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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
35/41

第三十四話「決戦前夜」

 初勝利の日から約ひと月。時間はあっという間に流れた落ちた。この一か月間の特訓内容は、ヘルミナ達の情報はかなり前から集めていたため、ほとんど決まっていた。

 現在の時刻は午後九時過ぎ、明日に決戦を迎えた前日の夜だった。今は私の家の自室で最後の作戦会議を行っている。



「じゃあ、もしヘルミナたちがこのパターンで来たら…………」



 私たち三人は、大きな紙を床に広げ、その周りを囲うようにして床に座っている。三人の虚機友導をそれぞれの頭上に浮かべ、薄暗い部屋の中を魔法で照らしていた。

 アルシャの虚機友導は青色、リゼスは白、そして私のボドは紫色の光を発していた。



「その場合は、こちらのプランCですね。使う魔法は、これと、これ、フォーメーションは…………」



 今回の作戦の概要を直感的にわかりやすくマインドマップにして書き出した紙をアルシャが指さしている。そんな彼女の指の先をたどるように私は彼女に詳細を説明した。



「この作戦の場合もリゼスがやることはあまり変わりません」


「りょうかい」



 あぐらをかいて私の話を聞いているリゼスに向かって一応確認をとる。いつも通りそっけのない返答だが、その表情は珍しく真剣だった。




 しばらく作戦の確認を行っていると、部屋のドアに足音が近づいてくるのが聞こえてきた。その足音が部屋の前で止まると、一瞬の間の後に扉がコンコンとノックされた。



「どうぞ」



「失礼しまーす」



 私の返答にドアを開いたのはシヴィだった。彼女は温かい飲み物をお盆の上にのせて持ってきてくれたようだ。



「あ、シヴィちゃんありがとう!」


「ん」



 アルシャとリゼスがシヴィから飲み物を受け取ると、二人はこぼさないよう慎重に床の上に置く。私もシヴィから飲み物を受け取りそれを床に置いた。



「三人とも、勝算はどれくらいですか?」



 私たちに飲み物を配り終えた彼女は、お盆を胸に抱えながらベッドに座っていた。

 私が彼女と出会ってからもうすぐ一年。出会った頃はまだ、言葉もたどたどしい感じの幼女だったのに、今では難しい言葉も覚え、背も少し伸びたような気さえする。いや、背は実際に伸びているか。



「そうね。五割あればいいほうかしら」



「えー!そんなに低いのー!!」



 私の返答を聞いた彼女は、ベッドの上で足をばたつかせると、久しぶりに年相応な反応を見せてくれた。



「そういえば、レイってシヴィと話すときは敬語あんまり使わないよね。ボクたちには使うのにさ」



「確かに」



 アルシャとリゼスは口にコップをつけ、ずずずーっと飲み物を飲みながらジト目で私をにらむ。



「それは、ここにやってきたときに、シヴィからそう言われたから意識的にやってるだけです。私は無意識では基本的に誰に対しても敬語ですよ」



「へへーん。シヴィは特別なんだよ~。お姉ちゃんたち」



 シヴィが勝ちほかった顔を浮かべると、アルシャとリゼスは二人の虚機友導をシヴィの顔の近くまで浮遊させ、魔法を点けたり消したりしながら彼女をからかっていた。



「そろそろ、いい時間ですね。明日は大事な日ですから。この辺で解散して早めに寝ることにしましょう」



 シヴィがベッドの上で二人の虚機友導とじゃれつくのを見ながら、私はアルシャとリゼスに向かって言った。



「そうだね。明日は命運の日だからね!!」



「うん。もし、明日勝てなかったら、私たちの虚機友導は売り飛ばされて、私たちはただのごみ屑同然に…………」

「やめてください、リゼス」



 ガッツポーズをしていたアルシャの顔がみるみるうちに青ざめていくのを見つめながら、私はリゼスを止めた。


 でも実際、明日勝てなかったらリゼスが言っているように、私たちはデマルクスとの契約を果たさなければならない。私たち三人の虚機友導を担保にしているから彼はこちらに情報を流してくれていたのだ。


 最悪の事態はいつでも想定しておかなければならないが、このことに関しては試合が終わるまでは考えないようにしておこう。




 ---





 家を出た私たち三人は、いつもの分かれ道で別れた。今日はいつもより冷える一日だったので、私は二人をここまで送ることにしたのだ。



「それじゃあ、二人とも、また明日ですね」



「明日は、かますよー!!おやすみ、レイ!」



 アルシャは元気よく手を振りながら、満面の笑みでおやすみを言ってくれた。彼女の顔を見ると私の中の不安な気持ちがどんどん薄まっていくのを感じる。



「しっかり寝なきゃだめだよ、レイ」



 アルシャとは対照的に、その端正な顔立ちでリゼスは私の心配をしてくれた。



「わかってますよ」



 そんな彼女の顔を見て、『お姉さんがいたらこんな感じなのかな』などと考えながら、私は返答する。


(うーん、でもお姉さんにしては少し知性に欠けるか…………)





 二人を見送った後の帰り道、すっかり暗くなった街道を照らすのは、等間隔で火が消され、ぽつぽつとした街灯と夜空に光る星々だけだ。


 私が暮らしていた世界の星空よりも、ブルーが目立つそのキャンパスの上には、誰かが絵の具を筆から飛び散らかしたかのようなカラフルな星々が煌めいていた。この空を見ると、やはり私が暮らしていた宇宙とは別の宇宙、物理法則が異なる世界に来てしまったことを再認識する。



「ねえ、今空に浮かんでる星の数、全部数えなさい」



 明日試合に負けたら、この虚機友導ともお別れになってしまうと一瞬考えた私は、ボドに対し無茶ぶりをした。



『イチ、ニイ、サン…………』


「冗談に決まってるでしょ、ばかね」



 真面目に数え始めたボドに微笑みと、私は歩き始める。


 しばらく、歩いていると、その違和感に気が付いた。足を止めた私は、後ろを振り返り、彼女の顔を見る。



「何か用ですか?」



 私が振り返るのとほぼ同時、歩みを止めた彼女も私の目を見つめ返してきた。星空に照らされているせいか、琥珀色の瞳はさらに輝きを増し、彼女の纏う金枝玉葉のオーラにさらに磨きがかかる。



「ええ。散歩をしていたらたまたま見かけましたので。少し、お話をと……」


(へーたまたまですか。こんな時間に散歩なんてありえないでしょ。いったい何が目的?)

