ういさんの物語 5話 フリーマーケット
魔王討伐は散々な結果になった。本陣を急襲され、召喚祭り実行委員、そして、
後方支援を担当したういさん達のギルドは致命的な被害を被った。
-----------------------------------------------------------------------------
魔王討伐隊のメンバーは、街の教会へ集い、今後の対策について協議を行った。
教会専属ギルドのギルドマスターが壇上に上がり会議は進められた。
「会議の進行は、召喚祭り実行委員が壊滅したため、私、司教セリカが代わりに担当する。
当時の状況を簡単に説明しよう。」
そう言うと、ワープポータルを使用して魔物が本陣を急襲した経緯を説明した。
「背後から本陣を襲った魔王は、その後、左翼の後方を襲った。
その際、右翼側は、逆に敵陣奥深くに攻め込み、魔王軍を徹底的に排除していった。」
半裸でサラシを巻いている女性が立ち上がり発言した。
彼女は右翼を担当したギルド「裸族」のギルドマスターだ。
「我々「裸族」は、敵陣深くに切り込み、1500体を討伐、多大な戦果を挙げた。
そこで得られた可愛い魔物は、鎖で繋いで捕獲してある。各ギルドへ1匹ずつ、
友好の証として差し上げよう。その他は食材として利用できるように、すでに肉にしてある。」
「良くやってくれた。」
ギルド「裸族」:最狂、変態の名を欲しいままにする国内最大勢力のギルド。
その特徴は、裸に武器、または被り物をするというスタイル。
脱がされる前に、脱いでおく。が口癖。
だが、今回の召喚祭りで、大規模な混乱を招いたのは、このギルドのメンバーであった。
参加者の一部から抗議があがった。
「おまえのとこのメンバーが、そもそもの原因だろう。」
「奴は、我がギルドの理念に沿って動いたまで。立派に祭りを盛り上げてくれた。
後の混乱、楽しめただろう?」
「確かにな。」「楽しめた。」「今までで、一番エキサイティングだった。」
この場に居るのは、ギルドの中でも精鋭、いわゆる戦闘狂が揃っている。
まともな意見は出なかった。
司教は続けて状況について説明した。
「魔物の群れについては、アサシンギルドが監視を継続している。今のところ目立った動きはない。」
「それについてだが、我ら裸族が討伐を担当しよう。今回は指示に従い、撤退はしたものの、
我らの戦力だけで、十分殲滅は可能と見た。
古代の魔王は、手ごわいかもしれないが、それ以外は烏合の衆だ。任せてもらおう。」
左翼を担当した、もう一つの国内最大勢力のギルドも同意した事で、ほぼ決した。
「魔王討伐は、我ら裸族のギルドが受け持つ。各ギルドの被害状況は、わかっている。
回復に努められよ。また、共に戦う日を楽しみにしている。」
そう言うと、裸族ギルドの猛者達は立ち去って行った。
ういさんは思った。「かっこええ!」
後日、教会専属ギルドに招集がかかった。
皆を前に、ギルドマスターのセリカが語った。教会の正装である白の聖装衣というものを着用していた。
「先日の戦いで、我がギルドも多大な損害を被った。立て直しが急務である。
そこで、司祭長のお力を借り、盛大に祭りを開催する。
祭りで得た資金を元手に、ギルドを強化したいと思っている。」
「何の祭りをやりますか。」
「まずは、使わなくなった装備品などを売るフリーマーケットだ。」
「やった!」「良い装備が格安で手に入るから、うれしい。」
賛成の声が響き渡った。
「主催は、司祭長であるブルーキャット様が、執り行われる。
本日は、この場へ、ブルーキャット様にお越しいただいた。どうぞ、こちらへ。」
猫?を頭に載せた青の聖装衣を纏った女性が現れた。優しそうな美人である。
この教会の司祭長 通称青猫様である。
「皆、よくぞ集まってくれた。教会の総力を挙げ、国内最大の祭り、フリーマーケットを、
盛り上げて行こうぞ。私も全ギルドに声をかけてくる。壮大な祭りとなるよう協力を頼む。」
「おおー!」「ブルーキャット様~。」「儲けたるでー!」
