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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第十九話「ボディランゲージは偉大」

 横になる負傷者達の寝息が聞こえる中で、私達はユティの過去話を黙って聞いていた。日は完全に沈み、街灯の光が優しく窓から差し込むと、帷が完全に下ろされている事に気がついた。


 耐えられなくなったのかアルシャが『うっ、うっ』とうめきながら鼻をすする音が聞こえる。隣にいるリゼスは『なんか、残念だね』とつぶやいた。私が言うのもなんだが、彼女には同情という概念が備わっているのだろうか?いや、しかし、今までの彼女の行動から察するに、彼女は彼女なりに精一杯同情しているのかもしれない……かもしれない。今度彼女にはお世辞とか、建前とか、社交辞令とかを教えたほうがいいのかも。



「なんて言うか、その………ちょっぴりダーク、ではなくないですか?」



 リゼスのことを言っておいてなんだが、私がこの話を聞いて素直に思ったことは、『暗すぎる!』だった。私もそこまで人に同情するタイプじゃない。アルシャやリゼスにも深く話を聞けば、こんな暗い話が飛び出してきてしまうのだろうか。



「確かに、ちょっぴりではなかったね。ごめんごめん。でも、これでもバッサリ、グロい部分は切って話したんだよ!」



 彼女がこの世界に来た理由はだいたい分かった。やはり彼女もアルシャやリゼスと同じで、死んだからこの世界にやってきたのだろう。ってことは私もやっぱり死んでるってこと?それはないと思いたいが。



「じゃあやっぱり、ユティはこの救護院に思い入れがあるんですか?」



 彼女は前世で戦争孤児だった。と言うことはこの世界の孤児達にもやはり何か思うことがあるのだろうか?



「いや、特にないかな。そもそも私を預かってくれる場所がここじゃなかったら、回復魔法なんて使ってなかったと思うし。それこそ、惰性でこの世界でも生きてるって感じだよ」



 私は意外だと思った。今までのユティのイメージはまさに聖女だった。街のみんなに愛されて、子供達も大好きで、人を癒す力に長けている。そんな彼女には、こんなバックボーンがあったなんて。



「もう随分と遅くなちゃったね。レイちゃん達も休日出勤お疲れ様ー。また明日、学園で会おうね!」



 そう言うとユティは立ち上がり、救護院の奥へと消えて行ってしまった。

 取り残された私たちは、ゆっくりとその話の余韻におぼれながら救護院を後にした。



---




「ごめんね。レイ。ボク、もっと先に伝えるべきだったよね」



「なんかごめん、レイ」



 家までの帰り道、二人は私に向かって謝ってきた。二人の気持ちもわかる、この世界に突然やってきた私に、急に沢山のことを教えるべきではないと思ったのだろう。その配慮の気持ちはうれしい。



「二人が謝る必要なんてありませんよ。私達は、事故に遭ったみたいなものですからね。何とか頑張るしかありません」



 私は二人に微笑みかけながらそう言った。

 しばらく歩いていると、突然、アルシャが私の手を握ってきた。



「え!?ちょっ、急にどうしたんですか!?」



 あまりにも急な出来事だったので、私は少し動揺してしまう。気がついたら、リゼスも私の手を握っていた。



「なんだかボク、急に不安になっちゃって……」



 彼女はわずかな笑みを浮かべているが、その瞳からは確かに不安を感じ取ることができる。



「ボクたち、生きて帰れるよね…………」



 夜空に光る星々が、彼女の横顔を微かに照らす。ユティの話を聞いて、思うところがあったのかも知れない。私も少し、元の世界のことが恋しくなってしまった。大切な人がいなかったとしても、やはりあの世界が私にとっての故郷であることに変わりはない。



「大丈夫です!この黒義院冷に任せてください!絶対生きて、元の世界に帰りましょう!」



 私がアルシャに向かってそう言うと、彼女は何かを確信したかのように、私の手をギュッと力強く握った。彼女の体温が、革の手袋越しに伝わってくる。


 ここで、弱気になっては駄目だ。どんな困難が待ち受けていたとしても、それを乗り越える術は必ずどこかに転がっているはず。視野を広くして、その術を見つけ出すことができる者だけが生き残るのだ。そして、視野を広げるためには信頼できる仲間が必要だ。たった一人の人間が見ることができる世界など、たかが知れている。



「リゼスも! ですよ!」



「うん」



 左を向けば、誰よりも頼りになる彼女がいた。頭はあまり回らないし、感情表現も不器用だが、彼女は強い。私達は三人一組のパーティーなのだ。不足している部分は、他の誰かが埋めればいい。



