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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第二十七話「再認識するヤバさ」

 今日もいつも通り朝の特訓を終わらせて、私たち三人は学園へと向かっていた。特訓の内容は正直地味なものばかりだ。この学園ではパーティー同士の試合以外での衝突は御法度であるため、対人戦の練習をすると言っても相手がどんな動きをしてくるのか自分達で想像してシミュレーションするしかない。


 デマルクスから定期的に各パーティの情報を得ている私はその点で大きなアドバンテージを持って特訓のメニューなどを考えることができるが、他のパーティーはどうしているのか疑問に思うことがある。まさか『爆滅』みたいに無計画なんてことはないよね。



「はあわあ、ボク少しはこの時間に起きるの慣れたと持ったんだけどなー、やっぱりまだ眠いや」



 左を歩いていたアルシャが大きなあくびをしながら目を擦った。



「あと半年ほどの辛抱です。私達が本領発揮するのは後期になるので、それまでコツコツと特訓を進めましょう」



「みんなを驚かせたいよね、スカッとしたい」



 右側を歩いていたらリゼスは拳を握りしめていた。彼女のスカッとしたい気持ちは痛いほどわかる。今の私達は正に受験生の様な生活を送っている。コツコツと毎日特訓を続けて、勝てる保証のない試合に挑む。


 そしてその対戦相手も日々強くなっている。傾向と対策をしっかりと立てて特訓メニューを続けてることができればきっといい成果が出るはずだ。



「そういえば、今月末の試合は十中八九『正統なる冠掠』と『絶壁』の試合になるとデマルクスが言ってました」

 


「ってことは一番人気と二番人気と対決だね。確かに長期休暇前はいつもこんな組み合わせだった気がする」

 


 今月が終わると一か月間の長期休暇に入る。そのため、一般生徒は休暇に入る前にド派手な試合が見たいのだろう。


 学園内の第一棟に入り廊下を進んでいると、廊下の中央に立つ人影が見えた。


(どうして廊下の真ん中に?)


 第一棟はその広さに対して転拡者の数が異常に少ないので、ポツリと立つその人影は何だか不気味だった。



「あれってファントンじゃないかな?」



 私よりも先に気がついたアルシャがそう言った。確かにあのシルエットはファントン・ループだ。ボサっとした髪に青い瞳が暗がりの中わずかな光を反射している。



「ッッ!?」



 進行方向前方、彼のいる方向に向かって歩いていると、突然、何の前触れもなくリゼスが私の身体を抱えて地面へと伏せた。


 私に覆い被さったリゼスは鋭い眼光でファントンのいる方向を見つめている。その頬には微かに血が流れていた。



「アイツ、レイに向かって矢を放った」


(矢を放った?でも、私には何も見えなかった………っていうか何で私に矢を放つわけ?)


 ゆっくりと近づいてくるファントンに向かってアルシャが叫んだ。



「そこで止まって!!これ以上はこっちも容赦しないよ!」



 アルシャの虚機友導はその形を変形させ、中央にある青い瞳から展開された水の塊達は戦闘態勢に入っていた。普段は何も感じない学園の廊下に緊張が走る。



「お前達二人に用はない。用があるのは黒義院冷、お前だけだ」



 徐々に近づいてくるファントンを見ながら私は立ち上がる。

 アルシャを手で制止すると彼との対話を試みた。



「用って何ですか?対話なら喜んでしますが、いきなり矢を放つというのは、少し野蛮ですね」



 制服についたホコリを手で払いながら私は彼から目を離さず、彼の死角でゆっくりと、自分の背中をつたうようにボドを腰の位置まで移動させていた。



「俺と今、ここで、戦え」


「戦うって、それは校則で禁止させられてますよね。それよりもとにかく話し合いを――」



 彼の目からその本気度を感じ取った私は回避体制に入りつつ、対話を試みようとしたが、その言葉は無慈悲にも突然の轟音によって遮られた。



「返答は求めてない」



 ゴゴゴゴッっと迫り来る轟音と共にガラスが揺れ、廊下の左側、学園の中央が見えるガラス越しに、上の階からその龍はこちらに迫って来た。



「レイッ!!」



 轟音のせいで誰が叫んだかわからないが、アルシャとリゼスの顔は私の方を向きながら何かを訴えていた。

 いきなり左側から壁を突き破って突撃してきた龍によって、私の体は教室と廊下を隔てる壁を貫通した。咄嗟に黒臨緋を握った私は何とかその龍の突撃を刀を盾にすることで防ぐが、体は押し出されてしまう。


