ういさんの物語 4話 敗走祭り
召喚祭りで、魔物の鎮圧に失敗し、一度は撤退した召喚祭り実行委員会は、通達を出した。
「全ギルドに通達だ。召喚された魔物1000体を討伐せよ。」
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後日、司教兼ギルドマスターから説明があった。
「出陣は5日後、各部隊は、ギルド単位で動く。
すでに、準備金はもらっている。配布するので、支度に充てて欲しい。」
ういさんは、一番の疑問点について聞いた。
「報酬は?」
「魔物1匹あたり1万銭だ。破格だな。なお、料理の材料にするもよし。ペットにするもよし。
そのあたりは自由だ。」
「ただし、残念ながら、私達のギルドは後方支援が主業務となった。」
ういさんは、落胆した。
「まじか・・・。活躍の場がない。」
「後方支援とは言え、戦場に赴くのだ。気を抜かないように。
報告では、魔物は今も増え続けているようだからな。」
・・・5日後、各ギルド選りすぐりの者達で構成された500名からなる討伐隊は、
魔物の群れが移動したという南方へ向け出立した。
ギルドマスターが移動中メンバーに説明を行った。
「指揮は、召喚祭り実行委員会が執り行う。
魔物の群れは、海沿いのとある遺跡に巣食っていると報告が入った。
情報は、アサシンギルド経由で逐次もたらされている。
魔物は召喚アイテムをどこかから入手し、さらに数を増しているとの事だ。」
---その頃、魔物の群れは、古代の魔王を中心に布陣していた。---
魔王の外見は、子供が黒い棘のような翼を生やし、黒のスーツを着込んでいるようにも見える姿だ。
そして、女狐の魔物「月夜花」が、魔王へ直訴していた。
「我々の巣窟に、突然大量の人間が侵略してきて、グラタンにするとか、
焼肉にするとか、狐の尻尾料理が最高だ。などと言って、眷属たちを食い尽くし
我々狐族は、ペットにするため鎖で繋がれ、すべて人間達に連れていかれた。」
魔王は、優しく語りかけた。
「それは辛かっただろう。よくぞ、打ち明けてくれた。 私にもっと力があれば・・・。」
そこへ木の形をした魔物がやってきた。
「魔王様、連絡です。人間の部隊が、近くまでやってきました。」
「ついにきたか・・・。今の我々の勢力では、人間共に太刀打ちできない。」
「魔王様の力を、もってしてもですか。」
「人間共をあなどるな。あいつら、一人ひとりが我々の幹部と同等、いや、それ以上に
恐ろしい実力を持つ。」
「魔王様の指示の元、多数の魔物を召喚し続けましたが、まだ足りぬのでしょうか。」
「いまのところ、何体まで召喚できた?」
「5000体まで召喚しました。まだ駄目だということですか。」
魔王は、空を見上げた。
「人間の猛者は、我々魔物100体を、一瞬で滅ぼせる実力を持ったものばかりなのだ。」
「我々は、どうしたら良いのでしょう・・・。」
バナナの木のような魔物が提案した。
「魔王様、一旦、別の場所へ移動して態勢を立て直しますか。」
「移動と言っても、遺跡の背後は、海だ。逃げ場はない・・・。」
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ういさん達は、後方支援ということで、医療品の運搬、食料品の調達などを担当し
本部付近で、忙しく動き回っていた。
ういさんだけ、教会支給の肌色の聖装衣、他のメンバーは青と白の生地の教会巡礼服だ。
動きやすいらしい。
ギルドマスターから招集の合図があった。
「アサシンギルドから報告が来た。魔王軍内で動きがあり、思念体が加勢に加わった。
思念体はかなりの強敵だ。ただし、人数は20名程度と少ない。
気になるのは、聖職者系のみに偏っているということだ。」
ギルドメンバーの仲間の一人がつぶやく。
「聖職者系ということは、防御・回復系が強化されるということか。やっかいだな。」
「わからんが、気を付けてくれ。なお、戦闘は、予定通り開始される。
遺跡を包囲し、一時間後、一斉に攻撃する。準備を急げ。」
「了解した。」
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一方、魔王軍内では、聖職者の姿をした思念体が魔王の前にひざまずいていた。
魔王が歓迎の意を示した。
「良く来てくれた。思念体の援軍は20体・・・か。」
思念体の一人、優しそうな女性の聖職者が立ち上がり、口を開く。
「魔王軍に足りないもの、それは、後方支援。我々がそれを補いに来た。」
他の思念体も同様に立ち上がり、口を開く。
「基本的に、私達は戦闘には一切参加しない。もし逃げるようなら、
ワープポータルを用意してある。すべての魔物を逃がすことも可能だ。・・・どうする?」
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ういさん達、後方支援を担う者達も本陣に集結した。
