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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第三十六話「悪夢」

 目が覚めた。

 どうやら今私がいるのは学園の医務室、その窓際に設置されたベッドの上らしい。 

 ベッドに体を預けながら体中をペタペタと触り異常がないか確認する。



「起きたようですね」



「はい、私はどれくらい眠って――」



 私の質問は途中で止まる。

私が眠るベッドの隣に備えられた椅子、その椅子に座り私に質問をしてきていたのは先ほどまで私が戦っていた相手、『ヘルミナ・ヘル・アミナ』だった。



「どれくらい眠っていたかといえば…そうですね。六時間ほどでしょうか」



 私は周囲の警戒をしながら彼女の言葉に耳を傾ける。どうやら彼女以外はこの医務室にいないようだ。



「ほかの人たちは?アルシャとリゼスはどこですか?」



「二人なら既に目を覚ましています。今はパーティー会場で宴に興じているところだと思いますよ」



(パーティー?宴?…………そういえば、アルシャがこの試合が終わったら学園を挙げての盛大なパーティーがあるとか言ってたわね。それにしても、リーダーがまだ起きてないのに、ヘルミナと二人だけで医務室に置き去りって…………)


 アルシャとリゼスの行動に若干の苛立ちを覚えつつ、私はヘルミナに質問を続ける。



「それで、あなたはどうしてここにいるんですか?まさか、私のお見舞いに来たわけでもないですよね?」



「…………少し歩きながら話しましょうか」



 彼女がそう言って席を立つので、私もベッドから起き上がり訝しげに彼女の後をついていった。


---



 日が完全に沈んだ今の時刻は、学園の中に日が差し込むことはなく、その代わり随所に設置された魔道具が優しくオレンジ色の光を灯していた。


 医務室から外に出てしばらく歩いていると、第三棟のほうから賑やかな声が聞こえてくる。

どうやら本当にパーティーが開かれているようだ。


そのパーティーの主役はいったい誰なのだろう。

私はここにいるのに。



 そんなことを考えつつも、私は警戒を怠らない。前を歩く彼女についていきながら、先ほどからボドに魔力感知をさせているが……


『反応は?何かないの?』


『シュウイニマリョクハンノウナシ。モンダイアリマセン』


 どうやら反応はないらしい。前を歩く彼女は本当に私と話がしたいだけのようだ。



 通ったことのない廊下や階段、通路を抜けてたどり着いた場所は、学園の裏側と思われる場所だった。その場所からは、魔術学園都市が一望できた。

前の世界での夜景を思わせる景色が眼前に広がり、明かりの一つ一つが人々の営みを思わせる。



「こんな場所があったんですね」



 石造りの手すりに手をのせると、歩みを止めた彼女に聞いた。

 すると彼女はその綺麗なロングの銀髪に月の光を反射させながら、私のほうへと振り返る。



「これから話すこと、その内容は極秘です。この国でも数人の人間しか知らないことです」



 鋭い琥珀色の瞳で私の視線を釘付けにした彼女は、まじめな表情で私に言った。



「急にどうしたんですか。嫌ですよ。そんな秘密知りたくないです」


(いきなり秘密を共有なんて、そんなに仲良くなった覚えはないんだけど…………)



「知りたくないのですか?私があなたの命を狙った理由を」



 彼女のその切り返しに私はつばを飲み込む。彼女が前の世界で私を殺した理由、確かにそれは気になっていたことだ。しかし………



「仮にその秘密を私が聞いたとして、アルシャやリゼスに危険が及ぶことはないですよね?」



 今の私には大切な仲間がいる。私の独断で彼女たちを危険に巻き込むことはできない。



「その心配はいりません。あなたさえこの秘密を口外しなければ、この秘密を知るのはあなたと私、あとは帝都にいる数人だけです。そして、私も、あなたがこの秘密を知っていることは口外しないと約束しましょう」



「あなたがどうしてそこまで私のことを信用するのかがわかりませんね。その秘密を口外するということはあなたにも多少のリスクがあるのでしょう?」



 この国でも数人しか知らない秘密というのは恐らく、彼女が王族ということを加味しても国営に関わる重要な秘密のはずだ。


それをどうして転拡者の私に教える必要が?


大きすぎる秘密を少女一人じゃ抱えきれないってこと?

そんなまさか。ヘルミナに限ってそれはないだろう。



「私はこの国の王族として、この国を守りたいだけです。そして、そのためにはあなたの力が必要なんです」



「ちょっと待ってください。あなたは、別の世界で私を殺しているんですよ。それなのに私の力が必要って、それは矛盾してます」



「状況は刻一刻と変化しているのです。そのすべてを把握するのは難しい。特にイレギュラーであるあなたの扱いは本当に難しい。前の世界で殺されたことに関して起こっているのなら、ここで謝罪しましょう。まあ、殺したのはこの世界の私ではないのですが」



 どうやら彼女の中では私を殺したことと私の力が必要なことは矛盾していないらしい。どうも彼女と私の世界の見方は食い違っているようだ。


彼女からは何かこう、うまく言葉で言い表せないが、この世界をまるで第三者の目で見ているようなそんな雰囲気が漂っている。



「わかりました。そこまで言うなら、聞くだけ聞きます。その秘密とやらを。でも、聞くだけです。それを聞いて、私があなたに協力するとかそういうのはまた別の話ですからね」



 私は腕を組むと、手すりに腰掛けた。あのプライドが高そうなヘルミナがここまで言うのだ。彼女にとってよほど重要なことなのだろう。ここらへんで借りを作っておくのも悪くない。



「それでは、話します。…………これは昔々、太古の時代。まだこの世界が魔力で満たされていなかった――」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「どうかしましたか?」



 彼女が至って真面目な表情でまるでお婆ちゃんが子供に読み聞かせをするかのような語り口で話し出したので私はストップをかけた。その顔でその語り口では、どんなに重要な秘密だったとしても頭に情報が入ってこない。



「物語形式じゃなくていいです。もっと簡潔に、私が知るべき情報だけをお願いします」


「そうですか………」


(なんでそこでちょっとがっかりしたような顔をするわけ!?)