(まずい、このままじゃ、学園の外に…………)


 魔法学園は高台の上に建設されている。一階からでも街を見下ろせるその標高は地上何メートルなのだろうか。

 その虚原素の塊はなおも勢いを止めることなく、教室の壁を打ち破り、私を学園外へと押し飛ばした。



 空中に投げ出された私は浮遊感を感じながら何とか体勢を整えようとする。


(この高さなら……………ギリギリかッ)


 着地地点を定めると刀に風属性を纏わせ、空中で移動する。あの日以来感じたことのなかった風が全身を吹き付ける。


 地上を見据えながら、刀身を中心として刀に風を纏わせ、その風を送り出し方向転換を行なっていると、頭のすぐ横を矢がかすめた。


(まさか………)


 振り向いて、私が押し出されたことによってできた学園に開いた穴を見ると、矢を放ったファントンがそこから飛び降りていた。


(正気かコイツッ)


 矢をつがえたファントンは何発もその矢を、スカイダイビングをした状態のまま放ってくる。それを目で捉えた私は背中を地面に向け、その矢を刀で弾いた。


(うっとおしいい!!!)


 何発か矢を放った後、ファントンは空中で姿勢を変え空気抵抗を無くすと、そのまま下にいる私に向かって一直線に突っ込んできた。ファントンが私の高度まで追いつくと、刀と彼の弓でつばぜり合いをするようにして、私達は地面へと落下した。




『な、何の音だ?』


『学園の方から誰か降ってきたぞ!!』






「いったああ」


 何とか落下直前に魔装を全身に纏わせることができた私は、首をさすりながら周りを見渡す。どうやら倉庫の様な場所に落ちた様だ。上を見上げると私が作った穴が屋根の上にぽっかりと開いていた。


「星龍」


 倉庫の地面に写る影を見ながら、穴が開いた天井の上にいるファントンの存在に気がついた私は、咄嗟にその範囲攻撃を避ける。


(とにかく外に出ないと………)


 倉庫の扉を開ける時間すら惜しいと思った私は、壁を刀でぶち破り倉庫の外に出た。すると、目の前に見えたのは、人集りの多い街道だった。


(最悪だ……このままじゃ巻き込むことに……)


 倉庫の中へと戻ろうとする私の退路を塞ぐ様にして、屋根の上からファントンが矢を放った。



「ストックは、あと二つある」



 天井にいるファントンがそう呟くと、彼の背後から先ほどと同じ龍が降り龍の様にして迫ってきた。



「周囲の人間はお構いなしってことッ!?」



 私は周囲にいる人間にこの危機的状況を伝えるため、街道にわざと出た。




『きゃああああああああ』


『おい!早く逃げろ!』



 上からファントンの龍が迫ってきたおかげで、周囲の人間は素早くこの状況を察知できた。

 街道の中央付近まで逃げると、周囲を確認して私は技を放つ準備をする。


(これは、とっておきだったけど……仕方ない……)


 刀を左手で作った半円の鞘に収める様にして抜刀体勢に入る。私は左手に雷の虚原素を集め、右手からは風の虚原素を刀へと流す。イメージは私を中心として広がる波紋だ。



「【抜刀・紫雷霆】」



 私が腰をくねらせる様にして回転力をつけ刀を振り抜くと、紫色の稲妻が地面から75°ほどの角度でその先を龍に向けながら円を描いた。その攻撃をモロに受けた龍は掻き消され、地面には抉られた跡が残る。



「頭上のもう一頭はどうする?」



 真上を向くと、もう一頭の龍がこちらに向かって、一直線に落下してきていた。


(なら、秘密兵器を使ってやろうじゃない!!)


