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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
33/41

第三十二話「まあ、こんなもんよ!!」

 その後一ヶ月間私達が何者かに襲われることはなかった。平和と特訓に満ちた日々を私達は送っていた。そして、とうとうその日が訪れることになる。



『今月の対戦カードは『絶壁』と『君臨少女』だああーあ、あれ?』



 実況席で叫ぶ一般生徒もその対戦カードに困惑している。



『どうしてあいつらが選ばれてるんだ?』



『おい!!誰だよ君臨少女に投票したやつ!つまらない試合なんて俺は見たくないぞ!』



『………………………』



『クソ!これじゃあ今年の年末、ヘルミナ様と誰が戦うんだよ!』



 仮設テントの下で、そんな声を聞き流しながら私達は座りこみ、ふとももに抑魔リングをつけ試合の準備をする。

 今日は快晴だ。気分がいい。

 それに、これから起こることを考えるだけでも私の気持ちは晴れやかになった。


 そんな私達の近くまで、余裕の笑みを浮かべて絶壁のメンバーがやってきた。最初に話しかけてきたのはリーダーのリーンハルト・アーレンツだ。左右には、ジーナイン・ジーゲルとメリスタ・テナントがいる。



「どうしてこうなったのかはわからないけど、本気で行かせてもらうよ!君達」



 赤いショートヘアーをしたその人は、その愛らしい青色の瞳で私達を見おろす。一見すると、端正な顔立ちをしたとてつもない美少女だ。可愛さならアルシャにも引けを取らない。



 だが、男だ!



 騙されてはいけない。リーンハルト・アーレンツはその名前から連想できるように、男であった。あらかじめ私のように情報を得ていなければ十人中九人はそのことに気が付かないだろう。



「でもさ、リーンハルト。本気出すまでもないっしょ。私達だけでなんとかなるし」



 そう言ったのはメリスタ・テナントだ。金髪に生意気そうな顔をした彼女はアルシャの方を見て、笑っている。それに対しアルシャはムスッとした顔をしただけで言い返すことはしない。過去に何か因縁でもあるのだろうか。



「調子に乗ってはいけませんよ。メリスタ。正々堂々真っ向から勝負しましょう。獅子はドブネズミを狩る時であっても全力を出すものです」



 そう言ったのは白髪のポニーテールをした美少女、ジーナイン・ジーゲルだった。彼女もまた、笑みを溢しながらリゼスの方を見つめている。そんな彼女に向かってリゼスはいつも通り無表情だ。こちらも何かあったのだろうか。


 靴紐を結び終わると、言いたいことを言い終わった彼女達の前に私は立ち上がった。



「正々堂々いきましょうね!『絶壁』の皆さん」

(まあ、こっちは事前情報でガチガチに対策してますけど)



 目を瞑り笑顔でそう言った私はリーンハルトに握手を求めた。



「ああ!正々堂々いこう!」


 そう言った彼女…………ではなく彼は私の手をぎゅっと握った。


 その後絶壁のメンバー達は対戦場の片側へと向かって行く。


 その背中を見送ると、私は二人の方へと振り返った。



「二人とも相手の挑発に乗らないでくれてありがとうございます」



「あのくらい平気」



 そう言ったリゼスは腕を上げ、ポニーテールの紐をギョッと力強く締めた。



「『試合が始まる前から、“闘い”は始まってる』だよね!レイ!」



 そう言ったアルシャは手にはめる皮の手袋をぎゅっと引っ張った。


(その通り。この試合が公表されるずっと前から、文字通り私たちの闘いは始まっていたのよ!!)



