第二十五話「これが爆滅!!!」
なんとかユーリウスとジョルトに回復魔法をかけ応急処置を施した私たちは、二人を背負ってユティの救護院へと向かった。現在負傷した二人はユティに回復魔法をかけられた後、そのまま床に寝かせられている。『これは特別報酬だからね』と言ってユティは二人に回復魔法をかけてくれた。
「そ、その、ごめんなさい…」
救護院の中にあるベンチに座っていると、隣に座っていたブレイクが俯きながら呟いた。一体誰に向かって謝っているのだろう。
「……あの時は言い過ぎました。私も焦ってしまって」
私は今なお俯き続ける彼女の方を向く。
「ただ、相手が人だろうが、モンスターだろうが、仲間に危機が迫っている時にやるべきことは一つだと、私は思います。それは勝ち負けとか、生き死にじゃないんですよ。だって、彼らを信じるって決めたんですよね?」
「そ、そう、ですよね………」
ブレイクにはブレイクのペースがあるというのはわかる。しかし、マイペースで生きているうちに周りの仲間はいつの間にかいなくなっていました、ということがこの世界では起こり得る以上、勇気を出して一歩踏み出すことも必要だ。たとえそれが、自分のペースから外れていたとしても………
「私は帰ります。この調子なら試合には出られますよね。期待してます」
「…………………」
そう言い残すと私は救護院を出た。すっかり暗くなり、街灯に照らされる道を私は影を踏むようにして歩いた。
約一週間後、【爆滅】対【喰龍射】の試合が始まった。私はその試合を先月同様、五階にある教室から冷淡な目で眺めていた。
「ほら、レイもこれ食べる?凄いおいひいよ!」
隣ではアルシャが学園の屋台で売られていた、ホットドッグのようなものを食べていた。
「いえ、私は遠慮しておきます」
私は不安だった。『爆滅』がこの試合に勝つことができるのかという不安も勿論あるが、それ以上にブレイクにはあの日のことがトラウマになってしまっているのではないかと考えていた。
(あの時は少し、言い過ぎたかな)
「ちょっとリゼス!それボクのなんだけど!」
「早い者勝ち」
隣ではそんな私の気も知らず、アルシャとリゼスが食べ物の取り合いをしていた。
(まあ多分ブレイクは勝てないわね。次の作戦考えないと)
アルシャが買ってきた食べ物に手を伸ばし、私はそんなことを考えていた。
---ブレイク視点---
心臓の鼓動が止まらない。そもそもこんなに大勢の前に立っているだけでもやっとなのに。
「おい!作戦通りやるぞ!」
「大丈夫?ブレイク顔色悪いみたいだけど?」
怪我から回復した二人が私の方を向いた。どうしてこの二人はこんなに強いの?それにレイだって、なんであんなに怖いモンスターに一人で立ち向かうことができるの?私がおかしいのかな。私が弱いだけなのかな。
「だ、大丈夫です」
そう言うことしかできなかった。全然大丈夫じゃないのに。本当は全部投げ出して、この場から逃げたい。でも二人が失望する顔は見たくない。こんな矛盾を抱える私は、わがままなのかな。
『それでは…………始め!!』
『喰龍射』の動きは素早かった。ブラックパールを前衛に、ウルシュをその後ろ、そのすぐ後ろにファントンという配置につくと、ウルシュが前衛と後衛を隔てる円形の壁を展開した。今壁の後ろでは、見えないがおそらくファントンが龍落曲射を放つための魔力をその弓に貯めている。その魔力が溜まってしまったらゲームオーバーだ。私たちのパーティーでは防ぐことができない。だから一刻も早く前衛を倒して、あの壁を壊さないと。
「くらえええ!!」
ユーリウスがそのハンマーから火の玉をブラックパールに向けて放った。それと同時にジョルトはその火を追いかけるようにして彼女に向かっていく。私はそれを見てすかさず風魔法を送ることで火の威力を高めた。しかし、それを華麗に避けたブラックパールは壁から一定の距離を保ち続けている。
「オラ!オラ!オラ!」
ジョルトが戦っているブラックパールに向けて火の玉を何度も放つが彼女は避けることに専念しているようだ。攻撃は一切行ってこない。今回は完全に時間稼ぎに回っている。
「クソ!」
ジョルトがその剣をなんとか彼女に当てようとしているが、彼女は先程からその場から一歩も動くことなく避けている。そのせいで、ユーリウスの火の玉が壁の同じ場所に何度も打ち付けられていた。
(ここまでは計画に沿ってる。でも、時間が……………)
