表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
5/41

第四話「おかえり。おねえちゃん」

 ガブリエーレからもらった地図を見ながら歩くこと三十分。お祭り状態の人の波をかき分け、ようやく私は目的地に到着した。



「ここが、私の家?」



 元の世界で住んでいた屋敷に比べると、十分の一、いや二十分の一程度の大きさだろうか。道に面してつながった住宅の一つに確かに地図の目的地があった。


(人の家を尋ねるときってどうするべきだったかしら?)


 常に尋ねられる側の人間だった私には、見知らぬ人の家に入る前にするべきことがわからなかった。


(ドアをノックする?それともチャイムか何かがあるのかしら?第一印象は大事よ。ここを失敗するわけには………)


 次のアクションをどうすべきか悩んでいると、後ろから小さな女の子が声をかけてきた。



「うちになにかようですか?」



 声の方を振り向くと、百センチほどの身長に、銀髪でおでこが見える髪型、そして黄色い丸っとしたかわいらしい瞳をした少女が立っていた。



「はい。この家に行くように言われてきたのですが。その………入り方がわからなくて」



 私がそう言うと、少女は私の顔をまじまじと見つめ、数秒すると何かに気づいたかのように顔をぱぁっと輝かせた。



「ちょっとまっててください!」



 そう言った少女は一目散に家の中に入ったかと思うと、すぐに戻ってきて、まるで練習でもしていたかのようにドアを開け、満面の笑みを見せた。



「ずっとまってたよ!!おねえちゃん!」



「え?お姉ちゃん?」



 状況が読み込めない私の手を引いて、少女は私を家の中へと招き入れた。



「あ、そこでくつぬいでねって、あれ?どうしておねえちゃんはだしなの?」

「私もそのことをずっと疑問に思ってました。奇遇ですね」



苦笑いした私に、少女はタオルを持ってきてくれた。足を拭き終わった私は、再度少女に手を引かれ玄関から家の中へと入っていった。


(なんだか、イギリスに住んでる叔父さんの家みたいね)


 家の中は、赤を基調としたデザインで、ほとんどの家具は木でできており、ランプの暖かい光と絨毯や家具の赤みが調和し優しく包み込んでくれる。パチパチとする音は暖炉から発せられており、部屋の奥からは何やら料理をしているのか、何かを切る音が聞こえ、それとともに美味しそうなにおいが漂ってきていた。


 その匂いにつられたのか、お昼を食べていなかった私のお腹は限界だと言わんばかりに大きな音を鳴らした。



「あ」



 こんな小さい少女の前でお腹を鳴らすなんて、黒義院としてあるまじき失態。恥ずかしい。



「おねちゃん。おなかすいちゃったの?ゆうはんまでは、まだじかんがあるからちょっとまってね。そのあいだに、わたしがいえのなかをあんないしてあげる!」



 そう言った少女は私の手を引きながら階段を上り、二階へと連れていく。



「おかーさーん。おねえちゃんやっときたから、わたしがあんないするねー」


「はーいー。………え?今なんて言ったの?シヴィー。ちょっと待ちなさい」



 少女が母親に呼び掛けたかと思うと、一階の奥のほうから、何かが倒れる音がガシャンとした。



「まずここがおねえちゃんのへやで、こっちがわたしのへや。あっちはおとうさんのへやで、こっちは――」



 シヴィと呼ばれていた少女は、私と手をつないだままノンストップで家の中を連れまわし、トタトタと歩きながら各部屋についての説明を始めていた。



「それで、ここがおトイレで………向こうは――」


「ちょっ、ちょっと待ってください」


「どうしたの?おねえちゃん?」



 あまりにハイスピードに進む状況に、私は思わず待ったをかけた。



「あ。わかった。じこしょうかいがまだだったよね。わたしのなまえは【シヴィ・ノアナ】です。今年で7さいです!おねえちゃんのおなまえはなんですか?」



 トイレのドアの前で立ち止まると、腰に手を当てて、少女は私に向かって言った。


(やっと止まってくれた。なんとも活発な少女ね。ガブリエーレの話からすると、私はこの家に引き取ってもらう形になるはず。ということは、この家の娘であるこの子には、いくら年下だからって敬意を表さないわけにはいかないわね)


 そう思ったわたしは、少女と目線をあわせると誇りある名前を名乗った。



「私の名前は黒義院冷です。これからよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくおねがいします。でも、おねえちゃんはもう、うちの子だからけいごは使わなくていいよ」