 私は今日までの十ヶ月間を思い出しながら、右肩の上辺りに浮遊しているボドを見つめた。


『イケマス!レイサマ!!』


 その声が頭の中に響くと、靴をトントンと地面に打ちつける。



「では、私達もいきましょうか」


「うん!」


「りょうかい」



 対戦場の絶壁が立つ逆側の位置へと向かい合うようにして私たちは立つ。各々の準備が整い、結界を張る先生の一人に、私とリーンハルトが合図を送ると試合は始まった。


『それでは……はじめ!!』




 試合が始まるとすぐに私たちは駆け出した。向かう先は絶壁……ではない。対戦場から離れ、分散する。

 アルシャは第一棟の北側、第三棟側に近い入口。

 リゼスは学園の南、校門に近い入口。

 そして私は対戦場に最も近い、第三棟と校門の中間地点にある第一棟入り口手前で待機する。



『おい?あいつら対戦場から降りたぞ?』


『え?これって負けじゃないの?』



 観客席から聞こえてくる声はそんな私たちの行動を不可解に思う声だった。それも無理はない。ある土俵が用意されている以上、人はその上で戦わなければいけないと思ってしまう。ついつい、魔法や剣技のぶつかり合い、相手をどちらが先にノックアウトするかに注目しがちになってしまうが、ルール確認は大事だ。


『場外ではありません!!!アミナ式試合儀礼法によれば、対戦場外による失格に関する記載は一切ありません!!!まさか、僕以外にもこのルールブックを読んでいた人がいたなんて……』


 実況の一般生徒がその机から身を乗り出し、興奮した様子で声を上げる。


 約2000年前、各国にアミナ帝国の次世代の戦力を誇示するためにこの対戦試合が始まった当時に作成されたであろうルールブック。そのルールブックには、対戦場外に出たものは失格となる、なんてルールは書かれていなかった。

 目の前にいる相手を先にノックアウトした方が勝ちというわかりやすいルール以外に、詳細なルール説明なしにこの試合は始まる。そのことに違和感を覚えた私は、後期に入ってから学園の図書館に何度も足を運び、ルールが記載されている本を探していたのだ。使えるものは何でも活用したい。暗黙の了解で定められた縛りが存在すのなら、正式なルールブック、もしくはその原典を持ってその穴を突くことができないのかと考えたのだ。



「まさか、いままでルールも確認しないで戦闘していたんですか?雰囲気だけで?私は隅々まで確認しましたよ?ルールブック」



 私は得意げな顔で絶壁の三人を煽った。


 対戦場外に出ることにより、結界魔法はどうなるのかという疑問も浮かぶかもしれない。確かに、結界魔法の範囲外に出てしまえば抑魔リングの効果は得られない。結界魔法と抑魔リングはセットでその効力を発揮する。


 しかし、その点に関しては問題ない。


 仮にもこの対戦、アミナ帝国の次代の戦力達を各国に見せつけるこの機会。そのために集められた教師たちは結界魔法に関してはプロ中のプロ。アミナ帝国でも選りすぐりの結界魔法使いたちだ。

 一応、トノア先生にも確認は取った。彼によれば、今いる教師だけでこの学園程度の大きさなら結界で覆うことができるらしい。

 結界を張っていた三人の教師は目配せをしながらその範囲を広げていた。


 私の煽りを受けた対戦場内にいる絶壁のメンバーたちは、きょとんとした顔でこちらを見つめていた。



「正々堂々勝負といいましたよね?一対一でやりましょう」



 私はリーンハルトの顔を見つめるともう一押し、挑発した。彼らがこの挑発に現段階で乗ってくるかは五分五分といったところだ。

 しかし、挑発に乗ってこなかった場合は第一棟内で彼らが向かって来るまで永遠に待機するするつもりだ。この試合に時間制限は設けられていない。


 しかも相手は二番人気の格上、実力者だ。ここは挑戦者の強みを生かさせてもらう。

 もし挑発に乗ってこなかった場合でも、否が応にでも会場の雰囲気はリーンハルト達が私たちの挑発に乗らざる得ない雰囲気へと変わるはずだ。今回の試合で観客が求めてるのは、格上のチームが気持ちよく格下のチームを倒し、その実力を再提示することだ。


 そんな周囲の観客たちの雰囲気を感じ取ったのか、リーンハルトの隣にいた、メリスタ・テナントがアルシャのいる方向を見つめながら言った。



「私達、完全に舐められてるよ、リーンハルト」



 金髪がなびくその顔にはいら立ちが募っている。



「各個撃破できると思います。ここは挑発にのるべきです」



 ジーナイン・ジーゲルもリゼスの方向を向きながら、そうつぶやいた。彼女は自信ありげなニヤ笑いを浮かべると、それと対峙するかのように、リゼスも余裕そうな表情をして待機している。



