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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第十七話「伏せていた真実」



 鼻腔に甘い香りが漂ってきた。この匂いは、昨日のスープだろうか。徐々に私の意識が覚醒してくる。

 目を覚まし、机の上を見るとそこには匂いの発生源であるスープが置いてあった。

 私は軽く背伸びをして、ボドに声をかけた。



「ねえ、今何時?」



 ここ最近では、ボドは私のスマートスピーカーのような存在になっている。友達ではないけど、ちょっと便利な存在、みたいな?まあ、無機物である事には変わりないけど。時間を聞けば教えてくれるし、百までなら数も数えることができる。まあ、それ以外には何の役にも立たないけど。


『タダイマ、ゴゼン十時デ、アリマス』


 私のスマートスピーカーことボドは、私に現在の時刻をお知らせしてくれた。



「そう、午前十時ね………って学校!?」



 午前十時と聞いて、思わずベッドから飛び出した私は、冷たい床を足の裏で感じると、ふと我に帰る。



「あ、今日は休みか……」



 一体どこの神様が七日間で世界を創造し、最後の一日だけを休みにしたのかは知らないが、この世界では週休一日制が定着しているらしく、今日は学園は休校日になっている。先週からずっと修羅場が続いていた私は今日が休みだということもすっかり忘れてしまっていた。正直休みがもっと欲しいところだが………


(学園が休みでも、救護院には午後から行かないといけないのよね……)


 救護院にははっきり言って、行きたくない。自分から頼んでおいて、なんて身勝手なと思われるかもしれないが、先週から続くショッキングな映像が未だに頭の中からこびりついて離れないのだ。

 心底、医療従事者は凄いと思った。

 私も何回もあの光景を見れば慣れるのだろうか。


(慣れたくないなあ)


 しかし、わがままも言ってられないだろう。魔力吸収力を上げるには地道に回復魔法を使うしかないのだ。

 私は頭の中で、ヘルミナの顔を思い出し、それをけちょんけちょんのぎったんぎったんにするイメージを浮かべた。


(よし!ちょっとやる気出た!)


 ややネガティブとも思える動機を体へと注ぎ込むと、私は早速一階へと降りた。朝、私のことをシヴィが起こさなかったということは、どこかに遊びにでもいっているのだろうか。



「おはようございます!」



 珍しく朝からソファに座っているシストルさんに挨拶をすると、先ほど部屋に置いてあったスープを持って机へと向かう。



「おはよう、レイさん。最近大変みたいですね?」



「え?どうしてご存じなんですか?」



 机の上にスープを置くと、私はそれをスプーンで口に運ぶ。どうして、シストルさんが私達が忙しいことを知っているのだろうか。



「最近、この都市の近郊で故機慟諦がいつにも増して暴れていると聞いてね。シヴィが昨日のレイさんは何だか元気がないと言っていたから、何か関係があるのかなあ、と勝手に推測してみただけ」


(なんだ、当てずっぽか)


「当たってた?」



 シストルさんは、新聞のような紙を広げながら聞いてきた。そういえば彼は、歴史研究をしていると言っていたし、一見なんの関係もない点と点を線で結ぶのが得意なのだろうか。



「はい。当たってます。まあ、直接関与してるわけではありませんが。実は今、隣の地区の救護院で修行をしていて」



「なるほど。そこに負傷した転拡者がたくさん運ばれてきたってとこか」



「はい。そんな感じです」



 頭のいい人との会話は、テンポが早くて気持ちがいい。

 スープを食べ終わった私は、食器を台所へと持っていくが、シヴィだけでなく、メルヴィさんの姿も見えない。



「二人はどこに行ったんですか?」



「二人なら買い物に行ったよ」



「そうですか」



 シストルさんとは、あまり話す機会がないので、ちょっとだけ気まずい。しばらくの間、部屋の中を沈黙が包み込んだ。



「今日もこの後、救護院に行くのかい?」



 シストルさんは未だ、新聞のような紙に線を引きながら私に質問した。



「はい。そのつもりです」



「そうか。………回復魔法というのは、確かに便利で強力な魔法だよ。その魔法のおかげで何人もの命が救われてきた。でも、だからこそ、私はその使い方を誤ってはいけないと思う。レイさんも、回復魔法を使う時には慎重にね」



 シストルさんは、目の傷をこちら側に向けて、作業を進めながらそう言った。



「は、はい。もちろんです」



 この時の私は、気づいていなかった。回復魔法は魔力吸収力を上げるための手段でしかないと考えていた。彼の言葉の真の意味に、そしてこの世界の回復魔法、それを使用する者に重くのしかかる責任に気が付いたのは、救護院に戻ってからだった。



