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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第五話「私の虚機友導(ボイド)」

 

 本を読み終わったシヴィが膝の上から降りたので、私はメルヴィさんに質問をする。



「アミナ帝立魔法学園に入学すると聞いているのですが、それっていつになるのでしょうか」



 ガブリエーレが入学手続きをしてくれているはずだが、詳しいことについては聞くことができていない。



「確か………魔法学園は精樹祭の期間はお休みだったはずだから、精樹祭が終わったら入学になると思うわ」



「精樹祭の期間はどれくらいですか」



(まあ、この国にとってはとても大事なお祭りみたいだし、1週間くらい続くのかしら?)


 朝にもかかわらず、家の中まで聞こえてくる外の騒がしさから私は推測する。



「一か月よ」



「………え?一か月………ですか?」



「ええ。お祭りが始まったのがちょうどあなたが来た日の前日だったから、入学までは約一か月待つことになるわね」



 想定の四倍の長さの祭りに衝撃を受けながらも、入学までの長期間、何をすべきかを考える。


(まずは、計画よね。でも、計画を立てるにはあまりにもこの世界の知識が少なすぎる)



「あの、図書館ってありますか?」



「あら、入学までこの世界の勉強をしようってわけね。図書館は魔法学園に隣接してるけど、たぶんあなたにそんな暇ないと思うわ」



 メルヴィさんは、笑顔でそう言った。



「え?でも入学まで一か月あるんですよね?」



「あなたのお仲間さんが、あなたが昨日眠ってしまった後、うちに来たのよ」


(私の仲間?私に仲間なんていたかしら、魔法学園の同じクラスの子か何かかしら?)


 そんなことを疑問に思っていると、家の玄関の扉が開き、祭りの喧騒とともに一人の男が入ってくる。



「やあ、遅くなってしまって申し訳ない」


「あなた。おかえりなさい」


「パパ、おかえりー」



 どうやらこの男はこの家の主人らしい。銀髪に黄色い目、その優しい声と顔とは裏腹に、右の眼についた切り傷がただものではない雰囲気を漂わせている。



「お邪魔しています。昨日からこの家でお世話になることになった黒義院冷です」



 私は椅子から立つとすかさず男に向かってお辞儀をした。



「僕は、この家の主人の【シストル・ノアナ】です。歴史研究をしております」



 男はそう言うと私にお辞儀を返した。



「レイさんの話で、大学は持ちきりでしたよ。やっと行方不明だった転拡者が見つかったって」



 シストルさんは、やや興奮した様子で持っていた荷物を机の上に置いた。



「もしかして………私って有名人ですか?」



 自分の知らないところで、勝手に騒がれることは元の世界でもよくあったことだが、この世界でもどうやら私は有名人らしい。



「ええ。僕たちにとって転拡者は重要な存在ですから。それが、二年前一人足りないって結構騒ぎになったんですよ。そんなこと今まで一度もありませんでしたからね。まあそんなことは置いといて…」



 男はそう言うと、肩にかけていたカバンの中から箱を取り出した。



「さっき預かったものです。開けてみてください」


(さっき預かった?………もしかして!)


 男から箱を受け取ると、三人は興味津々に私の持つ箱を見つめる。私は少し警戒しながら箱を開けた。

 すると中に入っていたのは、ガブリエーレの周りを浮遊していたあの物体。そう、魔法が使えるようになるアイテム、虚機友導(ボイド)だった。

 私は右手で虚機友導を持ち、三人にも見えるよう観察を始める。

 重量はテニスボール程だろうか。形はガブリエーレの持っていたものとほぼ同じだが、中央部分にある瞳のようなものの色が違った。ガブリエーレのものは青色だったが、私の色は………


(これって………お父様からもらったあの宝石?)