 戦闘状態でアドレナリンドバドバだった私は、出し惜しみなく新技を繰り出そうとする。そんな私を見てファントンは弓を引いた。




「貴方たち、バカなんですか?」



 カシャカシャという鎧の音が聞こえたと思ったその瞬間、一瞬で目の前に銀髪の少女が現れた。私の目の前に立った彼女へと、ファントンが放った矢が向かうが、彼女の周囲五メートルほどで消滅する。彼女が頭上から迫る龍に向かって手を掲げると、私の黒臨緋がグニャッと歪み、龍は泡が弾ける様にして消えた。



「……今月末は試合があるということで帰ってきてみれば、街中で転拡者どもが争いを起こしている……。校則はご存知ですよね?学園外だから適用されない、というわけではないのですよ?」


 彼女はファントンに顔を向け、次に私の方を向いた。その顔は忘れるはずがない。あの時と同じ冷淡で見下す様な目を彼女は私に向けていた。そこに立っていたのは、ヘルミナ・ヘル・アミナだった。



「いや、これはファントンが勝手に――――」



「この期に及んで言い訳ですか?私には貴方が戦闘を楽しんでいる様に見えましたが?」


(ま、まあ、確かに他のパーティーメンバーとやり合う機会は無いから、自分の技が通用するか試してたとこはあるけど……あるけどもっ)



「……すいませんでした」



 私は素直に謝ることにした。彼女のことは嫌いだが、今回の件に関しては私にも非があるのは事実。完全な被害者だけど、実際に戦闘行為をしてるわけだし。



「またそうやって………………」



 倉庫の天井の上から見下ろしていたファントンは、憎悪の感情を先ほどよりもさらにその顔に募らせ消えていった。ヘルミナは彼がいた場所を数秒見つめていた。



「今回のことは不問とします。人的被害は出ていない様ですから。その道は貴方が直してください」



 視線を私が抉ってしまった街道に向け、事務的にそう伝えたヘルミナは、私に一瞥すると颯爽と足早にその場を立ち去った。



「………………………………」



 無表情で彼女を見つめていた私は地面にしゃがみ、抉り取ってしまった街道を魔法で治す。


(……………これじゃあ、委員長に怒られて、罰で雑巾掛けする問題児じゃない!!)



「何で私だけなのよおおおおお」



 地団駄を踏みながら私はぶつけようのないストレスを空に向かって叫んだ。








 そんな出来事から数日後、今学期最後のパーティー戦が行われた。何とかファントンと話し合おうと彼を学園で探したが、あの日から『喰龍射』が学園にくることはなかった。



「この攻撃を絶壁は防ぐことができるのかあああああッッッ!」



 一般生徒の解説が興奮している。今対戦場では、絶壁のリーンハルト・アーレンツが展開した透明な風の壁を、ヘルミナの白滅流から放たれた強烈無慈悲な斬撃が破ろうとしていた。試合が始まって、三十秒ほどだが、それだけで学園は大盛り上がりを見せていた。攻撃を壁が防いでいるだけなのに。戦術も作戦もあったもんじゃない。ただの矛と盾のぶつかり合いだ。


 その衝撃波によって生み出された風が学園中の窓を震わせると試合は決着した。



「あー終わっちゃったあ」



 アルシャが今回も屋台で買ったホットドッグを頬張りながら呟いた。



『おおおおおおおおおおおおおおおおお』


『流石ヘルミナ様だあああ』



 観客たちはこの結果にご満悦の様だ。まあそりゃ自分達の国の王族が強いのは何より安心できることだけど………



「ゴリ押しすぎでしょ」



 呆れた顔で私はそんな感想をこぼした。あの火力にあと半年で追いつけるのだろうか。そんな疑問が一瞬頭の中に浮かぶ。


(あーダメダメ。ネガティブなことは考えるな。私達は上手くやれてる。私が無理でもリゼスなら何とかアレに対抗できるかもしれないじゃない!)



 頭を横に振りながらそんなことを考え、リゼスの方を私は向いた。リゼスさんならいけますよね?



「ヤバ」



 無表情で試合を見つめていた彼女の口から漏れた言葉は『ヤバ』だった……………。このヤバはどう捉えるべきなのだろうか。今食べてるものが美味しすぎてヤバい?それとも今見た試合と自分の実力を比べてのヤバい?それともただ単に何かがヤバい?何かがヤバいって何だ。



「と、とりあえず、今見た試合から得られた情報を……」



 いつも通り試合後レポートを書こうとペンを取るが、そのペン先は紙に触れることなく停止した。今の試合から得られた情報は『ヘルミナヤバい』だけだった…………










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