---



 午後の時間までいつもの特訓場で一人魔力操作の練習をしていた私は、ボドを使って時間を確認した。



「Hay ボド 今何時?」



『タダイマノジコクハ、ショウゴデス』


 一体何を基準として彼が時間を刻んでいるのかは不明だが、部屋にある時計で何度も確認した。彼の時間は正確だ。

 そろそろ時間だと思った私は、練習を終え救護院へと向かった。


(特訓場に来たら二人ともいると思ってたのに……二人は今日、救護院に来てくれるのかしら)






 救護院に着くと、扉を開けて中へと入る。いつも通り、救護院の中は綺麗さっぱり、昨日のことなど無かったかのように片付いていた。シストルさんの言葉が胸に引っかかっていた私の中に、ふとある疑問が湧く。


(…………………あれ?これって何かおかしくない?)



「やあ!レイ」

「レイ、よく来た」



 扉の後ろに隠れていたのか、アルシャとリゼスがひょっこり顔を出した。



「こんにちは。あの、今更なんですけど、昨日ここにいた人達は一体どこに消えたんですか?」



 元の世界では感じることのなかった違和感。今日まで怒涛の修羅場ラッシュの影響と思考力のほとんどを回復魔法を効率よく使用することに費やしていたため気が付かなかったが、この光景はおかしい。

 いくらユティが、全回復させたとはいえ、その後の体調確認などがあるはずではないのか。次の日には綺麗さっぱりいなくなっているなんて不可解だ。


 その疑問に、答えてくれたのはユティだった。



「こんにちは、レイちゃん。ここにいた人達だけど、いつも朝一で戦地へと戻ってるわ。今更気づいたのね」



 彼女は少し笑いながら答えた。



「え?」



 私はその事実に驚かされる。あれだけの重傷を負った人たちが、一夜で戦線復帰なんて元の世界ではあり得ない。いくら体が万全の状態になったからって、心まで回復することは直ぐにはできないはずだ。腕や足を失っている人なんて山ほどいた。首から出血しながら、意識を失うことができない人もいたのだ。



「あれだけの重傷を負った人たちが、一夜で戦線復帰できるとは思えないのですが……」



 私はその疑問をユティへとぶつけた。



「彼らの身体は私達が完全に魔法で治したでしょ。だから、こういうこともできちゃうの」



「いえ、私が言っているのは身体の問題ではなく、心の問題です」



 難しそうな顔をしているユティに向けて、私は言った。あれだけ苦しんでいた転拡者達が、体が元気になれば心も元気になって、直ぐに戦線復帰できるものだろうか。それとも、疑問に思う私がおかしいのか?ファンタジーの世界ではこれが普通なのか?



「………魔法の力で、心まで癒せればよかったんだけどね。時間はまだあるし、少しはなそっか」



 哀愁をその瞳に宿し、そう言った彼女は、転拡者達が無理をしてでも戦線復帰をしなければいけない理由について語ってくれた。


 現在この都市の外で戦っているのは、主に転拡者協会の人間だ。彼らは、協会から依頼を受け、その依頼としてこの戦いに参加している。ここまでは別に普通のことだ。自分で選んだ依頼を受けて、クリアできれば報酬を得る。


 しかし、転拡者協会にはあるルールが存在している。それは、一度受けた依頼は達成するまで、放棄することができないというものだ。どうして、こんなルールができてしまったのかについては、彼女も知らないそうだ。だが、このルールのせいで、死にそうな思いをしたとしても、転拡者は死ぬまでその依頼を放棄することはできない。もし、放棄したらどうなるのか?それについては聞くことは、彼女も怖くて……いや、負傷した転拡者に直接そのことを聞くのは憚られたのだろう。そのため、彼女もそれについては知らないそうだ。


 だが、その内容については、毎年治療した負傷者達が全員次の朝にはいなくなっていたことから察することができるだろう。再び戦って再び負傷した方がまだマシだと、彼らは考えているのかもしれない。

 この話を聞いて、私にはある疑問が浮かんだ。



「それなら、心の準備ができるまで、完全に治さなければいいんじゃないですか?止血するだけとか、そうして彼らの心も回復したら、改めて全回復させてあげればいいのでは?」



 私が質問すると、椅子に座ったユティが答える。



「それはできないんだよ、レイちゃん。この世界の回復魔法も万能じゃないんだ。レイちゃん達は気がついてないみたいだけどね。回復魔法で治すためには、なるべく早く魔法をかけてあげないといけないの。例えば、腕を失った人がいたとして、その人の腕をまた生やすには、私でも二日以内に回復魔法をかけることができないと、もう二度と生やすことはできないんだよ」



 ここで明かされた新事実に私は動揺を隠せなくなる。確かに、今までアルシャが回復魔法をかけてくれていたのは特訓のすぐ後だったため、回復魔法にそんな制限があるなんて、今まで思いつきもしなかった。過去に一度、リゼスとの特訓でかなり大きな怪我をしたことがあった。アルシャがその時回復魔法をすぐにかけてくれていなかったらと思うとゾッとした。