 加工されたのか形は変わっていたが、瞳のようなものの色は、あの宝石と全く同じ、青みがかった真紅色をしていた。しかし、その魅力は以前よりも増しているように思える。



「きれいないろだね、おねえちゃん」



「ああ、やはり虚機友導の瞳はほんとうにきれいだ」



 私も思わず虚機友導の瞳に見入ってしまう。



「それは、専門店の店長から預かったのですが、今日一日その虚機友導と対話をしてみるといいですよ。明日はきっと忙しくなるだろうからね」



「対話…ですか?」



「ああ。と言っても実際に会話するわけじゃない。転拡者は自分の気持ちを具現化させる……言い換えるならば魔法を使うために虚機友導を使う。そのことは知っているかな?」



「はい。ここに来るまでに、実際に使うのを見ました」



(魔法を使うために利用するというのは知ってるけど、気持ちを具現化させる?)


 ここは大事な説明だと思った私は、真剣なまなざしをシストルさんに向ける。



「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいな」


「あなた?」



 シストルさんが照れる素振りを見せると、私は後ろから不穏な気配を感じた。



「じょ、冗談だって………話を戻そう。つまり、自分の気持ちをいかに虚機友導に伝えられるかが、魔法を使う際のポイントになってくるんだ」



「それで、自分の気持ちを伝えるための対話………ということですね」



 私はいまだピクリとも動かない虚機友導を見つめながら言った。



「僕たちは虚機友導を使えないから感覚的な部分はわからないけど、虚機友導に自分が主人であると認めさせるには学園では半年の期間を設けているみたいだからね。対話は今すぐにでもすべきだと思うよ」



(半年………思った以上に魔法を使うのは一筋縄ではいかなそうね)


 そう思った私は、さっそくこの家での自室へと向かった。



「ええ~、おねえちゃんによみきかせるおはなしたくさんあるのにー」


「代わりにお父さんが面白い話をしてあげるよ」

「パパのはなしつまんないからやだ」


「………………」




 ---




 自室に入った私は、まず何をすべきかを考えた。


(虚機友導に主人であることを認めさせる………具体的にはどうすればいいのかしら)


 私は、ヒントを得るため元の世界での記憶をたどる。


 しかし、出てくる記憶は主人として認めさせる方法ではなく、主人としての立ち振る舞いや態度ばかりだった。それもそのはずだ、黒義院家の長女として生まれた私には、赤ん坊のころから認めさせるまでもなく、従う人間たちが周りにたくさんいた。


 思い返せば、私が生まれた日には各界の著名人が私の誕生を祝いに行列をなして屋敷に来たらしいし、赤ん坊のころは私のためにメイドが十人がかりで昼夜を問わず私の面倒を見ていた、三歳のころには既にずっと年上のセバスを足でこき使っていたし、四歳の誕生日にはテーマーパークを一日貸し切りにして楽しんだわね。


 そうそう、五歳の誕生日には黒義院家の召使を全員集めて、そのテーマパークで鬼ごっこをしたっけ。今思えばあれは完全に子供の私に忖度してたわ。小学校の入学祝いには、学校に近い土地を買い取って、新しい別荘を作らせたっけ。それから………


 そんな過去の思い出に浸っていると、手に握っていた虚機友導が宙に浮き、その瞳も鈍く光り出していた。


(これは私を主人として認識したってこと?案外簡単だったわね!半年の期間をスキップできるなんて、もしかして…いや、やっぱり私には才能が……)


 何がきっかけでこうなったのかさっぱり分からなかったが、私はとにかく魔法を試してみることにした。

 と言っても、ガブリエーレが使っていたような遠距離の強力な魔法を使うと家が吹き飛んでしまうかもしれないので、とりあえず彼が使っていた虚機誘導を武器に変える魔法を使うことにした。


(彼みたいに長剣にしてもいいけど、あの大きさじゃ私には合わないわね。ってことはオリジナルのものがいいか)


 そう考えると、まずどんな武器がいいかを考える。銃のような複雑なものは想像がしにくいので却下。やはり単純な形をして、かつ扱いやすい剣がいいだろう。


(具現化できるほど私の身近にあって、想像しやすい武器………実際に見たことがあるものがいいわね………それなら………)