ういさんは、金儲けを誓った。
・・・2週間後、首都の南門を出た広場を貸し切って、大規模フリーマーケットが開催された。
出店数500店以上 来場者数1万人を超えた。
ギルドでは警備を受け持ち、交代制で、自由時間枠を設けてくれた。
ういさんは前半に自由枠をもらい、忙しく各店舗を往来していた。
オークションも開催されており、司祭長ブルーキャット様が仕切っていた。
伝説級のアイテムが多数出品されており、かなりの盛り上がりだった。
ういさんは、それを見て疑問に思った。「あれ?さっき、南門にも司祭長いたぞ?」
そこへギルドマスターが通りかかかった。「あぁ、司祭長は分身の術が使えるからな。」
「えぇっ?聖職者なのに?」
「知らなかったのか。司祭長は我々の常識を逸脱した存在。神に最も近いお方だ。
人間では到底不可能な、異次元の秘術で、それぞれ異なる10人の分身が、別々の動きをする。」
「本当に、人間か?」
「ところで、ういさん。転売でえらく荒稼ぎしたようだな。」
「・・・!何故、それを知っている・・・。」
「私も元はアサシン出身だ。人の動きは手に取るようにわかる。
昔、司祭長が狙われていた時期があり、その護衛の依頼が元で、ここの教会に関わるようになった。
それ以来、司祭長の周辺警備には目を光らせている。」
「ほえー。すごいな。この教会ほんと、すごい人が多い。」
「司祭長の人徳だな。ただ、人気があるからこそ、変なやつらにも絡まれる。」
「ま、それらを排除するのが、教会専属ギルドの役目だ。荒稼ぎも、ほどほどにな。
後半の警備もよろしく頼むぞ。」
そういうと、ギルドマスターは去って行った。
「そうだな。荒稼ぎは、もう少しだけにしておこう。」
ういさんは、この日1日で、商品を右から左へ移動させただけで50万銭もの利益を上げた。
「くっくっく。これだから転売はやめられん。」
・・・フリーマーケットは特に問題もなく終了した。平和な日常は良いものだ。
後日、教会では、お祭り事業の集計をしていた。
ギルドマスターがういさんに語った。
「司祭長は、オークションで50億銭を稼ぎ出したらしい。」
「は・・・?そんなにもか? 桁が違うんだが。」
ギルドマスターは言う。
「数々の秘蔵の品を売却したからな。あれだよ、司祭長ブルーキャット様への贈答品、貢物だよ。」
「人気になるとそんなに贈り物があるのか。ういさん的には、うらやましい限りだ。」
「ういさんも、それくらい人気者になれると良いな。」
「いつか、人気者になってやるわ。」
貢物のためにな!
ギルドマスターは続けて語りかけた。
「次の祭りは何があったかな?」
ういさんも答えた。
「きのこ祭り、魔法物理大会、アルケミスト祭り、聖職者祭り・・・あと・・・兄貴祭り・・・」
「きのこと兄貴、アルケミスト祭りは、うちの管轄外だな。やるとしたら魔法物理大会か。」
「兄貴祭りは、確か裸族ギルドの管轄だな。・・・裸族のギルドマスターは、ここのギルド出身だ。」
「マジか?あの変態戦闘狂集団が? 何故この律儀な教会専属ギルドに居たのだ。」
「元々律儀な奴だったぞ。配下の者達は知らないが、統率者としては良くやっているよ。」
「名前はなんていうのだ?」
「インクだ。」
「付け加えて言うと、裸族のギルドマスターは、異端審問官でもある。教会内では異色の役柄だな。」
「マジか。」
「マジだ。私が推薦した。」
「マジか。」
「マジだ。私が指導して育て上げたからな。愛弟子だ。」
「マジか。知らんかったぞ。」
「マジだ。ういさんは、知らなくてもいい話だ。」
「この世界、変態多くないか?」
「ういさん、変態だけじゃないぞ?多いのは」
「そうだな。この世界は、なんだか斜め上な奴が多い。」
「そういえば、ういさんがここに来る前も、変わった連中に出会ったって話だったな。」
「・・・あったね。魔物を大量に引き連れて討伐隊を全滅させる、確かそう、遠足。」
「初心者ギルドの連中か。あれも、初心者とは名ばかりの凶悪な連中だからなぁ。」
ういさんは昔の出来事を思い出した。
6話へ続く。