「一対一か……。君たち、なかなか度胸があるね!!!」



 しばらく腕を組みながら目をつむり考え込んだリーンハルトは、グイッと顔を上げると、その苛烈な赤髪をなびかせた。

 どうやら挑発は成功したようだ。強者の余裕か、対戦場内にいる三人は緊張感のない表情をみせながら、散開した。

 リゼスの方向に向かうのはジーナイン・ジーゲル。

 アルシャの方向に向かうのはメリスタ・テナントだ。

 そして、私の正面にはリーンハルトが向かって来る。そのことを確認した私は、第一棟の中へと入りこんでいった。



 ---



「安心してください。別に何か罠を校舎の中に仕掛けているわけではありませんので」



 第一棟の中央にそびえる螺旋階段を駆け上り三階に上ってきた私は、その広い廊下でリーンハルトと対峙する。



「こういうのも悪くないね。いつもは観客がいるから、どうしても意識を集中させづらい」



 彼は周囲を警戒しながら、いまだ余裕あり気だ。



「でも……一対一ということは、君にはかなりの自信があるのかな? それともただの命知らずか……」



 無駄話は不要だったのか。目をカッと見開いた彼は一気にその顔を戦闘モードへと移行し、こちらに急速接近してきた。



「絶壁」、彼らがこの学園の転拡者の中で実質的な一位の実力を持つのには理由がある。ちなみにヘルミナ達は生まれた時からこの世界に慣れ親しんでいるため転拡者のカウントには入らない。


 絶壁の彼ら三人は、三人とも虚創士に分類されているが、実際は虚遷士としても十分な腕前を持っている。彼らは三人ともオールラウンダーなのだ。

 しかし、現在では、その連携力を生かし、リーンハルトが風属性の盾を展開し、ほか二人で戦況を動かしていく戦法が最も効率的に敵を撃破できるため、デマルクスからの初期の情報に載っていたスタイルに落ち着いている。もしかしたら、一位であるヘルミナの絶対的火力に対抗する意識もあるのかもしれないが。


 この虚遷士としても虚創士としても戦える余裕こそが、彼らとそれ以外のパーティーとの実力の違いだろう。なんだかんだ、両刀でどんな状況にも臨機応変に対応できるのは強い。



 私は瞬時にボドを黒臨緋へと変化させ、空中から落ちるその刀を右手でキャッチし、私の方に向かってくる彼の虚機友導を観察する。魔力を目に込め、周囲の時間が遅くなるのを感じながら観察するが、その虚機友導に動きはない。


(ということはつまり、カウンター狙いか………)


 彼の狙いにある程度の予想を立てた私は、敢えてその狙いに乗ることにした。彼らに対する対策を組んでいたことがバレるのにはまだ早すぎる。


 黒臨緋を逆手に持ち替えると、私も彼との距離を詰める。その苛烈な赤髪が迫りくるのを感じながら彼との距離が1メートルほどになった地点で、私は逆手に持った刀を右から左へと振り抜いた。すると、狙ったタイミング通り彼と私との距離は腕一本分まで縮まり、私の剣筋が彼の首を捉える。

 しかし、その刀が彼の肌に触れることはない。

 刀に伝わる鈍い振動から、彼の張る風属性の目で捉えることのできない壁で防がれたことを確認すると、彼とすれ違う様にして、そのまま前へと全速力で走り抜けた。



「おーー、上手く流したね」



 背後から聞こえてくる声に振り返ると、今さっき私が彼と衝突した地点、その廊下部分がぽっかりと抉られて無くなっていた。そこには半径一メートルほどのクレーターができ上がっている。

 その光景を目にすると事前情報で知っていたにも関わらず、背筋がゾッとした。いくら、抑魔リングで守られているからと言ってもこれはオーバーキルすぎる。



「よーし、じゃあ次はこっちから行くぞ!!」


「【常闇】」



 彼がこちらに殺気を向けてきた瞬間、私は目眩しの魔法を発動する。刀に闇属性の虚原素を集めると虚空に向かって振り向いた。

 すると剣筋をなぞるように黒い線が空中に生まれる。その線から噴き出すようにして黒い煙が溢れると辺り一面が闇に包まれた。これはエッタ・リオースが持っていたあの黒い本に記されていた技の一つだった。