 多少の不和は生じたが、この日、私たちの絆は一気に強固になった気がした。やはり、ボディランゲージは偉大だ。


 いつもの分かれ道まで、私たち三人はずっと手を繋ぎながら歩いた。


「ちょっと、リゼス、そんなに手を振らないでくださいよ」


「えーいいじゃん」


「ボクも振っちゃお!」




---





「ただいま戻りました」



 そう言ってドアを開けると、いい香りのするご飯が私を迎えてくれる。



「レイちゃんお帰り、今日は休日なのに大変ね。ご飯できてるわよ」

「おねえちゃんおかえりー」



 シヴィとメルヴィさんは、二人でソファの上に座っている。どうやら、シヴィが学園で習ったことをメルヴィさんに教えているようだ。


(これが微笑ましい光景ってやつね)


 その光景を横目に私は席に座る。メルヴィさんが作ってくれた料理に手をつけると、私の頭にはユティの言葉が浮かんでくる。


(『人的資源』…ね、……………このご飯すっごい美味しい!)


 ユティの言うように、私達はこの世界にとって重要な存在だ。それを勇者と捉えるか、救世主と捉えるか、それとも人的資源と捉えるかは扱われ次第だろう。現状、私達は衣食住を無償で提供され、学園にも通わせてもらえている。まさに、救世主扱いだ。だが、学園を卒業して、この都市を出たらどうなる?私達には、一体どんな運命が待ち受けているのだろうか。


(でも、そんな先のことにまでリソースを割く余裕はないわね………………この野菜めちゃうま!)


 何もなければ、学園を卒業してこの家ともおさらばだ。シヴィやメルヴィさん、そしてシストルさんの事は好きだ。私にとてもよくしてくれている。彼女達の目を見ればわかる、彼女達の行動は純粋な親切心からくるものだ。国はおそらく裕福な家庭から、転拡者の受け入れ先を選定しているのだろう。

 でも、だからこそタチが悪い。この国はよくもまあこんなシステムを考えたものだ。これでは、この世界に愛着が湧くに決まってる。彼女達を守るために、自分が持つ特別な力を使いたいと思うのも当然だ。


(ますます、女帝陛下に腹が立ってきたわね…………………このデザートもほっぺたとろけそー)



 イライラと幸福感をセットで味わいながら、私は夕食を食べ終わった。食器を台所へ下げようとすると、メルヴィさんが声をかけてきた。



「レイちゃーん、代わってー、食器は私が下げておくわ」



 どうやら、シヴィの話に聞き飽きてしまったようだ。



「わかりました」



 そう言うと私はメルヴィさんと席を交代する。シヴィの隣に座ると彼女が学園での話をたくさんしてくれた。彼女にも学園で仲の良い友達ができたそうだ。



「でねー、そしたらマリーがねーー」



 私は少し、シヴィが学園でうまくやっていけるのか心配だった。家に転拡者を招いているわけだし、あることないこと噂されてしまっているのではないかと。しかし、それは杞憂だったようだ。彼女はこんなにも素直で優しい子なのだ、友達ができないはずがない。

 私の隣で喋り続けていたシヴィは、いつの間にやら私の膝に頭を乗せながら眠りこけてしまっていた。



「この私にベッドまで運べってこと?」



『まったく……』と思いながら彼女の小さな体を持ち上げる。子犬のように暖かい彼女の体温を背中で感じながら、私は二階へと向かう。



「メルヴィさん、シヴィ寝ちゃったみたいなのでベッドに寝かせておきますね」

「ありがとう、レイちゃん」



 台所で洗い物をしていたメルヴィさんにそう伝えると、私は階段を登り始めた。




 彼女をベッドに寝かしつけた私は、自室のベッドに倒れ込むようにして横になる。

 仰向けになった私は、暗い天井を見ながらユティの話について思い出していた。

 彼女の話に出てきた国では戦争が行われていたようだが、その国名は私のもといた国では聞いたことのない国名だった。


(ってことはつまり、転拡者は異なる世界、異なる時間軸から呼び寄せてるってこと?)