「つまり、回復魔法には期限があるってことですか?」



「そういうこと。だから、こっちの勝手な見解で、中途半端に治すことはできないんだ」



「そ、それならどうして彼らは転拡者協会を抜けないんですか?他の協会に所属できなくとも、普通にこの世界で暮らすという選択肢もあるはずですよね?」



 私がユティに対して質問すると、彼女は私の後ろにいるアルシャとリゼスの方を向いて言った。



「あなた達、話してあげてないの?」



 その問いに対し、アルシャが答える。



「やんわりとは伝えたよ。でも、レイはこの世界に来たばかりだったし、ボクもハッキリと伝えるべきかどうか……決められなくて」



 アルシャはとても小さな声でそう言った。彼女は何だか申し訳なさそうな顔を私に向けている。


(何?隠し事があるってこと?アルシャの顔を見る限り、悪意のある隠し事ではないみたいだけど)



「それならいい機会だし、ここで説明するね。……ズバリ!この世界で協会に属する事なく、普通に暮らす選択肢があるのかについてだけど、…………それは多分ないね。私たちがこの世界に転生した理由は聞いた?」



「はい。この世界で、魔法を使える存在として呼び出されたんですよね。それで、人類の領土拡大に貢献したり、モンスターを倒したりするってことですよね?」



 私は、アルシャから聞いていた情報を彼女に伝えた。私達はこの世界に召喚された、おとぎ話の勇者みたいな存在だと認識していたが、違うのだろうか。



「ほぼそんな感じで間違い無いよ。でもさ、それってよくよく考えて見ると、私達って、ただの無尽蔵な人的資源だと思わない?」



「…………………」



 私の頭の中では、彼女の言葉が何度も何度も繰り返されていた。『人的資源』……どうして今までこの事に気が付かなかったのだろうか。この世界での非日常体験にどっぷりと浸かっていたから?それとも強くなることに精一杯だったから?それとも、シヴィやメルヴィさんとの生活にどこか満足していたから?気が付かないふりをしていたのか………


 そうだ。よく考えて見れば、この国の王様は、他の世界で死んだ魂をこの世界に転生させることができる。それはつまり、繁殖行為無しに、この国の戦力を増やすことができるということだ。他国にとってはとてつもない脅威になりうる。

 しかも、元の世界である程度の教育を受けている者なら、この世界の文化や価値観を少し教えてやるだけでいい。確か、ガブリエーレは転拡者の人数は王家の人間が決めていると言ってた。それは、つまり転拡者の数は調整可能で、私達は幾らでも代えが効く存在ということになる。学園のやけに広い教室も、きっと昔はもっと多くの転拡者が一年のうちに転生してきていたからだと推測できる。



「だから、結局。私達は幾らでも代えの効く存在だっていうこと。転拡者協会を抜けたとして、私たちに食いぶちは与えられるのかな?何のペナルティも無しに、この国の上層部がほっといてくれると思う?

 勇者候補を召喚したのに、そいつらをほったらかしにしておくなんてあり得ないでしょ。それに私達が持ってる虚機友導は他国の人達が血眼になって欲しがってる。

 みんなそのことに、薄々気がついてるから、転拡者協会より比較的安全なアミナ帝庇団に入ろうとしてるんだよ」



 私はバカだ。どうして、今まで深くこの事について考えなかったのだろうか。アルシャとリゼスだって、元の世界に戻りたいだけじゃなかったんだ。この世界で、無駄死にすることを避けるために、アミナ帝庇団に入ろうとしてたんだ。私が思っていたよりも、転拡者協会に入る事はリスクが高い事なんだ。


 私がその事に気がついた時、救護院の扉が叩かれた。



「じゃあ、今日も惰性でお仕事しよっか?レイちゃん」





 今日、運ばれてきた転拡者の数は昨日よりも少なかった。中には昨日見た顔の人もいた。数が少ないということは、負傷者が少なかったということなのだろうか、それとも…………この救護院からでは、それを確かめる術はない。


 日が沈み、夕焼けが淡く差し込む窓際で、私達四人はへたり込んでいた。達成感ともいえる感覚を覚えるが、この感覚を素直に喜ぶべきなのか、今の私にはわからない。



「ユティは、どうしてこの世界に?」



 一仕事終えた私は、無性にユティのことが知りたくなっていた。何度もこの修羅場を共に潜り抜けたことで、親近感でも湧いたのかもしれない。



「ちょっぴり、ダークなお話になるけどいいかな?」



 そう言うと彼女は、夕焼けを反射する綺麗な金髪を左手で掻き分け耳にかけると、彼女の過去について語り出した。











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