 シヴィはそう言うとにっこりと満面の笑みをみせた。


(なにこの子………か、可愛すぎるッ。まっまぶしい!このくらいの年齢の子はみんなこんなにかわいいのかしら)



「黒義院レイちゃんね。私はシヴィの母親の【メルヴィ】です。これからよろしくね」



 私たちの会話を聞いていたのか、階段からシヴィの母親だというメルヴィさんが顔をのぞかせる。見た目は、ロングの銀髪に黄色い瞳。シヴィをそのまま大人にしたような顔立ちに、その瞳には優しさとも母性ともいえる感情を覚える。



「はい。よろしくお願いします」



「もうご飯できてるから、下で食べましょう」



「やったー。じゃあおねえちゃんはわたしがせきまで連れていきます!」



 私はシヴィにまたも手を引かれ、席まで誘導された。机にはいい匂いのする暖かい料理達が並んでいた。椅子は4つあったがそのうちの一つは埋まっていない。



「では、どうぞ召し上がってください」



 メルヴィさんは、エプロンのひもをほどきながら満足気にそう言った。



「はい。いただきます」



 まだまだ、わからないことがたくさんあるが、お腹の方はもう限界だ。私はナイフとフォークを使ってお肉を小さく切り分け口に入れる。今度は手を伸ばしフォークを使って、野菜をとって食べる、その次は両手でお皿をつかむと思いっきりスープを飲み込んだ。


 しばらく食事を続けていると、急に自分の目から涙がスーッと溢れていることに気がついた。



「うっうっ………とっても、おいしいです」



「どーしておねえちゃん、おいしいのにないてるの?」



「今日はたくさん食べて。たくさん寝てね。詳しいことは明日話しましょう」



 優しく微笑みながらメルヴィさんは私の涙をナプキンで拭いてくれた。


(今まで人前で泣いたことなんてなかったのに。ううっ………きっとさすがの私でも涙がこぼれるほどメルヴィさんの料理がおいしいのね………)





「ごちそうさまでした」



 思った以上に早く食べ終わると私は手を合わせて言った。食事が終わるとメルヴィさんは食器を片付ける。それを見ていると、お腹がいっぱいになったせいか急激な眠気がわたしを襲った。



「おねえちゃんねむいみたい。ママーきょうははおねえちゃんといっしょにねていい?」



 シヴィが机の上に手を伸ばし、私の顔を見ながら言うと、メルヴィさんは食器を片付けながら返事をした。



「レイちゃんはもう疲れているみたいだから、部屋に案内するだけにしなさい。楽しみはとっておくのよ」



「はーい。じゃあきょうはへやにあんないするだけね」



 そう言うと、シヴィは椅子からよいしょと飛び降りて、私の手を引っ張って部屋まで連れて行ってくれた。



「おねえちゃんのへやは、シヴィがそうじしてたんだよ!」



「そ、そうなんですか……ありがとうございます………」



 私はうとうとしながらも、何とかお礼を言うことができた。



「それじゃあ、おやすみなさい」



 彼女が案内した部屋に入り、ベッドにうつ伏せになると、それを見た彼女は静かにドアを閉めた。



---




「………ガブリエーレ……あの魔物を一刀両断……しなさあーい。むにゃむにゃ」


「おねえちゃん! 起きて! 起きて! 朝だよー」


「あ、っはい」



 翌日、シヴィに体をグラグラと揺らされ私は目を覚ました。シヴィが部屋のカーテンを開け、朝日が部屋の中へと差し込むと、布団もかぶらずに寝てしまっていたことに気付く。


(とりあえず、ストレッチしよ)


 そう思いながら、ストレッチをしているとシヴィが不思議そうな顔をしながら今日の予定を話してくれた。



「きょうのおねえちゃんのよていはー、あさごはんをたべてー、ママとはなしをしてー、そしたらシヴィとはなしをしてー、その後は………なんだっけ?」



「だいたいわかったわ。ありがとうシヴィ」



 軽いストレッチを話を聞きながら終わらせると、私はベッドから降りてそう言った。

 一階へと降りて昨日と同じ席に着くと、そこには昨晩の残り物で作られた料理が並んでいる。



「いただきます」



 私は皿の上に乗る料理を一口食べた。


(これが、残り物で作られた料理………案外悪くないわね)