 あまりに膨大なスケールに頭が混乱してしまいそうになる。異なる世界から呼び寄せている可能性が一番高そうだが、もしかしたら私が今いるこの宇宙の異なる世界線から呼び寄せている可能性もある。いわゆる、パラレル宇宙論というやつだ。それとは別に、私が元いた宇宙のどこかにこの星が存在している可能性もある。


(考え出したらキリがないわね、これは…………)


 考えても答えが出ない事には、リソースを割くべきではないと判断した私は、直近の問題へと思考を移した。


 現在救護院で行なっている魔力吸収力向上作戦だが、順調に進んでいると考えられる。手応えとしては、回復魔法発動までの時間短縮、回復範囲の拡大などが挙げられる。回復魔法発動の時間が短縮できたということは、発動にかかる魔力を素早く吸収できるようのなったということだし、回復範囲の拡大は純粋に回復魔法の扱い方が上達しているということだ。


 しかし、問題点もある。ユティの様子が少しおかしい気がするのだ。過去の話をさせたせいかもしれないが、少し目に虚ろな雰囲気を漂わせていたような気がする。単純に、回復魔法のかけすぎによる疲労だといいのだが。


(彼女のおかげで魔力吸収力は向上したんだし、後味悪く終わらせたくはないわよね………)


 彼女との契約期間終了までは残り約一週間ほど。今月末にはパーティー戦も控えている。先月ボコボコにされた私達のパーティーが選ばれる可能性はないが、ユティのパーティーが選ばれる可能性は十分にある。彼女達だって万全の状態で試合に挑みたいはずだ。


(明日、学園でユティのパーティーメンバーに救護院を手伝って貰えるように頼んでみようかしら……)


 ユティがああ見えて結構頑固なことは、ここ三週間ほどの付き合いでよくわかった。彼女自身パーティーメンバーに助けを求めにくいのかもしれない。それなら、他のパーティーである私たちがそれとなくヘルプを出してあげようじゃないか。


 頭の中で整理をつけると、私は眠るために、スマートスピーカーに話しかけた。



「ボド、明日は早めに起こしなさい」


『リョウカイシマシタ!レイサマ』



 ボドは私のノンレム睡眠を把握しているのか、眠りがちょうど浅くなったところで声をかけてくれるので、朝スッキリ起きることができる。最近までは、ただの喋るポンコツ無機物だと思っていたが、結構便利な機能も備えているらしい。



「それじゃ、おやすみ」


『オヤスミナサイ、レイサマ」








 翌日、スッキリとした状態で目を覚まし、学園まで向かうと校門の前で、アルシャとリゼスに鉢合わせた。いつもは教室で集合しているのでこれは珍しいことだ。



「おはようございます、二人とも」


「おっはよーレイ!」



 アルシャは朝から元気いっぱいだ。



「おはよ」



 リゼスは相変わらずの無表情だが、目は覚めているようだ。



「今日は珍しいですね、二人がこんなギリギリの時間なんて」



 私は毎朝、秘密の特訓場で素振りや魔力操作の練習をしてから学園に向かうため、いつも授業開始ギリギリになってしまう。そのため登校はいつも一人なのだが、二人はどうしてこんな時間に登校しているのだろうか。



「いやー、今日は寝坊しちゃってさー」


「私も」



 どうやら二人は寝坊だったようだ。

 二人にも教えてあげたい、私の隣にぷかぷかと浮かんでいるスマートスピーカーの存在を。まあ……『私の虚機友導、喋るし、朝起こしてくれるんですよー』と言ったところで、何いってんだコイツはという目を向けられるだけなので、絶対に口外はしないが。そんなことで二人の信用は失いたくない。



「それでは、一緒に教室に向かいましょう!」

「「おー!」」



 なんとも緩い空気で校門を抜けようとしたその時、第一棟の方から二人組がこちらに向かって走ってくるのが見えた。



「あの二人って………」



「あれはユティのパーティーメンバーのジクフリーダとノエラだね。どーしたんだろう?」



 徐々に近づいてくる二人の顔には焦りの色が見える。私達の手前で止まった二人は、息を切らしながら話しかけてきた。



「はあ、はあ、…………ねえ!ユティが学園に来てないんだけど!あなた達何か知らない?」



 そう言ったのは、ノエラ•ボーンだった。


(まさか、ユティに何かあったのかしら?)



「ボ、ボクたちは、何も知らないよ!」



 彼女たちの焦りに感化されてしまったのか、アルシャも焦り気味に答えた。


(アルシャ、それじゃあ遅刻してきた私たちが、ユティに何かしたみたいじゃない)


『やれやれ』と思った私は、アルシャがこれ以上変な誤解を招かないよう、ノエラとジクフリーダに言った。



「もしかしたら、まだ救護院の方にいるのかもしれません。連日、大量の負傷者の回復にあたっていたので……」



「え?ユティは人数少ないし、全然大丈夫だって言ってたのに………」



 おいおい、どうやら彼女はパーティーメンバーに嘘をついていたようだ。彼女たちに心配をかけさせないためだろうが、それで自分が体調を崩してしまっては元も子もない。



「わかりました。とにかく救護院の方へ向かってみましょう」



「「わかった」」



 二人に向かってそう言うと、学園の門を再び抜けて、私達五人は救護院へと向かった。












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