「では、簡潔にまとめてお伝えします。ああ、その前に、これをどうぞ」



 そう言って彼女が渡してきたのはクッキーだった。袋の中に何枚ものクッキーが入っている。しかも、それは露店に並んでいたお店の中でも最上級と呼ばれるお店の商品だ。

リゼスが何度もそのお店の前を通りかかるたびによだれを垂らしそうになっていたことを思い出す。



「まさか、ここまでの前振りが全部嘘で、このクッキーの中に毒が入っているなんてことはないですよね?」



 私がそう聞くと、彼女は呆れた顔をしながら私が持つクッキーの袋に無造作に手を突っ込み一つ取り出して、上品に食べて見せた。



「私はただ、あなたがおなかが空いているかと思っただけです。話を続けても?」


「あっ、お願します」



 そう言った私は、クッキーを口へと運び彼女の話を聞く。


 そのクッキーの味は、前の世界で食べたどのクッキーにも当てはまらない独特な味をしていた。それでいて、私の舌が拒絶反応を示すことはなく、芳醇な香りとともに喉の奥へとかみ砕かれたクッキーがするすると入っていく。



「秘密というのは、私たちこの国の王族は未来予知の能力を、魔法とは別に、体質として備えて生まれてくることがあるということです。この国はその未来予知の能力によって長きにわたり繁栄を続けてきました」


(へー、そんなチートみたいな能力をこの国の王族がねえ…うわっこのクッキーは違う味がする!)


「その能力の精度は八割といったところです。いままでも大抵の予知は当たっていました。

それがここ数年、現女帝が予知したある予言を境に、その精度、頻度ともに減少してきているのです」



「では、これからは今まで通り予言できなくなってしまうから国営が困難になっていく、というのが問題ってことですか?それを私に解決しろと?」



 私はクッキーを食べる手を止めることなくそう質問した。この味は癖になりそうだ。



「いえ、今までだって何も予言頼みで政治を行ってきたわけではありません。問題は、数年前に現女帝が予知したその予言の内容です」



「ほの内容とは?」



 私は空になってしまった袋に名残惜しさを感じつつ聞いた。



「『数年後に召喚される転拡者、彼女が持つ【異能】によってこの国は終わりを迎える。その転拡者は黒髪に、地獄の炎を抉り取ったような瞳の色をしている少女である。』という内容です」



「なるほど。その少女が私だから、この国を滅ぼさないようにお願いしたいってことですね………って!どうして私がこの国を滅ぼさなきゃいけないんですか!!」


(確かに こ の 私 を召喚したその現女帝に復讐しようとは考えているけど、そこまで大掛かりなことは考えてない!っていうか『地獄の炎を抉り取ったような瞳』って何よ!失礼にもほどがあるでしょ!!)



 私は苛立ちを顔に出し、空になった袋を彼女へと投げ渡した。



「そんなに怒らないでください。その予言の少女があなただと決めつけるのには現時点では情報不足です。黒髪赤目の少女なんてさして珍しくもない転拡者の見た目ですから。それよりも、先ほどの話に聞き覚えのない単語がありませんでしたか?」



 私は腕を組みなおし、彼女の話を思い出す。



「【異能】………ですか?」



「そうです。ここでの異能とは、この国の君主が召喚する転拡者、その者が最初から持ち合わせている能力のことを指します。要は、召喚される前から持っている特殊能力のようなものですね。たまにいるんです。虚機友導を与える前から魔法のような力を使える者が」



(そうか。この世界以外でも魔法に似た力がある世界だって存在しているわけで、その世界からこの世界に召喚された人間はその力を引き継げる場合があるってことね。あれ?でも私がいた世界にそんな力はなかったはず………)



「だから、この国の研究機関の者たちはそういったこの世界に存在しない異能を持つ者たちの力を記録しています。だから………」



「ああ、それ以上は言わなくてもいいです。要はあなたは現女帝の予言を聞いて、異能を持つ転拡者に注意を払うことにした。

 そこで、その研究機関の異能記録を参考に予言の少女である私を見つけたということですね」



「飲み込みが早くて助かります。しかし、不思議ではありませんか?あなたの能力は世界間移動。しかも、そのトリガーは『死』ですよ。どうやって、私はあなたが異能持ちだと確信したと?」


(確かに…………この能力は魔法とは違って人前で見せることなんてほとんどできない。それなのにあの夜の彼女はどうしてこの能力のことまで知っていた?)



 私は数秒考え込んだのち、今までの会話からある答えを導き出した。



「わかりました。王族が持つ予知の力、それは何も現女帝だけが持っているわけではない。

 あなたもその力を持っていた。そして、その力で未来に私がその記録にある異能を使っている場面を予知した…………そこから確信を得たということですね?」



「流石ですね。その通りです。半年ほど前です。その予知を見たのは。

あなたの異能は特殊ですからね。研究施設にある記録で見た時から強く記憶に残っていたので苦労はしませんでした。

その記録にはこう書いてありました。その異能を持つものは『死』をトリガーとして世界間を移動すると。一体どうやってそれを調べたのかは定かではありませんが。あなたに鎌をかけた時に確信しましたよ。そんなでたらめな異能が存在するということに」


「それで、あなたが見た予知の中で、私はどうなったんですか?」


「あなたは自殺しましたよ。そして、今日行われた試合のように復活することはなかった」





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