 残り物で作られているにもかかわらず、昨日とはまた違った風味のする料理に私の中でのメルヴィさんの評価が上がった。



「レイちゃんは、今までどこで何をしていたのかしら? 聞かせてもらってもいい?」



 メルヴィさんは机に頬杖を突きながら、朝ご飯を食べる私に向かって言った。


(まあ、私が転拡者だってことは知っているみたいだし、元の世界のことまでは詳しく話す必要はないわね)


 口に入れた食べ物を噛みながらそう考えると、転生してからここまでの経緯を話した。



「そうだったの。それは大変だったわね………、でも安心して、あなたが魔法学園を卒業するまではこの家を本当の家のように思ってくれていいからね」



 メルヴィさんは、笑顔でそう言いながら、シヴィの口についた食べかすをふき取った。


(本当の家のようにって……それってかなり失礼なことになってしまうのでは………)


 朝食を食べ終わると、フォークを机に置き、手を合わせる。次はこちらが質問する番だ。



「あの………」



「はーい!おねえちゃんのしりたいことはシヴィがおしえるね!!」



 私が質問しようとすると、『待ってました!』と言わんばかりに、シヴィが椅子から降りて超特急で二階から分厚い本を持ってきた。



「この子はあなたが来るのを二年前からずーっと待ってたのよ。少しだけ話を聞いてあげて」



 メルヴィさんがお願いすると、私は断る理由もないので素直にうなずいた。


(二年間も私のことを待っててくれていた………)


 すっかりシヴィのことを気に入ってしまった私は、少しワクワクしながら彼女を待っていると、彼女は分厚い本を開けてお話を始めてくれた。



「せいれいとのやくそく。作、エルミス・アル・アミナ」



 その本はいわゆるおとぎ話だった。この世界に伝わる昔あった伝説のお話……

 その中身を要約するとこうだ。


 この世界には魔法の力を持たない最初の人間が五人いた。その人間たちは周りにいる強力なモンスター達におびえながら日々を生活していた。とうとう住処をモンスターに見つかってしまったその人間達は、森の中へと逃げ込みそこで精霊たちと出会う。


 人間のことをかわいそうだと思った精霊は、人間たちに虚機友導と帝城樹のタネを与え、モンスターから身を守る手段を教えた。そこから、人間は虚機友導をつかって魔法を使えるようになり、土に埋めた帝城樹のタネは、モンスターを寄せ付けない人類を守る強力な大樹になった。しかし、虚機友導を使用できるのは限られた人間だけだった。


 人類が身を守る手段を手に入れると、それに伴って人口も増加。大樹の力が及ばない範囲まで、領土を広げる必要が生じたのだ。さらに、魔法使いによる内戦も勃発。

 そこで、王家の人間たちはこの問題を解決するため、精霊との契約を交わし、王家以外のこの世界の人類が魔法を使えなくなる代わりに、【転拡者】と呼ばれる虚機友導を使いこなすことのできる存在を別世界から呼び出す力を手に入れ、その者たちに褒美と引き換えに領土拡大を手伝ってもらうようになった。


(かなりツッコミどころがあるけど、おとぎ話なんてこんなものよね)


 この話を真実だと仮定して、この話から分かったことは、


 ・私は王家の人間によって召喚された

 ・転拡者はこの世界にとって必要不可欠な存在になっているため、衣食住は学園卒業まで現地人が提供してくれる

 ・私はこの世界の人類の繁栄のために転生?転移?をさせられた


 この3つだろうか。推測ならまだまだ立てることができるが、確定していることはこの3つになる。そして、どうやらこの国の女帝陛下は神として崇められているらしい。神権政治ならぬ精権政治だろうか。


(なるほどねえ。この”黒義院”冷を自分たちの都合のため利用しましたってことか……王家とやらはこの私に一体どんな褒美を与えてくださるのでしょうねえ?)


 私がこの世界に来た理由に、内心ムカっとしていると、シヴィが私を見上げて感想を聞いてきた。

 ちなみに途中から、シヴィは私の膝の上で本を読んでくれている。



「どうだった?おもしろかったでしょー。わたしおねえちゃんがきたらこのお話しようと思って、何回も練習したんだよ!!」



 確かに、六歳の少女にしては気持ちがこもっていたし。読み間違えもなかった。本の内容的には複雑な心境だが、彼女には何の罪もない。



「私のために読み聞かせてくれてありがとう。シヴィ」


「えへへ」



 私がシヴィの顔を覗き込んで言うと、彼女は照れていた。


(なんかこの子、愛犬のトンキーみたいね……)









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