「お話は明日にしませんか。明日は試合が控えていることですし、私は早く帰って寝たいです」


(あちらから仕掛けてきたということは何か狙いがあるはず、ここはすぐに立ち去るのがベストね)


 そう考えた私は彼女に踵を返す。



「…………、そういえば先ほどは楽しくお話しされていましたね。その、虚機友導(ボイド)と」



 彼女の挑発的な声に私は歩みを止めた。


(…………聞かれていた?としても、焦る必要はない。別にごまかせばいいだけの話よ)


「実は私、妄想癖があって、こうやって自分の虚機友導とよく話すんですよ」



 冗談めかしながら、私は彼女のほうへと振り返る。


 しかし、数秒もしないうちに、私はそのことをひどく後悔した。身体全体に悪寒が走る。


 どうして私は、あのまま立ち去らなかったのか。彼女に言われっぱなしなのが気に食わなかったのか?

 もはや、


 誰もいない、薄暗い街道でヘルミナ・ヘル・アミナと私の二人。二人の間には嫌な緊張が走っていた。


 私は、一刻も早くここから立ち去ろうとする。しかし、彼女の瞳から目を逸らそうとしても、逸らせない。これも、魔法の一種か?



「あちらでの私はうまくやったようですね。しかし、こちらではそうはいかなかった。やはり、鍵はファントン・ループとその仲間でしたか」



「な、なんの話ですか………」



 なんとかポーカーフェイスを保ってはいるが、あとどれほど耐えられるかわからない。



「ほら、私はこの世界の神の血縁者ですから。ある程度のことには見通しがつくのですよ。例えば………そう、世界間を移動できる者の存在とか。」



(まさか、彼女は私の力を知っている?ということは、あの事件の原因も………)



「まあまあ、そんなに怖い顔をしないでください」



 彼女に指摘され、私は完全にポーカーフェイスを失っていたことに気が付いた。握りしめた拳からは血がにじんでいる。



「その表情から察するに、あちらではあなたをお仲間さんごと殺してしまったのでしょう。しかし、安心してください。明日の試合の結果次第では、私があなたを殺すことはありませんから」



「結果次第では?あなたはいったい何を伝えにここに来たんですか!目的は!」



 二人が殺された時のことを思い出し私は激昂する。この時点での私は完全に彼女のペースに乗せられてしまっていた。疑問なこと、知りたいことが多すぎて駆け引きまで頭が回っていなかった。



「黒義院レイ。明日の試合、辞退しなさい。そうすれば、命だけは保証します。そうですねー、学園を卒業後の仕事も斡旋しましょう」



「それが目的ですか」



「ええ。無駄な争いごとはしたくありませんから。勝敗も初めから決まっているようなものですし」



 先ほどまで完全に彼女のペースに乗せられていた私は、彼女の要求、その内容を聞いて我を取り戻した。


(そうだ、私は黒義院家の人間じゃない。フルネームで呼ばれるのが久しぶり過ぎて忘れかけてた………)


 家名を思い出した私は、よくお父様が言っていたことを思い出す。


(『優位に立つ相手がこちらに何か要求をしてくるということは、相手にとって都合が悪いことがあるからだ。決して高貴さの強制などではない』か………)


 お父様の言葉を思い出した私は、彼女の瞳を自らの意思で、じっと見つめる。



「でも、おかしな話ですよ。それは」



「…………」



 私は黒義院家の長女として、この世界の王族に食い下がった。



「だって、この要求にはあなたにメリットが無さすぎる。デメリットのほうが多いくらいです。確かに、あなたは確実に試合に勝つことができますが、どう考えても私たちを圧倒して勝利したほうが政治的にも良いこと尽くめのはずです。

 明日は各国から著名人たちが試合を観戦にやってくる。その中には政治に関わる者が多いでしょう。

 次代のアミナ帝国の戦力はどれほどの力を持つのか、アミナ帝国の王族の力はどれほどのものなのか………」



「…………」



 彼女からの返答は無い。しかし、その表情は不機嫌なものへと変わっていた。



「これ以上ないチャンスですよね?あなたが、その力を存分に発揮すればこの国に大きく貢献できる。それなのにどうして、私なんかに八百長を申し込むのですか?まさか………」



「やめなさい」



「負けるのが、怖いんですか?」



 二人の間に、しばらく沈黙が続く。最初に口を開いたのは彼女だった。



「転拡者ごときのあなたには、わかるはずもありません。上に立つ者の責務が」


「ええ、そうですね」



 その鋭い瞳で私をにらんだ彼女は、踵を返し立ち去って行った。その後ろ姿を見つめながら、私はボドに話しかける。



「勝敗は?」


『レイサマノ………カチ!!』



 こうして、二人だけで行われたエキシビションマッチの勝者は私になった。しかし、そんな私の心にはいくつかの疑問が残っていた。

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