壁の同じ箇所に何度か火の玉が打ち付けられたことを確認すると、ユーリウスは壁を砕きに前に出た。作戦ではジョルトがそれとなく自然にブラックパールをその場に留まるように誘導しつつ、いつのまにか彼女が避けた火の玉によってできた壁の脆い部分をユーリウスが砕くということになっていた。しかし………
「ッ!?」
それを見破っていたのか、ブラックパールはジョルトを壁の脆くなっていた場所に蹴りつけ、氷属性を付与した剣でその身体と壁を一瞬のうちに溶接した。それを見たユーリウスは壁を砕けなくなってしまう。
「て、てめえ、汚い真似しやがって」
「そっちだって姑息な真似してたでしょ?」
ダメだ。完全に作戦を読まれてた。時間が迫ってくる。このままじゃ龍落曲射が壁の向こう側から打ち出される。
「オラアアアア!」
ユーリウスは諦めずにやぶれかぶれにブラックパールに向けてハンマーを振るった。ドカンドカンと強烈な爆発音が鳴り響く。私もなんとか支援しようとするが風属性の魔法で巻き上げてしまってはジョルトにまで被害が及んでしまう。
(どうしよう、どうしよう)
拘束されているジョルトを助けにいくべき?でも、そんなの作戦にはなかったし、でもこのままじゃ。
「チッ」
悩んでいるとユーリウスがブラックパールをハンマーで飛ばしていた。しかし、それでも致命傷は与えられていない。
「ブレイク!もう時間がねえ!」
そう言ったユーリウスはジョルトに向かって火の玉を一発放った。それを受けて、氷の拘束から解放されてジョルトはすかさず壁に剣を突き刺し、脆くなっていた部分から魔力を抜き出すことでさらに脆い状態にしていた。
「お前にできることを考えろ!!……クソ!!」
大きく振りかぶったユーリウスはその攻撃をかわされ、ブラックパールの素早い動きによって足元を凍らされ動きを封じられてしまった。私にできることってそんなのたかが知れてる。それはユーリウスもわかってるはずなのに。
「刺し違えてでも!!」
壁から魔力を吸い上げていたジョルトが、壁から剣を抜き、ブラックパール目掛けて突っ込んだ。
「鬱陶しい!!」
彼は吸い上げた魔力を利用してブラックパールに重い一撃を上段から喰らわせた。しかし、素早さが売りのブラックパールは中段からの横薙ぎでジョルトにダメージを与え二人はすれ違うようにして倒れた。
「クソッ動けねえ!」
ユーリウスが何度も氷から足を抜こうとするが氷はびくともしない。
(もう、駄目だ。ブラックパールは倒せたけど時間がない、このままじゃ飲み込まれる)
そう思った時、壁の付近で倒れていたジョルトが倒れながらも壁に剣を突き刺し、壁から魔力を吸い取っているのが見えた。
(どうして、そこまでするの?もう勝敗は決まってるのに)
その姿を見ていたらレイに言われたことをふと思い出した。あの時の情景が浮かぶ。
『仲間に危機が迫っている時にやるべきことは1つだと思います。それは勝ち負けとかじゃないんですよ』
……………そうか。ユーリウスもジョルトも勝てるか勝てないかなんて考えてないんだ。ただ仲間のためにできることだけを考えてたんだ。
(今の私が仲間のためにできること………………)
もしかしたら上手くいかないかもしれない。失敗するかもしれない。でも、あの時の絶望感に比べれば、こんな試合なんでもない。そうだ!失敗したって、この試合で死ぬことはない。
「【暴風波】」
拳をギュッと握りしめ、小さくそう唱えると、自分を台風の目になるように周囲に風魔法で渦を巻く風を発生させた。
「ユ、ユーリウス!」
動けないユーリウスと目を合わせ声をかけると彼はこちらを向いてニカっと笑った。
「何発耐えられる?」
「な、何発でも!ど、どんと来いです」
私は風の勢いを更に強め、準備態勢を整えた。その風があまりにも強く私のベレー帽はどこかに飛んでいってしまった。でも今は、そんなの関係ない。
「そうこなくっちゃなあ!!いくぜえええ!!」
目を見開いたユーリウスが足を凍結された状態のままこちらに向かって何度もハンマーを振った。そのハンマーからは火の玉が6つこちらに向かって飛んできた。
『あいつら何してんだ?』
『さあ?もう諦めたんじゃないか』
観客から聞こえる声を無視して、私は全集中力をその火の玉を絶やさず更に威力を高めることに注ぐ。私の周囲を回る風に乗った火の玉は、私の周りをぐるぐると回りながらその大きさを増していった。
集中力を魔法に注いでいると、前方の壁の上に三本の矢が同時に浮かぶのが見えた。
(くッ来る)
