ういさんの物語 2話 鈍器祭り
今日は、年に一度の盛大なお祭りの日。
ただ、このお祭り、ちょっと変わってる気がするのだ。
お昼も近くなった頃、
教会から聖職者達が明かりを持ち、多数整列して街の広場へ集まった。
また、家々からも、たくさんの人々が集まって来た。
老若男女含めて、非常に多くの人々がそれぞれ鈍器を持って集まった。
そう、今日はこの街独自の祭り「鈍器祭りの日」
副司祭長が挨拶をした。
「皆よくぞ集まった。これから、年に一度の盛大な祭りのはじまりだ。
昨年は肉が少ないとのクレームがあった。だが、今年は違う。今年はキツネ狩りだ。」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおー。」「おおおー!」「肉だぁぁぁ!」
広場から歓声が上がった。皆、喜びの声に満ちている。
「進め。」
副司祭長の指示の元、聖職者一行が先陣を切って進む。
目指すは、狐の化け物と触手の化け物が多数生息するという南東の巨大洞窟
全長5キロにもおよび、5層からなる洞窟だ。
ういさんは、誘導係だったが最後尾に配置された。
ういさんが手にするは、丸太に釘が刺さった凶器。
「ひひひ、血祭りにあげたる。」
聖職者達と共に進んでいくと、ある疑問が浮かんだ。
「狐って食えるのか?」
他の聖職者達が答える。
「解毒すれば・・・。」
「くさいが・・・。」
「おいおい、ういさん。まさか、食べる気なのか?」
「そういえば、狐の尻尾料理というのがあったなぁ。」
そんな会話をしていると、巨大洞窟へたどり着いた。
街からは、割と近い。
誘導係の聖職者が入口に立ち、次々と案内していく。
「混雑していますので順番に並んで。気を付けてくださいね、二人ずつでお願いします。」
「あーそこの人!詰まるから、早く行って、行って。」
一時間も経過した頃、入口の誘導係の者が叫んだ。
「はい、ここまで。先頭集団が洞窟の末端までたどり着いてしまったそうです。」
「もうこれ以上は満員で、洞窟には入れません。洞窟は人であふれかえってて、もう入れませーん。」
「残った人は、ここで調理の準備を手伝ってください。」
最後尾にいた ういさん達は、非常に残念がった。
「マジかー?」「マジでー?」「鈍器振れなかった。」
周囲の人達はテントを張り、簡易の椅子を並べ、肉を焼く準備をしていた。
しばらくすると、洞窟の中から次々と血塗られた鈍器を片手に、
もう片方の手に獲物をぶら下げた人々が出てきた。
「狐の化け物は300体は居たぞ。いい成果だ。」
「女狐の妖怪のような人型の化け物もいた。これは売り物にする。」
「ははっ、ペットにしたいやつらがいっぱいいるからな。」
一見すると、とてもかわいらしく、
だが、狂暴そうな人型をした女狐の化け物が鎖で繋がれていた。
かわいそう・・・とも思えるが、人を襲う狂暴な猛獣をペットにするのは、至難のわざだ。
つい最近、ペットが街で逃げ出して、人に襲い掛かる事案があったばかりだ。
「それとイソギンチャクのような巨大触手の魔物を1000体近く狩った。」
「衣をつけて揚げると、鶏肉のようなあじわいのする、みんなの大好物だ。」
副司祭長が叫ぶ。
「狩りは終わったようだな、調理にしよう。」
次々と触手の魔物の唐揚げが出来上がって行った。
ういさんも食べてみた。
「うまし。」
至極の料理、狐の尻尾料理も食べてみた。
「うまいっ。」
椅子に座り、酒を飲みつつ他の聖職者達と共に話をしていると、隣に影の薄い聖職者が座って来た、
「はじめまして。」
見慣れない聖職者だ。この街の聖職者ではないな。
「はい、どうも、こんばんは。あれ、教会ではお見かけしたことないですね。
どちらに所属の方ですか?」
影の薄い聖職者は、ごく普通に話したが、何かおかしい。
「遠方から来ました、この洞窟に用があって。せっかくなので、お祭りに参加しようかと。」
見ると、影だけでなく、姿も若干透けて見える。
「なぁ・・・・透けてないか?」
「お祭りだからいいんですよ。」
どういうことだ。意味がわからない。
「そろそろ頃合いですかね。」
そう言うと、その聖職者は立ち上がり、突然魔法を発動した。
「レディムプティオ!」
禁忌の魔法だ。自分を犠牲にして、蘇生する魔法。
しかも多数を蘇生できるという伝説級の・・・誰に向けて放った?
あたり一面が光り輝くと、その後、おそろしい獣の声が多数聞こえた。
と、同時に、轟音と土煙が。何が起きたか、誰にも理解できなかった。
あたり一面には、多数の狐の化け物。
そして、巨大触手の魔物が大量に生成され、溢れかえっていた。
ういさんは、すぐに理解した。
「あの聖職者は、自分を犠牲にして、我々が狩った化け物をすべて蘇生させたのだ。
唐揚げになったのは・・・・どうなったんだ?」
「焼肉は・・・?食ったもんはどうなった?」
素朴な疑問は残るが、そんなことはどうでもいい。
周囲の人々は、この光景に驚き、狼狽した。そして、口々に叫んだ。
「追加の肉だあ!」「肉大盛り、入りました。」「おれにも鈍器を振らせろぉ!」
あたりは、一瞬で、血なまぐさい光景になった。
すべての音が、叩き潰す音、音、音、30分も立つと、沈静化した。
最後の一匹と思われる触手の魔物が、ういさんの目の前に現れた。
さらに磨きのかかった 私の治癒魔法を試してみよう。
「ヒール!」
魔物は、光り輝くと、よわよわとなり、パタリと倒れこんだ。
「だいぶ威力が増したようだな、私のマイナスヒールは。」
しばらくして、鈍器祭りの主催者から発表があった。
「何匹かは逃亡を許してしまったが、鈍器を持つ我々によって、新鮮な肉に変えられた。
魔物も、推定で、数百は湧いたと思うのだが、圧倒的な数の暴力により、無事制圧できた。」
「祭りの成功を祝いたい。さぁ、唐揚げと、焼肉が追加だ。みんな、食え。飲め。」
先程まで、影の薄い聖職者の居たところを振り返ったが、そこには何もなかった。
なんだったんだ?人ではなかったのか・・・。幽霊?
後日・・・
ういさんは当時の事を教会関係者に語った。
「それは、思念体という人の形をした魔物かもしれない。」
「しねんたい?」
司教が代表して説明した。
「かつては、人だったもの。人と同じように行動するものもいれば
理性を失い、暴走する者もいると聞く。
姿は半透明、人だった頃とそっくりの姿をして、意思を持つ者もいると聞く。」
「それだ!半透明だった。」
ういさんは理解した。
司教は続けて注意を促した。
「ただ、人を超越した魔力を持つため、出会ってしまったら非常に危険だ。」
ういさんは疑問を抱いた。
「巨大洞窟を一掃しても、しばらくすると魔物が蘇るのは、今回の聖職者の仕業なのか?」
別の聖職者も疑問を口にした。
「自分を犠牲にしてまで、あそこの魔物を救おうとしたのだろうか?
人間の頃は、優しい聖職者だったとか?」
「祭りを盛り上げたかったんじゃないのか?」
疑問は尽きないが、今となってはもうわからない。
3話へ続く。