「おーーい、これで逃げたつもりかーい?こんなの一瞬で吹き飛ばせるぞー」



 技を放った後、私はすぐに近くにあった教室の中へと逃げ込んだ。中には誰もいない。廊下から溢れる黒い煙が教室の中に侵食してくるのが見える。引き戸に背中をつけ息を殺していると、コツコツと彼が廊下を歩く音が迫ってくる。チャンスは一度だ。タイミングを間違ったらゲームオーバーだ。



「やっぱり煩わしいなぁ」



 彼の声が聞こえた瞬間、教室にドバッと黒い煙が廊下から入り込んできた。教室に入った煙のその濃度は徐々に薄れていく。おそらく彼が風魔法で一気に吹き飛ばしたのだろう。



「あ、見つけたよ!」



 彼がその言葉を放った瞬間、私は黒臨緋を強く握り締めた。付与する属性は火だ。刀身が内側から徐々に熱くなるのを感じる。



「これで終わり!!」



『ジャシンッッ』と鋭い音が聞こえると私は廊下に飛び出した。廊下に飛び出すと、リーンハルトの背中を捉える。

 廊下に立つ彼の目の前にある教室には、三本線の斬り込みが地面と平行になる様にして入れられていた。勘違いをした彼は、おそらく教室ごと切断したのだろう。この状況なら私でもそうする。


 ただ立ち尽くす彼に向かって私は刀を構えながら走る。大袈裟に刀から煌めく炎を滾らせると、ようやく彼も私が後ろの教室にいたことに気がついた。 



「火っっ」



 その顔色に確かな焦りを確認した私は、刀に纏わせた炎を彼に向かって放った。すると、彼はぎこちない動作でその炎をなんとか風魔法で消散した。



「アッツ、熱いッ」



 しかしわずかに残った火の粉が彼の制服にまとわりつくと彼の動揺は更に大きくなった。そんな彼を見つめながら私は照準を彼に合わせる。集めるのは得意な雷属性の虚原素だ。この状態で防がれることはないと思うが、念の為、今持つ最大火力を彼にぶつける。



「【雷鳴閃】」



 刀を振り抜くと轟音と共に紫色の稲妻が一瞬、彼に向かって走った。



「あ、あ、うっ」


 その斬撃をモロに受けた彼は電池が切れたかのようにしてその場の膝から崩れ落ちた。

 先ほどまでの緊張感が体から抜けていくのを感じる。



「…………まあ、こんなもんよ!!」



 私は腰に手を当てて廊下の中央で勝ち誇った。私の声が廊下にこだまする。周りに人はいない。いるのは目の前で倒れるリーンハルト・アーレンツだけだ。



「……とりあえず確認しますか」



 勝利の美酒に浸り終わると、すぐに気持ちを切り替えしゃがみ込み、彼の真っ白い首筋に手を当てる。



「大丈夫みたいですね。それにしても素直な性格で助かりました」



 彼の生存を確認すると立ち上がり、私は三本線の斬り込みが入れられた教室の引き戸を廊下に立ちながら開けた。


 本来教室の引き戸はどの階でも閉じた状態になっている。だが、この三階だけは違った。あらかじめ私がこの階の引き戸を全て開けておいたのだ。

 おそらく彼も戦闘中、その違和感に気付いていただろう。しかし、彼によって斬り込みを入れられてしまったこの教室の引き戸だけは違う。ここだけは意図的に閉めた状態にしておいたのだ。彼がこの教室に私がいると疑うと信じて。

 常闇で視界を奪われた彼の目に入ってくるのは、扉が閉じられた教室。その教室に逃げ込んだと一瞬でも彼が考えて、背中を見せてくれればそれでよかった。そうすれば後は、彼が苦手意識を持つ火属性の魔法で不意打ちをすることができる。



「うわっ」



 教室の中を覗くと、窓際まで地面と平行の三本線が入れられていた。見るも無惨な光景に私は唾を飲み込んだ。彼はこの教室のどこに隠れていても攻撃が当たるよう、かなりの威力で斬撃を放ったようだった。


 教室に入った私は窓際まで歩き対戦場を見下ろした。すると、ちょうど決着が着いたのか、観客からは歓声が上がっていた。


 観客が注目する対戦場の上に立つ人物を見て私はほっと安堵した。




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