 私はふと実家にあった武器を思い出す。その武器は日本刀で、最上大業物だとかセバスが言っていたような気がする。私はその日本刀をイメージすると、ガブリエーレがやっていたように手を前に出し。そこに虚機友導が日本刀へと変化するイメージを付与する。





 かれこれ二時間くらいだろうか、ずっと手を前に出して、イメージを続けている。


(なかなか、具現化されないわね………)


 そう思った次の瞬間、虚機誘導が一瞬光ったと思うと、イメージしていたのとは少し違う日本刀が目の前に現れた。と思ったら鞘がついたままだった。


(抜いてみるか)


 そう思った私は日本刀を手に取ると右手で柄の部分を持ち、左手で鞘を抜いた。

 その形状は、全体的には一般的な日本刀と変わらないが、刃先の部分が少し赤みを帯びている。そして特徴的なのが、刃先と峰の間の部分、刀身の持ち手に近いところに丸い穴が開いておりその中心には赤い瞳があった。


(私ってやっぱりセンスいいわね)


 思っていたのとは少し違うが、その魅力的な日本刀に自分の作品ながら惚れ惚れしてしまう。





 その後半日ほど、自分で作りだした刀を振ったり、触ったりしながら観察を行い、分かったことがある。

 どうやら、具現化した物は私の意志でその重さや形状を自在に操ることができるようだ。急に軽くなったり、重くすることも可能、材質も変更できるのか、刀の部分がぐにゃぐにゃっとなることもあった。

 そして、実験を繰り返していた私は少し疲労を感じていた。このことから、私の中にあるエネルギーか何かを、魔法を使う際には使用しているという推測をたてることができた。



「レイちゃーん、ご飯できましたよー」



 一階からメルヴィさんが私を呼ぶ声が聞こえる。


(今回のイメージを忘れないようにしないと、そのためにはこの刀に名前を付けないとね………)



「よし、この刀の名前は、うーん…【黒臨緋(レインブラス)】………でいっか」



刀に名付けが終わると、刀から意識を外す。すると、刀は一瞬のうちに元の虚機友導へと戻った。


(今日はこのくらいにしときますか。明日のためにも体力を残さないとね)



「今行きまーす」



 そういうと私は部屋から出て、階段を下りた。

 四人で夕飯を食べている最中に、今日の成果を私が報告すると、シストルさんは顔を引きつっていた。



「え? まだ、半日くらいしかたってないのにそこまで………レイさんはとてつもない才能の持ち主みたいですね」



「おねえちゃんすごーい!!」



 こういう反応は今まででもよくあったことだが、やはり人に褒められるのは悪くない。



「そう、ですかね」



 しかし、私は調子に乗ることはしない。いつでも謙虚な態度をみせるのだ。それが黒義院家の人間。こんなことはできて当たり前、という態度を示さなくてはならない。



「そんなにすごいなら、おねえちゃん、この本に出てるえいゆうさんみたいになれるよー」



 シヴィが私のことをさきほどから何度も褒めてくれる、何の忖度もなしにここまで純粋な気持ちで褒められるとさすがの私も………



「えへへ………じゃなくて、私には二年の遅れがありますからね、これくらい当然です」



 つい笑みがこぼれてしまったが、即座に軌道修正を行う。それにしてもシヴィくらいの年齢の少女の素直さは恐ろしい。



「そんなにうれしいなら、おねえちゃんもえいゆうさんのお話、知りたいよね?ごはんたべおわったら、おねえちゃんがなれるかもしれない、えいゆうさんのおはなしをしてあげるね!!」


「え?」



 なるほど、先ほどまでのべた褒めは布石だったか………考えたねシヴィ。

 ご飯を食べ終わると、寝るまでシヴィはその英雄とやらのお話をベッドの上でしてくれた。

 お話のストックはいったいどれくらいあるのだろうか、シヴィには二年間も時間があったわけだから………


(この読み聞かせ………まだまだ続きそうね………)















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