魔王軍に変化はない。遺跡には、多数の魔物が陣取っている。
召喚祭り運営委員の司令官は、凛々しい女性のエレメンタルマスターだ。
緑色の魔法衣を羽織り、周囲に精霊を呼び出して警戒させている。
「時間だ・・・。」
司令官は、立ち上がり指示を飛ばす。
「全ギルド、総攻撃だ。予定通り、遠距離から魔法、そして、矢の雨を降り注げ。」
「攻撃開始!」
魔王軍も反応した。
ういさん隣の同僚が状況を解説した。
「ニューマ、ランドプロテクター、ベナムフォグが多数展開されているね。
初手で、遠距離攻撃手段を封じてきたよ。フォグで、一気に視界が悪くなったみたい。」
指示が乱れ飛ぶ。
「毒耐性が万全なものから、順次切り込め、全軍突撃せよ。」
「後方支援は、本陣で負傷者の救護、背後の警戒を怠るな。」
ギルドマスターからも指示が来た。
「負傷者が来たら、すぐにヒールで回復。能力向上スキルを使い、魔力回復剤を飲ませて、
すぐに前線へ送り返せ。」
「了解した。」
と、その時だった。
「警告!背後に、魔物の大集団! 次々と増えている。」
「何が起きている。」
「緊急連絡!本陣の背後に魔物の大集団発生!」
ういさんも動揺した。
「何故、背後に?スキルで隠れていた?いや、違う。スキルで常にあぶりだしていたはず。
これは・・・、ワープポータルか?」
魔物の中に、古代の魔王が見えた。何か唱えていた。
「ワイドデスハンド!」
本陣に居た全員が、魔王の元に、引き寄せられた。
「ワイドソウルドレイン!」
全員の魔力がすべて消失した。
「ワイドサイレンス!」
範囲スキル封じだ。だが、これは防げる。
ギルドマスターが叫ぶ。
「逃げろ。」
魔王が続けて唱える。
「ヘルジャッジメント!」
呪いのかかった、強力な攻撃スキル・・・。地獄の審判が下される暗黒魔法だ。
「これは耐えきれない。・・・やばい。意識が飛ぶ・・・。」
ギルドマスターが叫ぶ。
「魔力回復剤を飲め。」
「ワイドソウルドレイン!」
回復させた、魔力が消し飛ぶ・・・。
「ワイドコンフューズ!」
混乱だ!まずい。同士討ちが発生してしまう。
ギルドマスターが続けて叫ぶ。
「魔力回復次第、逃げろ。立ち向かうな、全力で逃げろ。」
魔力回復剤を飲み、ういさんは、すぐに、テレポートで離脱する。
攻撃魔法が連続で来る。
「イービルランド!」
「ヴァンパイアギフト!」
テレポートでの離脱寸前、魔王の連続攻撃により、何名もが倒れていく姿が視界に見えた・・・。
・・・ういさんは、戦闘域から離れた場所へ、退避できた。
まずは、回復・・・だ。
その後、戦況を確認する。
前線は・・・後方に気づかず、敵陣に突撃しているようだ。
後方は・・・壊滅だ。
本陣は魔物に多数占拠されている。
連絡が飛び交っている。
うちのギルドマスターの声だ。無事なようだ。
「本陣は壊滅した。背後から、魔王軍が攻めあがり、挟撃される恐れがある。
前線部隊は、すみやかに戦闘を中断し、戦場を離脱せよ。」
「最寄りの都市を、撤退場所とする。全員、撤退せよ。」
・・・魔王討伐は失敗した。
ただ、いくつかの強力なギルドは、最後まで残り、魔王軍を縦横無尽に、蹴散らしていた。
だが、魔王が背後に迫ると、最後まで残っていたギルドも、全員が撤退して行った。
撤退を見届け、ういさんも戦場を立ち去った。
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魔王は、魔物を集め、戦果を確認した。
「見事に、人間の討伐隊を撃退する事に成功した。思念体の方々には感謝する。
これほど見事に、策がはまるとは思わなかった。」
「だが、やはり人間側は強かった。本陣を落としたとしても、
防衛に徹した我が軍の奥深くまで攻め込まれ、相当な損害を被った。何体やられた?」
「魔王様、3000体は失いました。」
「あの短時間で・・・。甚大だ。被害状況を、見てまわろう。」
視察中、魔王に直訴していた女狐の魔物「月夜花」を、発見した。
「・・・人間に倒されていたか。」
バナナの木のような魔物が説明した。
「女狐は、最前線にいましたが、人間側の集中砲火を浴びて・・・。」
「すまぬ・・・。」
「リザレクション!」
思念体の聖職者が、禁忌の魔法、蘇生魔法を唱えた。
「女狐の魔物は、蘇生させた。人間を超越した我々思念体に、不可能なものはない。」
「やられた魔物は、我々思念体が救済しよう。これが終わったら、我々思念体は撤収する。」
魔王は感謝の言葉を投げかけた。
「思念体・・・感謝する。今後、我々と共闘する・・・と判断して良いか。」
「我々思念体の目的は、個々で異なるため、共闘はできない。我々聖職者の目的はひとつ。」
「・・・救済である。」
すべての魔物を復活させると、聖職者の思念体は、どこかへ飛び去ってしまった。
第5話へ続く。