その矢は空中でビリビリという音を出すと、青い龍の頭の形をした魔力の塊へと変化した。ダムから落ちる水のようにして、横並びに三本の巨大な龍の頭が対戦場を覆うようにして流れ落ち、こちらに迫ってくる。
三本の線となって対戦場を覆う龍が迫る。逃げ場はない。しかし、私はそのことは気にしない。とにかく今はこの魔力操作に全集中しなければ。
「てめえの龍と俺の爆発、どっちが強えのか勝負といこうぜえええええッッ!!!」
ユーリウスが掲げたハンマーはボコボコと赤い魔力を貯めた。そして………………
「くらええええええええええええええええええええッ!!」
ユーリウスは龍が迫るのとほぼ同時、自分の足元に向かってハンマーを振り下ろした。とてつもない爆音と共に、フィールドの真ん中が爆発に包まれた。
三本だった龍の頭はユーリウスの爆発のおかげで、真ん中の一本が消失。しかし、残りの二本は軌道を変えずにフィールドの両端を直進してくる。私は風を周囲に纏ったままその龍とすれ違うようにして前方の壁に向かって駆け出した。
「はあ、はあ、はあ、はあッ、」
風魔法を操りながら、その風に乗る火の玉を調整するのはとてつもない集中力が必要だった。残った龍の頭二つは追尾型だ。私とすれ違った二対の龍は後ろで方向転換しこちらに向かってくる。
(あの龍に飲み込まれる前に、壁の向こうの二人を倒さないと!!)
怖かった。でも走るしかなかった。倒れているユーリウスを超えると私は、走りながら彼から託された火の玉を壁に向かってぶち込んだ。
(まず一発!)
壁の脆くなっていた場所に放ったがまだ壁は壊れない。しかし、そのひび割れからすると確実にダメージは蓄積されてる。
「ブレイク!中で壁の補強を行なってる。一気に叩くんだ!!」
壁の魔力を最後まで吸い上げていたジョルトはその言葉を私に託して気を失った。
(なら二連続で!!いっけえええ!!)
ぐるぐると私の周囲を回る火の玉二つの威力を上げると、風の渦の中から二つ一気に射出した。
ドカンという爆発音にも似た音が響くと壁は一気に崩壊し、壁のすぐ内側で補強していたウルシュ諸共吹き飛ばした。
(あと一人、でも後ろにはもう龍が)
私は尚も止まることなく走り続けた。あとはファントンを倒せばいいだけだ。しかし、ブルブルと震えていた足は転がっていた爆発の破片につまずき、私は転んでしまう。その時すぐ頭上を矢がかすめた。
(あ、危なかった)
すぐに体勢を立て直し、矢をこちらにつがえるファントンに向かって走り出す。
「そこで止まれ!!次は外さーーー」
「止まりません!!」
彼の放った魔法の矢は私の太ももに突き刺さった。痛い。すごい痛いけど、痛みをグッと堪え前に進む。ここで止まるわけにはいかない。
「くっ、来るな!!」
彼の言葉を無視して走りながら、残った三つの火の玉を一つに集約した。巨大な火の玉は私の周りで回転しその速度を急速に上げた。ファントンが放つなけなしの魔力によって練られた魔力矢は私の周りを回る巨大な火の玉によって弾かれた。
「こ、これで、終わりです」
私は手を前に出すと、その巨大な火の玉を尻もちをついていたファントンに向かって射出した。
彼に火の玉が当たるのとほぼ同時に私も地面に倒れた。私の上をかすめるようにして二対の龍が空へと消えて行くのが見えた。
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(え……勝っちゃった………………)
試合を見ていた私は驚愕した。まさかブレイクがあそこまで動けるなんて。正直彼女には無理だと思ってた。それなのにあのトラウマを乗り越えるなんて。終盤の立ち回りなんか見てて感動した。
「レイ!!勝ったよ爆滅!早くお祝いに行こう!!」
途中から食べることも忘れて試合に見入っていたアルシャが興奮気味にそう言った。
「そ、そうですね」
第一棟から出て対戦場まで歩いていると、地面に見覚えのあるベレー帽が落ちていた。私はそれを拾い上げ、ぱんぱんと土を払うと、ブレイクの元まで駆け寄って行った。
「おめでとうございます。ブレイク」
地面にうつ伏せのまま倒れ込んでいるブレイクに話しかけると、私はしゃがんでベレー帽をその頭にのせた。
「わ、私がやるべきこと。やれてましたか?」
彼女は倒れ込んだまま、そんなことを聞いてきた。
「ええ。完璧だったと思います」
私の答えを聞いた彼女がベレー帽を両手で押さえながら、控えめに笑ったのが見えた。倒れた彼女を担いだ私は、対戦場を後にする。学園には大歓声が溢れていた。




