ショコラにはさっぱりわからなかった。


「うーん……。ホムンクルス作る方が楽そう……」


「一般人にはホムンクルス作る方が難しいんだけど……」


そう呟くシオンであった。



帰りはシオンに転移陣で送ってもらった。

久しぶりに東京都心をブラブラできたのでショコラは上機嫌だった。

カウンターに仕事鞄を置いてからマァナに抱きつく。


「マァナ、ただいま!」


「おかえりなさい、ますたー」


マァナは師匠がいなくなる前に師匠が作ったホムンクルスで、「お前、そそっかしいから大好きな幼女に助けてもらえ。ププッ幼女に助けられるとか笑える」とか言いながら誕生日にプレゼントされた。

少しむかついたが、おさげの女の子で可愛かったからメンテナンスと称してあちこちお触りしたりした。

その時のマァナは、師匠に教えられてかなり悪態をついていたのだが今は丸くなったとも言える。


「さっそく収納鞄仕上げちゃおうか。マァナ、準備お願い」


「いえっさー」


そう言うと、マァナは材料庫へ走って行った。

カウンターの奥は作業スペースになっていて、突き当たりに大型の錬金釜が設置してある。

通常の収納鞄はいくつか作り置きがあり、今回はそれにシオンからもらった異空間陣を馴染ませれば完成だ。


「よーし、まずは水を入れてー」


錬金釜の上部に備え付けの蛇口を捻り、釜に水を満たす。ちょうどマァナが材料を持って戻ってきた。


「ますたー、とってきたー」


「マァナありがと!魔石ぽちゃぽちゃ〜」


ふんふん歌いながら愛用のかき混ぜ棒でゆっくりと釜をかき混ぜて、魔石を溶かしていく。

硬かった魔石が氷のように解けて、青く色付いてきた。


「ここでシオンの魔法陣!」


陣の書かれた羊皮紙を釜に投入。

サッと溶けて陣が水に広がる。

水の中で立体的な魔法陣が展開されて、明滅している。

先程とは打って変わって真剣な表情になったショコラはゆっくりと収納鞄を釜に入れた。

しゅるしゅると魔法陣が収納鞄に絡みつき、消えていった。


「ふぅ……」


錬金釜の排水コックを開けて水を排出する。この水は錬金廃水であり、地下の処理施設に貯めている。

クルクルと回転ハンドルを回して釜を傾けて、鞄を取り出す。

錬金術で使用した水に入っていた物は、速乾性で濡れないため乾かす必要はない。

焼印で銘を入れて、使用注意事項を書いた手紙を添える。


「さて、思ったより早くできたしマァナ、この転移番号に送ってきてねー」


「りょうかい、ますたー」


いつもならシオンが捕まらないために出荷に時間がかかるのだが、今日は運が良かった。


「んー、ご飯食べてからお店用のポーション作り足して学校の準備しなきゃ……」


来週からは学校が始まる。

お店はマァナに任せるとして、新しい仕事も始まるため、かなり忙しくなりそうだった。


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